2013 Fiscal Year Research-status Report
口腔癌進行におけるp63の発現消失とWntシグナルの活性化
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24592827
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
倉田 俊一 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (60140901)
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Keywords | TP63 / p63 / 扁平上皮癌 / 口腔癌 |
Research Abstract |
TP63(p63)はがん抑制遺伝子TP53(p53)ファミリーに属するが、p63の癌での変異はまれで、口腔・咽頭由来の扁平上皮癌の高分化型で高レベルに発現する。扁平上皮癌の悪性転化とp63の発現消失は相関するので、p63による遺伝子発現の調節に着目した。 下咽頭由来扁平上皮癌細胞FaDuでp63のノックダウンを行い、遺伝子発現プロファイルを行った結果、p63ノックダウン細胞では(1)p63標的遺伝子NOTCH1, JAG2 ,COL7A1,などの発現が1/2-1/3に低下した、 (2) p53標的遺伝子のGADD45A, BAXが1/5以下に低下した、(3) 未分化ケラチノサイト(基底細胞)に特異的なKRT5, KRT14などの発現が1/3-1/7に低下した、(4) Wntシグナル標的遺伝子で、癌の浸潤を誘導するMMP7(Matrix metalloproteinase-7)の発現は5倍以上亢進した、(5)その他のWnt標的遺伝子CCND2, Mycなどは1/2-1/6に低下した。これらの結果から、(A)p63はp63標的遺伝子およびp53標的遺伝子の一部を発現増強する、(B)p63はケラチノサイト幹細胞(基底細胞)に特異的な遺伝子発現と密接に関連する、(C)p63はMMP7を抑制し、p63の消失による悪性転化を合理的に説明できる、(D)p63はWnt標的遺伝子を発現増強する、などが示唆された。 TCF/LEF-結合配列(Wntシグナル標的遺伝子配列:WRE)を用いたLucレポータ・アッセイにより、p63のアイソフォームのうちΔNp63αだけがWRE依存性に遺伝子発現増強作用を示した。核抽出液での免疫沈降によりTCF-4とΔNp63αの会合が確認された。そこでクロマチン沈澱法(ChIP)によりp63、TCF-4、βカテニンについて解析したところ、ΔNp63αがTCF-4、βカテニンとともに特定のWRE配列に結合し、Wntシグナルを増強している可能性が示唆された。ただし、MMP7の上流にはp53/p63標的配列(p53RE)のクラスターがあり、ΔNp63αが結合して発現を抑制する可能性も考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
扁平上皮癌においてp63(ΔNp63α)がTCF/LEFと結合することによりWntシグナルを増強する機構が明らかになりつつある。従来はWnt標的遺伝子MMP7がp63により抑制されていることからp63はWntシグナル伝達を抑制すると考えられてきた。しかし、本研究によりMMP7遺伝子上流配列にこれまで知られていなかったp53REのクラスター領域が検出され、この領域におそらくp53RE抑制型のΔNp63αが直接結合していることが強く示唆された。p63によるWntシグナル増強作用とMMP7抑制作用が矛盾なく説明されつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
p63はp63の標的配列だけでなく、p53標的配列やWntシグナルとも関連して細胞の増殖、分化、腫瘍化、を巧妙に制御していると考えられる。このような複雑な制御をゲノム全体から明らかにするため、H26年度は抗p63抗体により高感度ChIP反応を行い、DNAを次世代シークエンスで解析する。すでにp63ノックダウン後の遺伝子発現プロファイルによりp63、p53、およびWntシグナルの標的遺伝子の発現の変化に関するデータが得られており、p63のクロマチン上の分布と遺伝子発現調節を関連付けることができると期待される。 また、p63がMMP7を抑制していることが明らかになり、扁平上皮癌におけるp63の消失と転移能の獲得がうまく説明できる。MMP7の上流にはWRE配列が複数存在すると共に、p53/p63応答配列のクラスターが存在し、両者に対するp63(おそらくΔNp63α)の作用を詳しく解析する必要がある。このためにMMP7プロモーター領域配列をクローン化し、レポータ・アッセイを実施する。タンパク質の相互作用を明らかにする。TLE1(Gro)はWntシグナル抑制因子で、TCF(LEF)と直接結合することにより、βカテニンの作用を抑制するが、このTLE1(Gro)とΔNp63αとの競合関係について(1)核抽出液での免疫沈降、(2) in vitro 転写・翻訳(TnT反応)により 合成したp63、TCF4(LEF)、βカテニンを用いたプルダウン解析により検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究に使用する試薬類(タンパク質特異抗体、in vitro 転写・翻訳反応システム、ほか)の購入数が計画を下回った。 次年度使用額を従来より先進的な解析法(例:クロマチン沈殿DNAの次世代シークエンス解析)を実施する費用として使用し、研究課題を推進する。
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