2012 Fiscal Year Research-status Report
慢性ストレスによる唾液タンパク分泌異常の機序解明とそのドライマウス診療への応用
Project/Area Number |
24593014
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kamakura Women's University |
Principal Investigator |
吉野 陽子 鎌倉女子大学, 家政学部, 講師 (70298248)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 洋一 鶴見大学, 歯学部, 講師 (90148057)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 唾液腺 / ストレス / カリクレイン / EGF(上皮成長因子) |
Research Abstract |
【目的】慢性ストレスによって唾液タンパク分泌の質的変化が生じることが知られており、その成立機序の解明のための実験モデルとして、α1アドレナリン受容体アゴニストのフェニレフリン(PHE)の長期投与は有用と考えられる。このモデルマウスでは、カリクレイン活性が有意に低下しており、これには顎下腺内のERK 1/2リン酸化の関与が示唆されている。カリクレイン分泌における細胞内情報伝達機構については明らかにされていないが、プロテインキナーゼC(PKC)の関与が推察される。そこで、慢性ストレスモデルにおけるカリクレイン分泌低下へのPKC活性の関与を明らかにすることを目的とした。そのため、PKCを活性化するホルボールエステル(PMA)によるカリクレイン分泌の変化を調べた。 【方法】ICR雄マウスを用いてコントロール群(CTL群)には生理食塩水を、PHE投与群(PHE群)にはPHE(5mg/kg)を1日2回、5日間筋注し、顎下腺を摘出した。顎下腺はコラゲナーゼ処理後、顎下腺上皮細胞を分散し1×106 cell/mlに調整した。分散細胞をPMA(100nM)で刺激し、カリクレイン活性測定とERK1/2のリン酸化レベルをウェスタンブロッッテイングにより比較した。 【結果】PHE群は、CTLに比べて無刺時のカリクレイン活性が有意に低かった。さらに、この低下しているPHE群のカリクレイン活性はPMA刺激によって有意に上昇した。このことは、PKCのカリクレイン分泌への関与を示唆している。一方、PMA によるERK1/2のリン酸化はPHE群よりCTL群が高い傾向にあり、PHE群ではPKC-ERK1/2系が抑制されている可能性が示唆された。 【結論】慢性ストレスでは長期の交感神経刺激によりカリクレイン分泌の抑制が起こり、これには、PKC-ERK1/2系での抑制的なメカニズムが働いている可能性が考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、慢性ストレスによる唾液タンパク分泌異常における細胞内シグナル伝達異常のメカニズムを明らかにすることである。唾液タンパクのうち、アミラーゼやムチンなどの唾液腺細胞内のシグナル伝達機構についての報告はみられるが、カリクレインについては明らかにされていない。今年度の研究により、PKCとERK1/2の経路(以下、PKC-ERK1/2とする)がカリクレイン分泌に関与しており、PKC-ERK1/2経路の抑制が、カリクレイン分泌低下をもたらしている可能性があることが示唆された。このことは、大変意義深いものと考えられる。さらに、PKC-ERK1/2経路とカリクレイン分泌低下との関連について調べることにより、唾液タンパク分泌低下への薬理学的なアプローチが可能となると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
予備実験として、慢性ストレス下でEGF(上皮成長因子)の分泌能に変化が生じるかどうかについて検討した。その結果、PHE群の唾液中EGF濃度は、CTL群に比べて有意に低下していた。EGFは、細胞増殖の促進、胃粘膜の保護、口腔粘膜などの治癒促進など多くの作用を持つ生理活性物質であり、マウスでは顎下腺から分泌される。このような生理活性物質の維持は生体にとって重要であるが、ストレス下での変化については必ずしも明らかではない。また、カリクレインはEGFのプロセシングの役割を持っていることが、顎下腺や乳腺などで報告されている。顎下腺細胞膜に局在しているPro-EGFはプロセシングを受けてEGFを分泌するとされている。これらのことから、慢性ストレスモデルにおける顎下腺細胞内のEGF濃度および細胞膜上のPro-EGF濃度が、CTL群に比べて低下しているか否かについて調べたいと考えている。さらに、顎下腺においてカリクレインがEGFのプロセシングの役割を果たしているかどうかについても明らかにしていきたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
慢性ストレスモデルにおけるカリクレイン分泌抑制とEGFとの関連について、以下の内容を検討する。 1. 顎下腺組織を細胞質と細胞膜画分に分離する。細胞質の抽出液ではEGFを、また細胞膜の抽出液ではPro-EGFのタンパク発現量を各々ウェスタンブロッティングで調べて検討する。 2. 上記の実験においてPHE群がCTL群に比べて低下していた場合、顎下腺上皮細胞を用いて同様に検討する。 上記の実験に必要な試薬類としては、膜タンパク抽出キット、EGFならびにPro-EGFの一次抗体、二次抗体、電気泳動関連の消耗品類(ゲルやメンブレインなど)である。また、動物実験に使用するマウスとそれに関連する試薬類などである。 さらに、Pro-EGFは細胞膜に局在していることから、組織標本作成委託をすることにより比較検討したいと考えている。
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Research Products
(5 results)