2012 Fiscal Year Research-status Report
アンギノーサスグループレンサ球菌の外来遺伝子獲得および組換えの機構に関する検討
Project/Area Number |
24592782
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tsurumi University |
Principal Investigator |
高尾 亞由子 鶴見大学, 歯学部, 助教 (10163156)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | アンギノーサスレンサ球菌 / クオラムセンシング / ペプチドフェロモン / シグマ因子 / 遺伝子発現 / 遺伝子組換え / バイオフィルム |
Research Abstract |
近縁の3菌種とその亜種から構成されるアンギノーサスレンサ球菌について、菌種間の病原的な差異および類似性を外来遺伝子獲得機構の面からとらえることを目的とした。遺伝子交換に直接関与するタンパク群は、コンピーテンス特異的シグマ因子ComXにより発現誘導され、アンギノーサス群ではcomX相同遺伝子の数(3か所)が他の菌群よりも多いことが判明している。 そこで、Streptococcus intermedius基準株から、すべての組み合わせのcomX欠失変異株を作製、それぞれのcomXがどの程度遺伝子獲得や組換えに関与しているのかを調べた。その結果、DNA添加および近縁菌との共培養による形質転換のいずれにおいても、2か所のcomXホモログについては、いずれかの欠失で顕著な組換え効率の低下がおこった。残る1か所のホモログの欠失株では、遺伝子組換え効率には変化が認められなかったが、親株と比較して、高い菌体密度と培養液中の顕著なpH低下を示した。また、このホモログを含む複数のcomXを欠失した場合でも、同様の発育性状変化が認められた。バイオフィルム形成に関してもストレス応答には遺伝子欠失による株間差が認められた。 各変異株の近縁菌種に対する増殖抑制能は、pHや接触性など、菌の培養条件によって影響を受け、バクテリオシン、細胞壁分解酵素などのエフェクターをコードする遺伝子群に対して複数の発現制御機構が関与していることが示唆された。また、comXおよびcomCDEオペロン自体の転写促進因子ComEの非産生株では、近縁菌増殖抑制能が完全に消失し、いずれのエフェクターも直接または間接的に、ComE制御を受けていると考えられた。そこで、ComE認識領域とComX認識配列を、ゲノムデータベース上でチェックし、エフェクターをコードする遺伝子候補を絞り、機能を検索中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度には研究に用いる菌株のセットをそろえ、遺伝子発現実験に必要な条件の絞り込みを行うことを目指した。研究課題の中心となるコンピーテンス特異的なシグマ因子3か所のすべての組み合わせの欠失株が得られたので、実験計画通り、近縁菌種間の競合および遺伝子伝播の検討と、各株のバイオフィルム形成能についての検討を行った。発現解析の条件設定は進行中であり、平成25年度に引き続き実施することとなった。一方、コンピーテンスを誘導するペプチドフェロモンがアンギノーサスグループには2種類あり、本菌群の多くの株は一方の配列のものを認識していることが以前より知られている。興味深いことに、ゲノムデータベースの検索から、2012年に新亜種として登録されたStreptocuccus anginosus subsp. whileyiがマイナータイプのフェロモンを認識することが推定され、フェロモンの違いと菌種あるいは亜種の派生が関連している可能性が考えられた。そこで、異なるフェロモンに反応する菌種または菌株間の拮抗関係をチェックする目的で、保存株のcomC, comD領域を検索中である。 以上、新亜種が発表されたことにより、研究の進行順序に若干の変更が生じているが、おおむね順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下のテーマに沿って、マイナータイプのコンピーテンス誘導フェロモンを認識する菌の存在を考慮しつつ、課題を遂行する予定である。 1. comE, comX欠失が菌のコンピーテンス状態に与える影響の検討:Early com genesの発現を誘導するComEが、S. intermediusと近縁菌種の相互作用を制御していることが判明した。一方でlate com genes発現を誘導するComXは、菌の生理的状況によって遺伝子欠失の影響に差が出ることが推定された。そこで、菌の培養条件を整理し、pH条件、接触および非接触条件での生菌数の変化、共培養時に放出されるDNA量を、培養法およびリアルタイムPCRでそれぞれ測定する。 2.comE, comX欠失株の遺伝子発現変化の検討: バイオフィルムおよび浮遊菌体のearly com genes, late com genesの発現量をRT-リアルタイムPCRで測定する。また、この状況における病原因子の発現について、インターメディリシンなどの毒素、ヒアルロニダーゼやシアリダーゼなどの生体の糖鎖を改変する酵素について、発現の変動をチェックし、病原性との関連を検討する。 3.異なるタイプのコンピーテンス誘導フェロモンを認識する菌同士の相互作用の検討:マイナータイプのペプチドフェロモンを合成し、異なるタイプのフェロモンを認識する菌同士の相互作用に与える影響を検討する。この検討は当初予定していなかったが、菌種、亜種の分化との関連を調べる目的で必要と判断した。それぞれのフェロモン添加時の菌数変化とDNA放出、遺伝子発現変化などを、1、2に準じて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額は5,266円であり、平成25年度の請求研究費とともに、ペプチド合成、発現解析、バイオフィルム観察などに必要となる消耗品、およびシーケンシング解析等の費用として使用することを予定している。
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