2013 Fiscal Year Research-status Report
加齢黄斑変性感受性遺伝子トランスジェニックマウスを用いた環境リスク因子の解析
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24592664
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Research Institution | 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター) |
Principal Investigator |
中山 真央 独立行政法人国立病院機構(東京医療センター臨床研究センター), 分子細胞生物学研究部, 研究員 (20624810)
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Keywords | 眼分子生物学 / 眼生化学 |
Research Abstract |
本研究では加齢黄斑変性の感受性遺伝子の中でも最もp値の低いARMS2/HTRA1に注目し、生後12か月のHtrA1およびARMS2、ARMS2 (A69S) Tgマウスを用いて、網膜への影響を蛍光眼底造影や光干渉断層像で観察した後、網膜切片を作製し、HE染色および血管内皮細胞マーカーを用いた免疫染色により観察した。全身発現したHtrA1 Tgマウスのうち約18.2%の個体について、これまで報告されていない放射状の脈絡膜新生血管が観察された。また、EVG染色によりHtrA1 Tgマウスではブルッフ膜の断裂や消失も観察された。一方、ARMS2、ARMS2 (A69S) Tgマウスにおいではいずれも網膜の異常が認められなかった。次に、網膜異常がなかった12ヶ月齢のARMS2、HtrA1 Tgマウスおよび対照群Wtマウスはタバコ主流煙暴露実験を行ったとこら、HtrA1 TgおよびWtマウスは同様な新生血管が誘導された。さらに視細胞および網膜色素上皮細胞形態の変化を電子顕微鏡で観察したところ、HtrA1 Tgマウスのうち約10%の個体は網膜下沈着物の蓄積が観察された。 これらの結果によると、我々は作製した全身で発現しているHtrA1トランスジェニックマウスの一部は脈絡膜新生血管が誘導され、HTRA1タンパク質の過剰発現はブルッフ膜の脆弱性を惹起し、関連遺伝子として滲出型加齢黄斑変性との強い相関が示唆された。喫煙によってHtrA1トランスジェニックマウスだけでなく対照群のWtマウスにおいても新生血管が観察された。喫煙は遺伝因子と相互作用し加齢黄斑変性の発症リスクを高めていると考えられる。一方、ARMS2を全身で強制発現させても新生血管が誘導されなく、さらに喫煙暴露後も網膜の異常が観察されなったことから、ARMS2の局在は脈絡膜新生血管の形成に対する保護であることが考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
加齢黄斑変性(AMD)は多因子疾患と考えられており、複数の遺伝子因子と環境因子によって発症すると考えられる。我々は、日本人に多くみられる滲出型黄斑変性のみを集め、独自に全ゲノム相関解析を行ったところ、染色体10番ARMS2/HTRA1遺伝子領域の遺伝子多型が疾患に相関することを報告してきた。本研究ではCAGプロモーターを用いて全身発現したARMS2、ARMS2 (A69S) 、HtrA1のトランスジェニックマウスを作製し、ARMS2、HtrA1の高発現および喫煙負荷による加齢黄斑変性との相関性を検討することを目的としている。これまでにマウスの網膜レーザー照射による脈絡膜血管新生が誘導されたが、本研究ではマウスHtrA1を全身で高発現することによって血管新生が誘導されるマウスが初めて作製できた。HTRA1の過剰発現はブルッフ膜の脆弱化を惹起し、網膜に侵入している新生血管が誘導されると考えられる。また、本研究ではたばこ主流煙によってHtrA1トランスジェニックマウスおよび野生型マウスにおいて脈絡膜新生血管も初めて観察された。さらに、HtrA1 トランスジェニックマウスの一部は喫煙させた後、視細胞形態の乱れ、網膜下沈着物の蓄積など網膜の形態異常を見出した。喫煙はAMDの環境リスク因子として遺伝子HtrA1と相互作用しAMDの重篤度をきたすことが示唆された。これまでの研究データを2013年11月に東京で開催されたRRM(Retinal Research Meeting) にて発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 加齢黄斑変性の重要な環境リスク因子の一つである肥満について検討するために、HtrA1 Tgマウスに高脂肪食を摂取させ、血管新生との関係を調べる。生後12ヶ月のWtとHtrA1 Tgマウスに高脂肪飼料High Fat Diet 32を16週間連続摂取させ、眼底観察および眼球切片を作製してHE染色や免疫染色によって新生血管の有無を観察する。 2. さらに環境リスク因子である青色光のHtrA1 Tgマウスへの影響を検討するために、生後12ヶ月のWtとHtrA1 Tgマウスにリポフスチンに含まれるA2Eの活性化を誘導する青色光(430 nm LEDランプ)を1日12時間にして照射し、月単位で眼底撮影と自発蛍光眼底撮影を行う。6ヶ月後網膜組織切片を作製して新生血管の発生を確認する。 3. 喫煙、肥満、青色光などのリスク因子と血管新生との関係を実験データとして収集し、遺伝因子と環境因子について総合的に検討する。日本人の多くに観察される滲出型加齢黄斑変性の発症機序解明と疾患モデルマウスを確立し、創薬に結びつけたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年2月に静岡で開催された眼科分子生物学研究会を参加する予定だったが、大雪の影響で行くことができなかったため、この研究会参加旅費としての使用額が生じた。 動物実験、分子生物学実験関連試薬、消耗品の購入を考えている。また、共同研究の打ち合わせ及び学会を参加するための旅費、論文投稿、校正するための費用に充てる計画である。
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