2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24592674
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
門之園 一明 横浜市立大学, 市民総合医療センター, 教授 (70275030)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒川 明 横浜市立大学, 市民総合医療センター, 准教授 (30292337)
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Keywords | 血管内治療 / 網膜血管障害 / マイクロニードル |
Research Abstract |
網膜血管閉塞による網膜機能障害の疾患の代表が網膜血管閉塞症であり、現在失明原因の第2位となっている。網膜中心静脈閉塞症は視神経乳頭内の篩板内圧が上昇して静脈内に血栓が生じることで引き起こされるといわれ、血栓の早期除去が唯一の治療法と考えられてきたが、篩板内静脈への介入技術が無いため、除去方法は長く開発されていない。これまでも網膜静脈への血管内アプローチ手技が発表されているが、いずれも実用化には至っていない。その理由には、手技が難解で、約100μm以下の血管内に器具を挿入することが不可能であること、加えて、その再現性が乏しいことが考えられる。 これまでの網膜血管内治療には二つの問題点があげられる。一つは手技すなわち硝子体手術自体の問題である。二つめは網膜血管治療のために十分な器具の開発がされていない点である。数ミクロン単位の針を作製する技術とその評価が最大の問題とされていた。 そこで我々は特殊な微小血管針を作製し、これを直接病変となる網膜血管に穿孔する眼科領域初の網膜血管内治療プロジェクトを立ち上げた。これにはいくつかの工業技術と動物実験を繰り返し行うことが必要とされ、研究開発に約5年以上費やした。ここ数年でようやく臨床試験段階に入り、臨床応用が目前となった。 網膜中心静脈閉塞症の患者を対象に組織型プラスミノゲンアクチベータを網膜中心静脈内に投与し、その後の黄斑部浮腫の状態、眼循環、視機能を調べることで網膜中心静脈内への直接的投与療法の確立を目指した。今回の研究では100眼以上を対象にし、本治療のさまざまな利点と今後の課題を浮き彫りにすることが出来た。 網膜内への薬物投与治療は技術的には可能になったものの、その後の網膜組織の反応や改善に関してはまだ検討の余地がある。しかし本治療が初めての網膜血管内へのアプローチであることを考えると、これを更に推進させるが必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は硝子体手術を利用し、手術顕微鏡を見て直視下で血管にアプローチする方法を採用した。血管径約100μm、内腔80μm以下の網膜血管内へ穿孔し薬物を投与するには、50μm以下の極めて細い針が必要である。針の先端部は30度以内の鋭利な形状が要求される。口径が細くなると液の注入圧が高くなるので、十分な液量を確保するために管腔内圧が上昇しないような工夫も必要となる。 これらの必要条件を踏まえ、外部技術者との共同作業によって特殊針(マイクロニードル)を作製した。マイクロニードルは大学の地財として特許出願中であり、学内の倫理委員会の承認を経て以下の臨床応用を開始している。 網膜血管障害の患者に対して、発症より3か月以内に限り、入院の上硝子体手術を施行する。その際、本術式を用いて閉塞している血管内へ直接血栓溶解剤である組織型プラスミノーゲンアクチベータ(tPA)を投与する。クリアクタ(商品名)は全身に使用される血栓溶解剤で、急性期の塞栓症には著効する。全身投与に用いる量を参考に、約1万単位を約3分間かけて網膜血管内へ投与している。比較的高濃度のtPAであるので、血管内の血栓溶解の効果は高いと予想される。 我々は約2年間に102名の患者に本術式を試みた。患者の概要は、重症度の高い虚血型患者32名、中間型患者32名、非虚血型患者38名。閉塞から血栓溶解療法の開始までの期間は平均28日、患者の平均年齢は74歳、男女比は67名対35名である。全体の治療成績は、6ヶ月のETRDS文字視力が術前15文字であったものが術後34文字に改善していた。ETRDS文字視力は黄斑部機能の正確な評価に用いられる指標である。黄斑の浮腫は術前値780μmであったものが術後340μmへと改善した。 これらの結果は本治療術式の良好な成績を示しており、血流の改善及び視機能の改善を可能にする治療方法であることがわかる。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の研究において、治療前に対して治療後の成績が向上することが証明された。また、治療手技も安定しており、実用可能な手技であることが認識された。 治療の改善効果として、視機能の改善および黄斑浮腫の改善に関して検討をしてみると、ETRDS文字視力で約19文字の改善、黄斑の浮腫は約440μmの改善であった。この改善効果は、硝子体内への抗VEGF投与と比較した場合にほぼ同等であり、決して有意な上昇とは言えない。この点において、本治療がさらなる治療効果を上げるべく検討が必要であるといえる。 血栓症に伴う網膜の虚血は時間の経過ともに悪化することが予測される。ゆえに、早期の血栓溶解療法への移行が重要である。血栓症を生じてからどの程度の時間で血管内治療を行う必要があるかは大きな問題である。すなわち、tPAは急性期の血栓症以外には有効ではない。通常、1か月以上の血栓症期間のある患者では十分な有効性は獲得出来ないと予想される。確かに、大血管の場合はそうであろうが、細動脈の場合、血管に微小血栓形成が持続していると考えられ、tPAの投与の有効性はあると予想できる。また、抗VEGF抗体との同時投与であるが、本タンパクは、VEGFの持つ強い血管透過性効果を抑制し、浮腫を軽減する可能性がある。また、血栓形成の抑制効果を担っている可能性も否めない。 今後、 (A)血栓期間の検討、(B)投与薬剤の検討 により、本術式の有効性を明確にし、網膜静脈閉塞症の治療の確立を進めて行きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
特殊針(マイクロニードル)の製作に関わる費用の他に、最終年度にあたる平成26年度には研究成果の発表に伴う費用が見込まれるため。 主に、特殊針(マイクロニードル)の製作委託料、特殊針の性能の検証・分析に伴う費用、および研究成果の発表に伴う費用に充当する。 ・特殊針製作委託料、検証・分析費用、打合せ費用 ・論文校閲費用、研究発表スライド製作委託料、学会参加関連費用
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Research Products
(5 results)
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[Presentation] 網膜血管内治療2013
Author(s)
門之園 一明
Organizer
第20回記念特別開催兵庫県網膜硝子体研究会
Place of Presentation
神戸ポートピアホテル(神戸市)
Year and Date
20131214-20131214
Invited
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