2012 Fiscal Year Research-status Report
低酸素誘導因子の歯周病への影響とその抑制蛋白の治療薬としての可能性
Project/Area Number |
24593125
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
木戸 淳一 徳島大学, ヘルスバイオサイエンス研究部, 准教授 (10195315)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
稲垣 裕司 徳島大学, 大学病院, 助教 (50380019)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 低酸素 |
Research Abstract |
歯周組織に関連する上皮細胞や線維芽細胞が歯周ポケット内の低酸素状態によりどのような影響を受けるのかを検討するために,H24年度の研究計画に従ってヒト口腔上皮細胞および歯肉線維芽細胞を低酸素培養(1% O2)を行い,細胞増殖,遺伝子の発現,アポトーシスおよび酸化ストレスなどへの影響を検討した。 上皮細胞を低酸素培養すると,約30%の細胞増殖抑制が認められた。遺伝子の発現ではサイトカイン類,S100A8/S100A9,ADM, VEGFなどの遺伝子発現をRT-PCR法とDNAマイクロアレイ法により検討した結果,上皮細胞では237個,線維芽細胞では42個の遺伝子発現の変化が認められた。特に上皮細胞では,低酸素状態のマーカーともいえるADMとVEGFの発現増加,TNF-aやIL-1bの炎症性サイトカインやRAGEの発現上昇が認められた。一方,IL-6, S100A8/S100A9や上皮細胞分化マーカーのInvolucrinの発現減少が見られた。歯肉線維芽細胞ではIL-6, VEGF, GLUT1の発現増加が認められた。これらの結果から上皮細胞と線維芽細胞の低酸素培養により,変化するサイトカイン種は異なるが炎症性サイトカインの発現が上昇し,炎症が惹起されていることが示された。また,上皮細胞の分化が抑制されていることが示唆された。さらに,アポトーシス(カスパーゼ活性)および酸化ストレス(ROS測定)への影響を検討した結果,低酸素培養によりROS活性には変化がなかったが,アポトーシスが抑制される傾向が認められた。 現在,低酸素反応の誘導因子であるHIF-1aの蛋白変化をWestern blot法で検討するとともに,DNAマイクロアレイ法により変化のあった遺伝子の網羅的な解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H24年度に計画していた歯周組織関連細胞(上皮細胞,線維芽細胞)への低酸素培養でのHIF,炎症-免疫関連因子の発現,アポトーシスおよび酸化ストレスへの影響について,H24年度は上皮細胞と線維芽細胞を用いてサイトカインや抗菌ペプチドの発現への影響をRT-PCR法やDNAマイクロアレイ法で検討した。マイクロアレイ分析結果の網羅的な解析は進行中である。上皮細胞については,アポトーシスと酸化ストレスへの影響についても調べた。一方,HIF-1aの遺伝子発現は調べたが,同蛋白の定性を行うウェスタンブロットは成功しておらず,現在複数の抗体種で検討を行っている。また,歯肉線維芽細胞でのHIF発現,アポトーシスや酸化ストレスへの影響の検討は,実験に必要な細胞数の確保が十分でなく,今後の課題である。現状を総合的にみるとH24年度の研究計画は概ね実施しており,計画は進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後,現在進行中の上皮細胞と線維芽細胞のDNAマイクロアレイ分析結果の網羅的な解析およびHIFの蛋白同定などを行う。また,細胞増殖が不安定なヒト歯肉由来線維芽細胞を確保するために,市販の同種に細胞や智歯抜歯時に切除される歯肉組織片からの線維芽細胞の調製を進める予定である。なお,歯肉片採取を行う際の臨床研究倫理審査委員会での承認はすでに得ている。 H25年度の研究計画については,上皮細胞や線維芽細胞を用いて低酸素培養状態での歯周病原細菌由来LPSによるサイトカイン類や抗菌ペプチドなどの発現への影響,アポトーシスや酸化ストレスへの影響を検討する。また,低酸素培養によりそのレセプター(RAGE)の発現上昇が確認された最終糖化産物(AGE)による同様の影響についても検討を行う予定である。これらの検討により,低酸素状態でのLPSやAGEの炎症や組織破壊の増悪作用を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上述したH25年度の研究計画に基づき,上皮細胞および線維芽細胞を分離や培養を行い,細胞をLPSやAGEの存在下で低酸素培養する。これらの処理細胞を用いて各種遺伝子の発現をPCR法やDNAマイクロアレイ法で調べ,蛋白の発現を各ELISAキットやウェスタンブロット法を用いて定性・定量する。また,アポトーシスや酸化ストレスへの影響を検討する。これらの実験のために,細胞培養用培地,血清や試薬,P-gingivalis由来LPSやAGE作製用試薬などの購入が必要となる。また,PCR関連の酵素や各種キット,蛋白同定用の抗体とELISAキットの購入を予定している。さらに,DNAマイクロアレイ分析の外部委託を行う予定である。これらの研究結果は,歯周病学会などの学会で発表する予定でありその旅費も必要となる。 なお,次年度への繰越額は,本年度実施できなかった歯肉線維芽細胞の低酸素培養によるアポトーシス反応の検出用キットの購入に使用する予定である。
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