2012 Fiscal Year Research-status Report
口腔癌進行におけるp63の発現消失とWntシグナルの活性化
Project/Area Number |
24592827
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
倉田 俊一 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (60140901)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | p63 / Wnt |
Research Abstract |
p63 (TP63)はp53ファミリーの遺伝子で、ケラチノサイト幹細胞で発現し、細胞増殖能の維持や分化の制御に重要である。また、口腔、皮膚、乳腺に由来するがんで高発現し、細胞の腫瘍化にも深く関係している。扁平上皮がん細胞FaDuでp63をノックダウンし、遺伝子発現プロファイルを解析したところ、CCND2(cyclin D2)、SNAI2/SLUG、DKK3を含むWntシグナル標的遺伝子の発現低下が見られ、RT-PCRなどで確認された。Wnt response element (WRE) 配列によるルシフェラーゼ遺伝子レポーター・アッセイで、扁平上皮がんで最も優勢に発現しているΔNp63αアイソフォームがTCF4とβカテニン存在下で強く発現誘導した。ΔNp63αはGSK-3βの脱リン酸化酵素であるprotein phosphatase 2A (PP2A)の制御因子B56α(PPP2R5A)と結合することが報告されており(Patturajan M, Cancer Cell. 2002;1(4):369-79)、実際PP2Aで免疫沈降するとB56αとΔNp63αが共沈した。しかし、細胞質と核内でのPP2Aの活性はp63ノックダウンにより影響を受けず、GSK-3βのリン酸化も、βカテニンの核移行も、変化しなかった。すでに報告されているように(Drewelus I, Cell Cycle. 2010;9(3):580-87)核抽出液から免疫沈降するとΔNp63αはTCF4と結合していたが、βカテニンとΔNp63αの結合は検出されなかった。多くの組織の腫瘍化過程でAPCの変異などによるWntシグナル伝達の活性化が起こるが、p63が発現している扁平上皮がんでは、核内でΔNp63αがTCF/LEFと相互作用してWnt標的遺伝子発現を増強すると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究はp63の発現調節がWnt/βカテニンシグナル伝達系を介して口腔癌の発症に関係するものと考えて発案した。つまり口腔癌発症において、Wnt シグナルがp63により直接調節される機構を想定していた。実際p63ノックダウン細胞ではWnt/β―カテニンシグナルターゲット遺伝子(CCND2, SNA12,DKK3等)ではグローバルな発現解析の結果強い翻訳抑制がみられた。さらにΔNp63 とTCF-4及びβカテニン遺伝子を導入した細胞を用いたLucレポーター解析でWnt/βカテニンシグナルターゲット遺伝子発現が、強く活性化された。ところがChIP解析を行うとWREに結合するLEF/TCFβ―カテニン複合体とはWRE上では結合していないことが判明した。すなわちWntシグナル発現に転写因子としてp63が直接作用する可能性は否定された。この結果p63はTCF/LETサプレッサーとして作用する可能性が高くなったのでその方向で研究を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
先に述べたようにp63による直接的なWNR調節複合体への結合を想定していたので幾分かの方向転換が必要であるが、この事態も想定していたので,論文発表はやや遅延が予想されるが、研究の進行に大きな影響はない。p63がWnt/β―カテニンシグナル伝達系をWntシグナル抑制因子を介して調節することが強く示唆されることとなった。p63が上皮分化や口腔癌発症に深くかかわることは多くの傍証があるが、実際の作用については明確なことはそれほどわかっていない。p63が多くの複雑な系を介して広く作用する可能性が明らかとなった。今後はWnt シグナル抑制因子とp63の相互作用について免疫沈降などを利用して細かく検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
すべての経費は消耗品として使用する(単位は千円)。 DNAアレイ解析委託(単価180x3=540)により遺伝子発現解析を行う。遺伝子導入キットにより、Wntシグナル関連の遺伝子を導入する(単価50x4=200)。RNA抽出試薬(単価30x2=600)および精製試薬(単価20x1=20)。siRNA合成(単価20x1=20)培養用プラスチック器具として浸潤アッセイ用マトリゲルチャンバー(単価50x2=100)および特殊培養プレート(単価30x2=60)を使用する。細胞培養用として牛胎児血清(単価50x6=300)以上合計1300千円
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