2013 Fiscal Year Research-status Report
開発途上国における日本型助産技術研修の継続的開催及び受講者情報システム構築の研究
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24593370
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
大嶺 ふじ子 琉球大学, 医学部, 教授 (40295308)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
垣花 シゲ 琉球大学, 医学部, 教授 (50274890)
玉城 陽子 琉球大学, 医学部, 助教 (70347144)
遠藤 由美子 琉球大学, 医学部, 准教授 (90282201)
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Keywords | 南スーダン共和国 / 保健人材育成プロジェクト / 助産師現任教育 / 研修後フォローアップ / 半構造的聞き取り調査 / 質的内容分析 |
Research Abstract |
本研究における助産師現任研修は、施設出産のみならず、南スーダンの80%を占める自宅出産を視野に入れた、日本の開業助産師の知恵と技術の提供を研修の柱にしている。2010年から2011年において、南スーダン政府保健省、州保健省の人材課及び看護助産課とJICAとの連携チームを基本組織とし、首都ジュバ市における本現任研修を3回実施した。2013年から2014年において、さらに現任研修を実施し、研修情報ネットワークの基盤整備のための人材基礎調査の実施や研修受講者評価を計画したが、2013年当初よりの政治的不安定による治安悪化で本プロジェクトが2013年6月末で終了するとの決定がされた。2014年度で実施する予定であった研修後フォローアップ調査を、2013年5月上旬で実施する方向で計画変更し実施した。南スーダンの助産師たちが、現任研修後に学んだ知識やスキルを、妊産婦や地域の人々、同僚助産師との相互関係の中で必要時調整しながら応用していくプロセスをM-GTA (Modified Grounded Theory Approach)を用いて質的に分析し、その結果から、南スーダンで現任研修受講後助産師が体験する研修内容の現場への適用プロセスを明らかにすることで、研修の効果発現に影響を及ぼす要因を検討、今後の南スーダンで実施される現任研修の質的向上に寄与することが期待される。 調査対象は、2010年から2011年において、Juba市で3回実施した助産師研修の修了生5名(医療・保健施設で指導的立場にあり、英語の研修を理解できる者という条件のもと全国から選抜された助産師)、および研修協力者6名。 調査時期は、2013年4月26日~5月12日(最後の研修から約一年半後)。 調査方法は、研修受講助産師5名に対して、半構造的面接方法で、一人当たり2時間程度の聞き取り調査を行い、質的内容分析で研修評価を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査内容の質的分析の結果、南スーダンの指導的助産師が現任研修で得たことをスキルとして身につけるプロセスについて分析できた。 助産師は、内戦状態の過酷な現状の助産活動を経験する中で、大量出血死や死産などの悲しい経験を通して命を助けたいという使命感を日頃から抱いていた。研修で学ぶ様々な情報の中から、現状では不本意でどうしようもないと捉えていた現象に救命の可能性を見いだし、<実践加速要因>となり、外部支援団体や妊産婦への働きかけなどの実践、関係者のニーズを検討・調整しながら徐々にあるいは一気に新しいケアを取り入れ、その体験を繰り返すことで 「命を救うスキルの蓄積」を行っていた。例えば、マラリア薬配布やHIV検査などが主な業務であった妊婦健診で、触診や胎児心音確認などの技術を取得し、異常の早期発見、医師に照会・引き継ぐことで母子死亡を防げる可能性を学んだ。助産師は職場で新しい知識やスキルの実践を試みるが、分娩姿勢や分娩異常、地域の慣習へのこだわり、外部支援物資不足や、妊娠・出産に対する女性の無知といった<実践停滞要因>が実践を難しくする。実際にケアを取り入れたことでスムーズなお産を体験、危機に面していた母子に良い結果をもたらすといった成功体験により地域の人々から尊敬されるなどの「他者承認」を経験、研修で知識を増やしたいという学習意欲を増して研修に参加していた。指導的助産師は、研修での学びを同僚に伝える努力を行い、読み書きを伴わない効果的な指導方法、妊産婦への助産ケアの実践の成功体験から蓄積されたスキルへの自信、同僚の助産スキルの向上・実践による指導者の業務量減少を体験していた。これらが指導の継続動機となり、そのバランスが上位に保たれることで指導継続の結果、助産ケアの質向上を可能にしていた。さらに、指導継続実践は、助産師の命を救うスキルの蓄積を促進していく力となっていた。
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Strategy for Future Research Activity |
保健医療教育が確立していない南スーダンでは、助産師の専門技術教育は、諸外国の支援団体が様々な内容や期間(2・3か月~1年)で行う、非常に「薄い」basic trainingが主流であり、十分に理解されていない現状がある。特に、助産師と見られているTBAや村落助産師のほとんどは、読み書きが出来ず、basic trainingの内容は、助産の基礎や薬の種類などを「歌」で覚えるなど、長年培ってきた経験的手法はあるが、助産に対する解釈も様々であると思われる。教育へのアクセスが極端に限られており、安全なお産を妨げる様々な環境・文化的要因が存在する南スーダンにおいて、助産師現任研修受講者が地元に戻ってスキルを構築していくプロセスを明確にし、どのような促進・抑制要因があるのか検討した。その結果、助産師たちは、3回の本研修を通して様々な情報が共有され、特に妊婦検診の触診を含むphysical examination、新生児蘇生法、分娩第3期オキシトシン使用技術を取得し実践していた。蘇生法とオキシトシンの使用に関しては、直接的に母子の生死に影響を及ぼすケアであり、日ごろから出血死や死産を経験している彼女たちにとって価値のある情報であった。妊婦健診は、研修前は最高4回の健診でマラリアや貧血の薬の配布、HIV検査など一部の業務のみで、内容の記録もままならず、出産につなげる情報は取られていない単発業務であった。研修後は、触診、胎児心音確認、体重測定などの身体検査、予定日計算、骨盤位などの異常があれば早期発見も可能であり医療施設に照会できたという変化がみられ、多分野に広がる助産師活動をサポートし、自己効力感を強化する研修内容を取り入れる必要があることが示唆された。次年度は、持続可能な研修を推進するため、未分析である受講者情システム考察や助産師現任研修協力者6人の調査内容の質的分析を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究調査対象国の治安悪化のため、本プロジェクトが平成25年7月に早期終了することになった。平成25年度の研究計画を変更し、平成26年度に実施予定であった助産師現任教育フォローアップ調査を行う目的を可能にするため、平成26年度予算を前倒しで使用した。その為平成26年度の予算が不足しており、平成25年度の直接経費を繰り越した。 「南スーダン戦略的保健人材育成プロジェクト」の助産師現任教育フォローアップ調査結果に関連する、学会発表旅費と物品費などに使用予定。
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Research Products
(7 results)
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[Presentation] 自閉症児のきょうだいの想い
Author(s)
辻野久美子, 沓脱小枝子, 村上京子, 儀間繼子, 鈴木ミナ子, 大嶺ふじ子, 遠藤由美子, 玉城陽子
Organizer
第33回日本看護科学学会学術集会
Place of Presentation
大阪国際会議場
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