2012 Fiscal Year Research-status Report
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24592674
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
門之園 一明 横浜市立大学, 市民総合医療センター, 教授 (70275030)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒川 明 横浜市立大学, 市民総合医療センター, 准教授 (30292337)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 血管内治療 / 網膜血管障害 / マイクロニードル |
Research Abstract |
網膜は血管に富んだ組織であり、脳血流の約3分の1を消費している。また、脈絡膜組織は血管の集合体であり、網膜への血流の供給や温度調節さらに神経保護を担っている。血管の走行にも特徴がある。動脈と静脈は隣接し、しばしば網膜内で交叉する。視神経乳頭内では篩版内で動脈と静脈は伴走し、篩版内の圧力にさらされている。このため、網膜は様々な血管病変を生じうる器官となる。全身に見られる塞栓症、血栓症が網膜血管内では良く見られる。網膜静脈閉塞症、網膜動脈塞栓症、網膜血管細動脈瘤破裂などは網膜血流障害の代表的な疾患であり、糖尿病網膜症に次いで多い血管病変である。 網膜血管にみられる塞栓症、血栓症に対して、これまで有効な治療方法はなく、閉塞部位を凝固する光凝固療法や血栓溶解薬を間接的に投与する方法に限られていた。仮に、血管内での塞栓、血栓の除去および溶解療法が確立したならば、これらの網膜血管障害病変を有効に治療できる可能性がでてくる。疾患患者数は40歳以上の100人に1人と言われており、その膨大な数の患者を救済できる。また、欧米では心血管疾患が我が国と比較しても非常に多く、それに呼応して網膜血管病変も多いため、患者の人種間を超えて様々に与える恩恵は計り知れない。 従来、網膜血管治療で最大の問題とされていたのは、十分な器具の開発がなされていない点であった。数ミクロン単位の針を作製する技術とその評価が最大の問題とされていた。そこでわれわれは特殊な微少血管針を作製し、これを直接病変となる網膜血管に穿孔する眼科領域初の網膜血管内治療プロジェクトを立ち上げた。これには、いくつかの工業技術と様々な動物実験を繰り返すことが必要とされた。これまで研究開発に約5年以上の月日を費やした結果、ここ数年で網膜血管内治療はようやく臨床試験段階に入り、臨床応用が目前となった。この分野の治療技術の今後のさらなる発展が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
網膜血管内治療において重要なのは、どのような形で網膜血管内へアプローチするかである。体内の大血管を経て脳動脈、眼動脈、網膜血管へアプローチする方法、硝子体手術を利用し内視鏡を用いて網膜血管へアプローチする方法、硝子体手術を利用し手術顕微鏡を用いて直接網膜血管へ接近する方法などの手技が想定される。 我々は、硝子体手術を利用し手術顕微鏡を見て直視下で血管にアプローチする方法を採用した。網膜の血管径は約100μm、内腔が80μ以下である。この血管内へ穿孔し薬物を投与するには、50μm以下の極めて細い針が必要とされる。また、針の先端部は、30度以内の鋭利な形状が要求される。さらに口径が細くなると液の注入圧が高くなる。十分な液量を確保がするために管腔内圧が上昇しないような工夫も必要となる。 これらの必要条件を踏まえ、作製技術、レーザー加工技術を駆使して特殊針を作製した。これはマイクロニードルと呼ばれ、大学内の我々の部局およびいくつかの外部技術者との共同作業である。現在、特許申請を経て市販化を進めている。 また、マイクロニードルは大学内の倫理委員会の申請を経て、現在患者への臨床応用を進めている。臨床応用は以下の通りである。網膜血管障害の患者に対して、発症より3か月以内に限り、入院の上硝子体手術を施行する。その際、本術式を用いて閉塞している血管内へ直接血栓溶解剤である組織型プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)を投与する。クリアクタ(商品名)は全身に使用される血栓溶解剤であり、急性期の塞栓症には著効する。全身投与に用いられている投与量を参考に、約1万単位を約3分間かけて網膜血管内へ投与している。比較的高濃度のtPAであるので、血管内の血栓溶解の効果は高いと予想される。本術式を受けた患者の術後の経過を見ていると、約70%の患者の網膜の浮腫を改善でき、さらに視機能の向上を獲得出来ている。
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Strategy for Future Research Activity |
網膜血管内治療を完成させる上で最も重要な点は、①手技上の問題点、②治療薬の投与量の問題点、③対象とする疾患の策定、④治療の評価方法 が挙げられる。 現在、手技上の問題点は十分に解決されている。ほとんどの患者において、血管内へ有効に治療薬を投与することが可能である。比較的手技上の難易度は高いが、今後、いくつかの手術手技の改良により改善の余地はある。 治療薬の問題に関しては、tPA単独、tPAおよび抗VEGF抗体の同時投与、生理食塩水 の3種類が挙げられる。果たして、どのような溶剤が最も適しているのかを評価する必要がある。 次に、血栓症を生じてからどの程度の時間で血管内治療を行う必要があるかは大きな問題である。すなわち、tPAは急性期の血栓症以外には有効ではない。通常、1か月以上の血栓症期間のある患者では十分な有効性は獲得出来ないと予想される。確かに、大血管の場合はそうであろうが、細動脈の場合、血管に微小血栓形成が持続していると考えられ、tPAの投与の有効性はあると予想できる。また、抗VEGF抗体との同時投与でるが、本タンパクは、VEGFの持つ強い血管透過性効果を抑制し、浮腫を軽減する可能性がある。また、血栓形成の抑制効果を担っている可能性も否めない。 現在ところ劇的な効果を得られていないが、(A)血栓期間の検討、(B)投与薬剤の検討 により、本術式をより洗練したものへ換えて行きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主に、特殊針(マイクロニードル)の製作委託料と、特殊針の性能の検証・分析に伴う費用に充当する。 ・特殊針製作委託料 90万円 ・検証・分析費用 20万円 ・打合せ費用 5万円 ・論文校閲費用 5万円
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