Research Abstract |
眼内リンパ腫は高率に中枢神経系(CNS)病変を合併する極めて生命予後不良な眼疾患であるため、早期診断が重要である。本症とぶどう膜炎の鑑別には主に硝子体手術によって得られた検体を用いた細胞診、免疫グロブリンの遺伝子再構成やフローサイトメトリーによるモノクローナリティーの証明、インターロイキンの測定が重要で、なかでもIL-10とIL-6の測定は本症の診断に最も有用であることを我々は全国調査の結果をもとに報告してきた。前年度、我々は眼内リンパ腫とぶどう膜炎群の眼内液性因子を包括的に解析し、前者ではぶどう膜炎と比較してB細胞の増殖に関わるIL-10、bFGF、B細胞の遊走に関連したBCA-1とSDF-1α、単球やT細胞およびB細胞の遊走に関連したMCP-1、MIP-1α、MIP-1β、血管透過性および新生血管に関連したVEGFが有意に上昇することを報告し、眼内リンパ腫の診断の感度・特異度が上昇することを報告した。 今年度は本症の病態や予後の解明目的に染色体およびゲノムの網羅的解析を行った。アレイとして網羅的かつ高解像度で微細なゲノムの異常を検出することが可能な高感度SNPアレイを用い、解析ソフトにはCopy number Analyzer for GeneChipを使用した。その結果、chromosome 1q(76%)、18q(70%)、19q(70%)に高頻度にコピー数の増加、chromosome 6q(30%)にコピー数の減少を認めた。特にchromosome 1q32.1上にはIL-10遺伝子が存在し、この染色体異常のある症例では眼内液中のIL-10も有意に高いことが判明した。さらに、近年ゲノムの異常として注目されているuniparental disomy(UPD:片親性ダイソミー)がchromosome 9p, 9p, 10q, 11p, 11q, 19p, 19q, 21qにみられた。これらのゲノムの異常はCNS原発リンパ腫と眼内原発リンパ腫で相違がみられることから、両者はゲノム異常の観点からは異なる病態である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度、我々は、眼内リンパ腫とぶどう膜炎患者の眼内液を用いて、Cytometric beads array法により40種類以上のサイトカイン、ケモカイン、増殖因子、アポトーシス関連因子(IL-1α,IL-1β, IL-2, IL-3, IL-4, IL-5, IL-6, IL-7, IL-8, IL-9, IL-10, IL-12, IL-13, TNF-α, TNF-β, IFN-γ, MCP-1, MIP-1α, MIP-1β, IP-10, Mig, SDF-1α, SDF-1β, BLC, RANTES, TARC, LARC, ELC, SLC, Fractalkine, VEGF, PEDF, LT-α, Angiogenin, basic FGF, Fas Ligand, Eotaxin, GM-CSF, G-CSF, OSM)を包括的に解析し、Invest Ophthalmol Vis Sci誌に報告した。本研究のコントロール群としては、眼内リンパ腫以外の一般的な眼疾患(黄斑円孔、黄斑上膜、網膜剥離、網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症など)の硝子体手術の際に、効率よく検体を採取することができ、比較検討することができた。今年度は眼内液中の液性因子のみならず、眼内液から単離されたB細胞の遺伝子および染色体の網羅的解析を行うことができCancer Science誌(105:592-9, 2014)に報告することができた。 以上より、おおむね研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は以下のとおり研究を遂行していく。 1) 前年度、前々年度に引き続き、眼内リンパ腫症例の眼内液および末梢血よりサイトカイン・ケモカインの定量的測定を行う。しかし、前年度において上昇のみられなかったサイトカインやケモカインについては今年度は測定しない。 2) 引き続き、Affymetrix社のGeneChip HuGeneFLチップ(~6800遺伝子)を用いて、眼内リンパ腫の眼内浸潤細胞の遺伝子発現の網羅的解析を行う。ある一定の症例に達したところで遺伝子発現プロファイルを基にした新しい臨床分類を試み、治療反応性や生命予後を推定可能な遺伝子プロファイルを構築する。その後、遺伝子多型との相関を調べることにより、メソトレキセートを中心とした薬剤や放射線感受性と治療や生命予後との関連を調べる。 3) SNPアレイで異常のあったchromosome 1q, 6q, 9p, 9p, 10q, 11p, 11q, 18q, 19p, 19q, 21qについてさらに詳細な解析を行い、原因遺伝子を追求していく。また、これらの原因遺伝子についてはリアルタイムPCRにより定量的に解析し、臨床像や臨床経過との相関、予後(局所再発率、眼以外の他臓器における発症率、生存率)などの因子をプロスペクティブおよびレトロスペクティブに調べ、統計ソフトを用いて多変量解析を行う。 4) 1)~3)で得られた研究成果を学術誌に投稿するとともに、国内および国際学会の場で研究成果を発表していく。
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