2012 Fiscal Year Research-status Report
慢性の病いにおける他者への「言いづらさ」と看護のあり方を基盤とした看護理論の構築
Project/Area Number |
24593223
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Gifu College of Nursing |
Principal Investigator |
黒江 ゆり子 岐阜県立看護大学, 看護学部, 教授 (40295712)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
寳田 穂 大阪市立大学大学院, 看護学研究科, 教授 (00321133)
藤澤 まこと 岐阜県立看護大学, 看護学部, 教授 (70336634)
田中 結華 摂南大学, 看護学部, 教授 (80236645)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 言いづらさ / 慢性疾患 / クロニックイルネス / 生活者 / インタビュー / 看護職 / アーキタイプ / モチーフ |
Research Abstract |
慢性の病いを持つ人々へのインタビューから描き出された個々のライフストーリーを基盤に慢性の病いにおける「言いづらさ」の特性を導くため、病いのある生活において人々がどのような「言いづらさ」を経験しているかに関するクライアント領域の特性について洞察を深め記述した。第一に、R.アトキンソンによる「私たちの中にある物語:人生のストーリーを書く意義と方法」の訳者である塚田守氏を招いてセミナーを開催し、慢性の病いにおける「言いづらさ」が、‘他者に伝える言葉が見出せない'、‘他者の戸惑いへの気遣い'、‘他者との気まずさを避ける'等から生じていること、しかしながら‘「わかる」人との出会い'あるいは‘言う人と言わない人に一線を引く'ことにより、いつしか変化が生まれ、‘言わずに済むなら言わない’から‘自然に伝える’ことに繋がる等について論議した。これらの「言いづらさ」のストーリーには、回復の語り、混沌の語り、探究の語りがそれぞれのかたちで現れていることを含め意見交流を行った。 第二に、米国南メイン州立大学よりR.アトキンソン氏を招聘し、ライフストーリーインタビューについての2日間のセミナーを開催した。人間は語ることによって生き方を変化させる可能性をもっていること、また、人間が共通に経験する主要な要素としてのアーキタイプ(archetype)およびモチーフ(motif)について意見交流を行い、病いとともに生きることに包摂される「言いづらさ」は文化によって異なり、文化に伴うアーキタイプがあること等について意見交流を行った。 第三に、看護理論におけるクライアント領域の考え方について、H.S.Kimによる「看護学における理論思考の本質」の抄読会を継続した。これらの洞察にもとづき慢性の病いにおける「言いづらさ」の特性について一部論述を行なった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的の第一に示している‘慢性の病いをもつ人々へのインタビューから描き出された個々のライフストーリーから慢性の病いにおける「言いづらさ」の特性を導き、慢性のある生活において人々がどのような「言いづらさ」を経験しているかを洞察する。その内容をふまえ、クライアント領域の特性を論述する。’を推進し、洞察を深めた。 慢性の病いにおける他者への「言いづらさ」には近隣の人々、職場の人々、家族、友人等が登場するが、慢性の病いのある生活において人々は、病気をどう説明するかわからないあるいは説明しても理解されない等の経験をすると、自分の病気について言えなくなったり、言わないでいること自体に辛さを抱くことがある。これらをアーキタイプ(元型)的経験として解釈すると、慢性の病いにおける「言いづらさ」のストーリーは、それまでの生活から別離し、病いとともにある生活を歩み出すことから始まり、それは、親しんだパターンに戻るものではなく、未知なるものとの遭遇を意味する。「言いづらさ」には、社会に存在する病気についての特定のイメージや偏見に直面することが含まれ、病気に関わる状況を他者にどのように伝えるかで葛藤が続く。そのような中で、「わかる」人に出会うことは他者からの支えを得る機会となり、言う人と言わない人に一線を引くことが可能であることに気づくことによって将来がかすかに見えるようになる。以前より全体性を見ることができ、意識が拡大し、自己の潜在能力が解き放たれる。そのような経験が過ぎると、病気のある生活について他者に伝えることを試み、それが歓迎されると自分の贈り物が受け取られる経験となり、自覚的に生きることを伴い自らの存在が少し安定したものになる。それは、私たち人間が、贈り物を他者と共有したいと思うからこそなのであり、そうすることで新たな調整に向かう準備ができると考えられた。
|
Strategy for Future Research Activity |
H.S.キムによる看護理論構築を基盤としてクライアント領域の論述を洗練させるとともに、慢性の病いとともに生活を送っている人々へのインタビューをライフストーリーインタビューの考え方に基づき実施し、クライエント領域の論述内容の確認を行う。特に、R.アトキンソンによる‘人間に共通して主要な要素であるアーキタイプ(元型)’と‘マイナーな要素としてのモチーフ(motif)’について、それぞれの解釈を深める。 また、慢性の病いにおける「言いづらさ」に関するクライアント領域の論述内容について、慢性の病いとともに生活を送っている人々のケア提供者である看護職者にグループインタビューを実施し、クライエント領域およびクライアント・ナース領域の特性について討議を行い、看護理論構築におけるクライアント・ナース領域についての論述を推進する。さらに、看護理論の構築については、H.S.キムおよびP.L.チン等による著作に基づき、広い視点での抄読会を継続する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該研究を推進するための研究会を今年度と同様に定期的に開催(開催予定地:大阪)し、看護理論の構築およびライフストーリー・インタビューについての知見を共有し、討議を深めるとともに、慢性の病いを持つ人々にケアを提供している看護職者によるグループインタビューを実施する企画を行う。〔旅費、会場費、資料作成費等〕 当該グループインタビューにおいては、ケアを提供している看護職者(糖尿病、神経難病、炎症性腸疾患、精神疾患、HIV等におけるケアを専門領域とする者)を招待し、クライアント領域の論述内容を確認するとともに、クライアント・ナース領域の論述を推進するための意見交流を実施する(開催予定地:岐阜県立看護大学)。〔通信費、旅費、会場費、謝礼等〕 また、H.S.キム等との交流の充実を図り、看護理論構築についての理解を深める機会をもつ。これらの取り組みをふまえ、慢性の病いにおける他者への「言いづらさ」に関するクライアント領域およびクライアント・ナース領域についての論述を行う。〔通信費、図書費、旅費等〕
|
Research Products
(5 results)