2012 Fiscal Year Research-status Report
アデノウイルス眼感染症の新しい薬物治療の探求と臨床実用化に関する研究
Project/Area Number |
24592686
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
内尾 英一 福岡大学, 医学部, 教授 (70232840)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ウイルス |
Research Abstract |
抗菌ペプチドは自然免疫において重要なことが解明されており,眼表面でも乾癬免疫に関与していることが知られている。Human cationic antimicrobial protein (hCAP)-18 はいわゆるcathelin様ドメインという配列を有し,そのC末端側はLL-37と呼ばれている。本年はin vitroにおけるhCAP-18/LL-37のアデノウイルスに対する増殖抑制効果を流行性角結膜炎起炎性型に焦点を当てて解析した。A549細胞を用いて,ヒトアデノウイルス(HAdV)3,4, 8, 19aおよび37型について解析を行った。LL-37の細胞毒性はいわゆるMTS (3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)-5-(3- carboxymethoxyphenyl)-2-(4-sulfophenyl)-2H-tetrazolium)法を用いて測定してCC50を求めた。A549細胞をLL-37を段階希釈したものを24時間作用させ,その後7日間培養を行った。最終的にウイルスDNAを定量PCR法で測定してその抑制効果を求めた。 LL-37の50%有効濃度(EC50)はreal-time PCR法では118から270µMに分布していた。LL-37は4型には有効性が認められなかったが,その他の型には有意な抑制作用があった。LL-37にはHAdV3, 8および19型には濃度依存性の抑制作用もあり,これらの結果からはhCAP-18/LL-37がアデノウイルス結膜炎の治療薬となりうる可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インターフェロンに続いて,抗菌ペプチドであるhCAP-18/LL37のアデノウイルスに対する詳細な増殖抑制作用が確認されたことは新規の治療薬の探索を行う上で,非常に有意義な結果であり,研究は順調に進捗しているといえる。アデノウイルス結膜炎は臓器の特殊性から肺炎のような動物モデルの確立がまだ得られていない。候補となる薬物や化学物質のin vitroにおける治療効果を詳細に順次解析することによって将来の来たるべき動物実験へ効率よく移行していくことができると考えている。一方,新型である52型移行のアデノウイルスについては引き続き,本邦の結膜炎からも検出されていることが報告されている。しかし国際的には新型と判断する基準がまだ完全なコンセンサスをえられておらず標準株の保存もこれからの課題であるために,新型アデノウイルスを用いた抗アデノウイルス薬の詳細な解析にはまだいたっておらずその準備を行っている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
アデノウイルスは2000年までに51の血清型が報告され,類縁性からAからFの種に分類されていた。しかし,今世紀に入ってから従来の分離中和法による血清型ではなく,PCR法に基づいたウイルスDNAシークエンスの直接解析による分類法が広く行われるようになり,それによって市中感染の流行株から52型以降の新型が相次いで報告されるようになった。52型は消化器感染(下痢症)から検出され,新しいG種とされた。53型はいわゆるキメラウイルスであり,わが国で散発的に結膜炎から検出され,D種に属する。54型は8型変異株として,わが国で継続的に検出されたD種のウイルスである。55型は中国で流行した呼吸器感染症を生じ,11/14型の中間型(B種)である。さらに最近,国内の結膜炎から新型として56型が分離され,D種に属する15/29型間の組み替え型であることがわかっている(Kaneko H, et al: J Clin Microbiol 49: 484-90, 2011)。これらは中和抗体によって決定されたものではないので,従来の血清型と同じ概念の分類ではないが,アデノウイルスのDNAウイルスとしての変異の過程で新型となったものや既存の型同士がヘキソンの配列を混合させるキメラ化 や組み替えが生じているものである。われわれがこれまで検討してきたのは結膜炎を生じる3, 4, 8, 19a, 37型の多くが標準株である。これ に対し,新型は現にわが国を含む世界各国で流行しているものであり,これまでアデノウイルス増殖抑制効果が確認されたザルシタビン,スタブジン,インターフェロン,NCT,GRGDSPペプチドなどの各種薬剤を用いて,同様の増殖抑制効果が見られるかをin vitroで検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
アデノウイルスのレセプターは組織親和性を決定するものであり,このウイルスが結膜炎と咽頭・上気道炎という異なる臓器で異なる炎症を生じると背景にある。RGD配列を有するインテグリンは多くの血清型のレセプターとして報告されているが,結膜炎をしばしば生じる8型などのD種の血清型はシアル酸をレセプターとして使用していることはわかっている。そこで,私たちがアデノウイルス診断のために開発したPCR-sequence法のプライマー及び実験系を用いて,ファイバー領域の型及び遺伝子型レベルでの相違を検索することが目的である。レセプターに対応してアデノウイルスの組織親和性を支配しているのはファイバーであり,ファイバーの構造の差異が臨床所見の相違をもたらすと考えられる。アデノウイルスファイバーは,ウイルス本体側から,テール(tail),シャフト(shaft),ノブ(knob)の3部分に分かれているが,同系統の抗ウイルス薬でも抗アデノウイルス薬の型間の作用の異なる傾向が見られることの理由は明らかではない。これまでArnbergらはシャフトの長さと柔軟性の違いが血清型によってCARをレセプターとして機能させる上で重要であることを報告しているが,本研究ではこれまでの型に加えて,新型臨床株についてもそのファイバー領域の,テール,シャフト,ノブ別のシークエンス解析を行って,ウイルスレセプターへの接着部位の解析を行うと同時に,薬物感受性の差異が現れることに対してファイバーの微細構造のどこが関与しているか,またウイルス側のレセプター接着部位がこれまで報告されているファイバーノブに限定されるのか,あるいはほかのどこの部位に可能性があるかなどについて解析することが目的である。なお平成24年度の研究の進行状況のため,23495円の繰り越しが発生したが,それは平成25年度の薬品等で使用する予定である。
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Research Products
(8 results)