2013 Fiscal Year Research-status Report
海綿骨を考慮した下顎骨のイメージベース・大規模マルチスケール動的解析
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24593110
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Research Institution | Showa University |
Principal Investigator |
中納 治久 昭和大学, 歯学部, 准教授 (80297035)
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Keywords | 放射光CT / 下顎骨 / 有限要素法 / 動的解析 / 皮質骨 / 海綿骨 |
Research Abstract |
(目的)顎顔面領域では、X線CT画像を用いた有限要素法(以下FEM)が応用されている。FEMの多くは、計算量を減らすために静的問題として扱われている。しかし、咀嚼や衝突は荷重条件が時間とともに変化する非定常状態にあり、物体の慣性や減衰の影響を考慮する必要がある。 そこで本研究は、個体別FEMモデルで応力波伝播を可視化し、下顎骨右側の動的解析による皮質骨と海綿骨の応力伝播の特性を考察することを目的とした。 (方法)試料にはヒト下顎骨を用いた。下顎骨を9分割してマイクロCT(Shimazu,SMX-90T)で撮像、骨梁構造を103μm/pixelの分解能でとらえ、そのまま有限要素モデル化した。今回は下顎骨右側の4パーツのみを評価対象とし、骨髄は考慮せず、材料は線形弾性、等方性を仮定、分割の際にノコギリ歯の厚さだけ失われた情報を補うため、海綿骨領域をマルチスケール有限要素法によりモデル化した。さらに、仮想的なインプラントを埋入し、上面に衝撃荷重を負荷し、皮質骨、海綿骨に伝わる応力波の伝播経路の観察を行った。 (結果)10μsのごく初期の応力伝播経路は、インプラントネック部から皮質骨へと、インプラント先端部から海綿骨を介して皮質骨に伝播する2経路が主経路であった、さらに、インプラントネック部近辺の海綿骨は、インプラントネック部で皮質骨に直接伝播した応力波が海綿骨に達する経路と、インプラントから海綿骨に達する経路があった。30~50μs経過後の遠方への応力波伝播に大きな影響を与えているのは、インプラント先端から海綿骨を介して皮質骨に伝播する経路であった。 (考察)応力波がインプラントから海綿骨・皮質骨に伝播する様子が明瞭に観察できた。また、インプラント上面に与えた衝撃力が下顎頭に伝播する経路としては、インプラント先端から海綿骨を介して皮質骨に伝播する応力波が重要であると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1)放射光CTを用いて,皮質骨,海綿骨の微細形態の解析と真のCT値を求める,に関して.平成24年度の成果において,ヒト下顎骨皮質骨CT値は部位によって異なり,頬側顎角部(0.99~1.03)>下顎体頬側小臼歯部(0.98~1.01)>オトガイ部(0.94~1.01)の値を示した。現在,下顎骨皮質骨の正確なBMD値を求めるため,皮質骨サンプルおよび骨塩定量ファントムをμCTと放射光CTで撮影し,関連性を比較検討している.さらに,同じ皮質骨サンプルを用いて加圧試験を行い,μCTと放射光の違いを比較検討する予定である. 2)CBCTにおけるCT値を補正し,骨密度値と一致させる,3)μCTを用いて詳細な下顎骨の海綿骨梁構造を抽出し静的FEMモデルを作製する,および,4)イメージベース・大規模マルチスケール静的有限要素解析から動的解析への発展,に関して.分割下顎骨をマイクロCT装置(SMX-90CT)で撮像,下顎骨の合成画像を作製した後,イメージベース有限要素解析ソフトVOXELCON(くいんと製)を用いて下顎左側臼歯部にインプラントを埋入した打撃試験を想定した動的解析を行った.その結果,応力波の伝搬を要素数1,500万画素の下顎骨イメージベース・大規模動的解析を用いて可視化することができた.解析モデルに直径3.0mm×12.0mmのチタン製インプラントを埋入,100Nの打撃試験を行った結果,応力波はインプラントから約70.0mm離れた下顎頭まで0.025ミリ秒で伝搬し,その後,反響を繰り返していた.つまり,下顎骨は衝撃により微小に歪んでいることが示唆された.以上より,海綿骨を考慮した下顎骨イメージベース・大規模動的解析により,動的応答下で応力波がインプラントから海綿骨・皮質骨に伝播する様子が明瞭に観察が可能となった.動的解析に関しては,当初の計画以上に研究が進んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
1)放射光CTを用いて,皮質骨,海綿骨の微細形態の解析と真のCT値を求める,2)CBCTにおけるCT値を補正し,骨密度値と一致させる,に関して.下顎骨皮質骨の正確なBMD値を求めるため,皮質骨サンプルおよび骨塩定量ファントムをμCTと放射光CTで撮影し,関連性を比較検討している.しかし,同じ皮質骨サンプルを撮影しているにも係らず,撮影方法によってBMD値に大きな違いが認められた.現在,その原因が,撮影方法による違いなのか,解析ソフトの使用方法によるものなのか,特定するための追加実験を行っている. 3)μCTを用いて詳細な下顎骨の海綿骨梁構造を抽出し静的FEMモデルを作製する,4)イメージベース・大規模マルチスケール静的有限要素解析から動的解析への発展,に関して.上記皮質骨サンプルをCT撮影用加圧装置を用いて圧縮実験を行いながら放射光CT撮影を行った.今後は,皮質骨サンプルのμCTと放射光CTの撮影データを用いて,様々な条件で静的・動的FEM解析を行い,実際の圧縮試験で得られた骨破断結果との関連性を比較検討する予定である.特に,皮質骨における有限要素法(静的・動的)を行う際、モデルの条件設定がどの程度その解析結果に影響するか,以下の点(①~④)に関して検証を行う予定である.① 骨サンプルの採取部位による違い,② 撮影機器による違い(単色平行光である放射光と,コーンビームCTであるμCT),③骨密度の条件設定による違い(骨の構造のみをモデル化[二値化]した場合と,骨の構造と材質の不均質性を反映した場合),④ 骨の物性値(ヤング率等)の違い. 一方,動的有限要素解析には,短時間の衝撃問題と長時間の振動問題の二種類がある.その解析を行うためには,骨のヤング率のみでなく粘性係数を求める必要がある.今後,粘性係数を求めるための実験計画を立てる予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
調達方法の工夫などにより、当初計画より経費の節約ができたこと,相見積もり等の関係で製品の調達,納品,請求が遅れ平成26年度に支払いが変更されたため. 骨塩定量ファントム(246,750円),TRIトレーニング費用(52,500),DELL Precision T3610(150,000円),統計解析ソフトSPSS 21.0(320,000円),有限要素法解析ソフトTRI/3D-FEMレンタル費用(50,000円),成果発表(50,000円)
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Research Products
(4 results)