2012 Fiscal Year Research-status Report
骨代謝に視点をおいた歯周病とメタボリックシンドロームの細胞生物学的関連性の解明
Project/Area Number |
24592842
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
前野 正夫 日本大学, 歯学部, 教授 (60147618)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川戸 貴行 日本大学, 歯学部, 准教授 (50386075)
田邉 奈津子 日本大学, 歯学部, 准教授 (10409097)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 骨代謝 / 歯周病 / メタボリックシンドローム / 骨芽細胞 / 破骨細胞 / バスピン / アンジオテンシンII / ニコチン |
Research Abstract |
破骨細胞前駆細胞株 (RAW264.7細胞) をRANKL存在下でバスピン刺激すると,破骨細胞への分化が抑制された。破骨細胞分化に必須な転写因子NFATc1とプロテアーゼ (cathepsin KとMMP-9) 産生もバスピン刺激により抑制された。この現象は,マウス骨髄由来マクロファージを用いても同様であった。RAW264.7細胞をパルミチン酸で前処理後,P. gingivalis由来リポ多糖で刺激すると,IL-6発現は増強されたが,TNF-α発現には変化を認めなかった。次に,骨芽細胞 (ROS17/2.8細胞) をアンジオテンシンII (Ang II) で刺激すると,AT1受容体,マトリックスメタロプロテアーゼ (MMP)-3とMMP-13産生は増加したが,それらの阻害剤の産生には変化を認めなかった。ROS17/2.8細胞をAng IIで刺激すると,ERK1/2,p38およびJNKのリン酸化が促進したが,この促進はlosartan (AT1阻害剤) で完全に遮断された。Ang II刺激によるMMP-3とMMP-13の発現増加は,PD98059 (ERK阻害剤) およびSP600125 (JNK阻害剤)で完全に遮断された。以上の結果から,Ang IIは,AT1受容体に結合してMAPKシグナル伝達経路を活性化させ,MMP-3およびMMP-13産生を増加させて骨基質タンパク代謝を分解系に傾ける可能性が示唆された。関連研究として,ニコチンは,RAW264.7細胞の破骨細胞への分化と酸産生酵素発現を誘導してH+産生を増加させるが,膜型H+-ATPaseによるH+の細胞外への放出とプロテアーゼ産生およびactin belt形成を抑制するため,骨吸収には影響を及ぼさないことが明らかになった。また,口臭原因物質である硫化水素は,骨芽細胞による歯槽骨形成を抑制することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究実施計画の概要は,骨芽細胞を歯周病原菌由来のリポ多糖の存在および非存在下でアディポカイン (バスピン,アンジオテンシンIIなど),あるいは遊離脂肪酸 (パルミチン酸など) で刺激し,細胞外マトリックスタンパクの合成と分解および骨芽細胞と破骨細胞前駆細胞との細胞間相互作用に及ぼすこれらの因子の影響を調べることであった。その成果は,研究実績の概要に記載の通り,当初の研究目的をほぼ達成することができた。バスピンおよびアンオテンシンIIに関する研究成果は,それぞれConnect Tissue Res 54 (2), 147-152, 2013およびBiochimie 95 (4), 922-933, 2013に掲載された。また,関連研究についても,ニコチンに関する研究成果はPLoS One 8 (3), e59402, 2013に,硫化水素に関する研究成果はJ Hard Tissue Biol 21 (3), 219-224, 2012に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
骨芽細胞をアンジオテンシンII (Ang II) で刺激し,骨芽細胞分化調節に関与する転写因子および骨基質タンパクの発現,アルカリホスファターゼ (ALPase) 活性等に及ぼす影響を調べる。骨芽細胞にはラット骨肉腫由来の株化細胞 (ROS17/2.8細胞) を用いる。細胞培養は24年度と同様にα-MEM培地を用いて行う。ROS17/2.8細胞を刺激する際のAng IIの濃度は0, 10-8 , 10-7および10-6 Mとし,細胞増殖はcell counting kitを用いて,ALPase活性値は酵素反応の結果生じるp-nitrophenol量を測定して調べる。石灰化noduleの形成はalizarin red染色で調べ,nodule中のCa蓄積量は市販の測定キットを用いて定量する。骨芽細胞分化調節に関与する転写因子であるRunx2,Osterix,Msx2,Dlx5およびAJ18,骨基質タンパクであるI型コラーゲン,骨シアロタンパクおよびオステオポンチンの遺伝子発現はreal-time PCR法,タンパク発現はWestern bolt法で調べる。次に,破骨細胞前駆細胞を硫化水素あるいはメチルメルカプタンで刺激し,破骨細胞への分化と骨吸収関連酵素の発現に及ぼすそれらの影響を調べる。破骨細胞前駆細胞にはRAW264.7 細胞を用いる。RAW264.7細胞の培養は DMEMを培養液として用い,24年度と同様の条件下で行う。RAW264.7 細胞をRANKL存在下で種々の濃度の硫化水素あるいはメチルメルカプタンで刺激後にTRAP染色し,核数が3以上のTRAP染色陽性細胞を破骨細胞様細胞として,その細胞数を調べる。骨吸収関連酵素の遺伝子発現はreal-time PCR法,タンパク発現はWestern blot法またはELISA法で分析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の予算額は1,324,719円である。この内約70%相当額は、実験に必要な試薬や器具など、消耗品の購入に充当する予定である。25年度は、研究成果の一部をイタリアのミラノで5月に開催される国際学会で発表することが決定している。そこで、約20%相当額をその旅費、学会参加費等に充てる予定である。また昨年12月、国際誌Biochimieに投稿した原著論文が受理され、本年度に掲載された。そこで、繰越金を含む約10%相当額は、この論文と今後新たに掲載予定論文の掲載・別刷料の支払いに用いる予定である。なお、繰越金が生じた理由は、以下に記すとおりである。前述のBiochimieに投稿した論文が平成24年12月に受理されたため、その後の掲載に至る過程が年度末から平成25年度の初めにかかってしまった。そこで、別刷代として準備していた金額を年度内に支払うことができず、繰越せざるを得なかった。
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