2012 Fiscal Year Research-status Report
卵巣明細胞腺癌におけるDNAチェックポイント機構制御の解明と新規治療戦略の構築
Project/Area Number |
24592525
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
重富 洋志 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (20433336)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 浩 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (40178330)
吉田 昭三 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (40347555)
川口 龍二 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (50382289)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 卵巣明細胞腺癌 / 癌化 / チェックポイント / 細胞周期 / claspin / HNF-1beta |
Research Abstract |
卵巣明細胞腺癌の抗癌剤耐性は、その予後が悪い要因の一つとなっている。これまで明細胞腺癌では細胞周期異常をきたしていると報告されていた。我々の研究では明細胞腺癌に特異的に過剰発現する転写因子HNF-1betaがDNA損傷チェックポイント機構を制御していることを明らかにした。明細胞腺癌の細胞株であるTUOC1のHNF-1betaをstableにノックダウンした細胞株を作成し、また明細胞腺癌でありながらHNF-1betaを発現していない細胞株ES2にHNF-1betaを導入し強発現するstable株を作成した。両者に発現する遺伝子の差異を比較するためマイクロアレイによる網羅的解析をおこなったところ、HNF-1betaの有無により細胞周期、チェックポイント関連遺伝子の発現に差を認めた。細胞にDNA損傷が加わった際にはG1期、S期、G2期、M期のチェックポイント機構が働く。それぞれのチェックポイントに特異的に作用する抗癌剤を上記細胞株に添加したところG2期チェックポイント機構に異常をきたしていた。HNF-1betaがchk1タンパクのリン酸化を持続させ、異常な細胞周期の停止をもたらし抗癌剤耐性をきたす機序が考えられた。持続的なチェックポイント機構の活性化はアポトーシスへの誘導が阻害されるだけでなく、遺伝子不安定性につながる。これが子宮内膜症からの癌化機序の一つの可能性がある。今後は、マイクロアレイによって同定された細胞周期関連遺伝子からこの持続的なchk1タンパクのリン酸化をきたす機序を明らかにする。またchk1 inhibitorを使用した新規治療戦略について検討する
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
DNA損傷によりHNF-1betaがchk1タンパクの持続的なリン酸化をもたらし、異常な細胞周期の停止をきたすことは明らかとなったが、その詳しい機序は不明であった。これまでタンパクの発現を制御する転写因子が、タンパクのリン酸化を制御する報告はない。HNF-1betaは転写因子でありなんらかのタンパクの発現を介してchk1のリン酸化の持続をきたしていると考えられる。マイクロアレイによる網羅的解析によりchk1タンパクを制御するシグナル伝達系である候補因子がいくつか同定された。しかし、個々の因子をwesternで確認したが、HNF-1betaの有無により明らかな発現の差は認めなかった。DNA損傷応答においてATM、ATRがDNA損傷を認識し、chk1タンパクのリン酸化をもたらす。HNF-1betaがATR、ATMの発現に影響を及ぼしている可能性も考慮し、ATR、ATMを一過性ノックダウンしてその挙動に差を認めるか検討した。その結果、G2作動薬であるブレオマイシンによるDNA損傷応答ではATMは関与していなかった。そのためブレオマイシンによるDNA損傷にはATR-chk1系が関与していると考えられたが、ATRをノックダウンしたにも関わらずchk1のリン酸化は持続していた。このことからchk1のリン酸化持続はATR-chk1によるシグナル伝達の異常ではなく、たんぱく分解であるプロテアソーム系が原因ではないかと考えられた。
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Strategy for Future Research Activity |
chk1タンパクのリン酸化持続の機序について調べている。これまでchk1タンパクのリン酸化に関与するATM、ATRだけでなく、同じDNA損傷シグナル伝達系であるBRCA1、p53などの発現がHNF-1betaの有無で変化しなきか調べたが、著明な差は認めなかった。現時点では、HNF-1betaがchk1の周辺タンパクの発現を制御しているわけではなく、chk1タンパクの分解系に影響を及ぼしているのではないかと疑っている。タンパクの分解にはユビキチン化によるプロテアソーム系がある。その中でもclaspinはchk1タンパクのリン酸化に関与するタンパクであり、HNF-1betaの有無によるその挙動について調べる予定である。現時点ではwestern上で発現の差を認めており、最も疑わしいタンパクである。今後はclaspinに注目し、FACSや一過性ノックダウンの手法を用いてHNF-1beta、chk1、claspinの関連を精査していく。さらには治療への発展できる可能性について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
HNF-1beta発現低下による抗癌剤耐性克服 への影響について、白金製剤やタキサン系を添加し、抗癌剤耐性克服を確認する。HNF-1betaの有無による抗癌剤添加後の死細胞の増加をflow cytometry解析によって客観的に調べる。また細胞周期解析も行い、HNF-1betaがどの細胞周期に関与しているかも明らかにする。そのためflow cytometory関連の試薬が必要である。 HNF-1betaによる遺伝子修復機構への影響について検討する。これまでの実験でHNF-1betaがチェックポイント機構を過剰に活性化することが明らかになった。この過剰なチェックポイント機構の活性化により細胞周期は停止し、抗癌剤による細胞死への誘導が阻害されていた。しかし、細胞周期が停止している間に遺伝子修復が行われているかについては調べられていない。DNA損傷のマーカーであるγH2AXを指標としてHNF-1betaの遺伝子修復能への影響を明らかにする。その解析には(i) 蛍光顕微鏡での解析、(ii) flow cytometryでの解析を行う予定である。そのため蛍光顕微鏡実験についての試薬が必要である。
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Research Products
(4 results)