2012 Fiscal Year Research-status Report
東アジアの保育における絵本環境に関する国際比較研究
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24600010
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
横山 真貴子 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (60346301)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 絵本 / 東アジア / 保育 / 環境 |
Research Abstract |
本研究の目的は,東アジア4地域(日本・韓国・香港・台湾)の保育における絵本環境を比較文化的に描き出すことである。そのため,(a)国・地域,(b)幼稚園,(c)保育者の3つのレベルから,幼稚園5歳児クラスの絵本環境を「理念・施策」と「実践」の2側面から調査する。国際比較調査は3年間のスパンで実施し,初年度である平成24年度は日本の絵本環境を明らかにしながら調査の枠組みを固め,次年度以降の調査に備えた。併せて,韓国における(a)国・地域,(b)幼稚園レベルの調査を実施した。 日本の絵本環境:「理念・施策」に関して(a)国レベルの調査を,主に「幼稚園教育要領」「保育所保育指針」(2008)について行った。(b)幼稚園調査は,所属大学の附属幼稚園で実施し,「理念・施策」に関しては「教育課程」を中心に分析した。(c)保育者調査は「理念・施策」に関しては5歳児の担当保育者に「保育・絵本観」についてインタビューし,「実践」については,週1回,合計29回,登園から降園まで観察を行った。保育環境の写真撮影とともに,子どもが絵本とかかわる場面をビデオカメラで撮影した。上記調査から,日本の幼稚園の絵本環境の特徴を描き出した。 韓国の絵本環境:「理念・施策」に関して(a)国レベルの調査では,主として「幼稚園教育課程」(ヌリ課程,2012)を分析した。(b)幼稚園調査は,平成24年8月26日~29日に,他国の共同研究者を含めた“Global Childhoods Project”のシンポジウムを韓国(梨花女子大学校)で開催した際,梨花女子大学校附属乳幼児教育センターを訪問した。保育理念に関してセンター長と懇談するとともに,絵本環境を写真撮影した。子どもと絵本のかかわり,及び(c)保育者調査は,平成25年度に実施予定である。これらの調査結果から,韓国の幼稚園の絵本環境の特徴を描き出す予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成24年度は,①日本の絵本環境を明らかにした上で調査の枠組みを固め,②韓国での調査を実施し,絵本環境を描き出すことを予定していた。①日本での調査は以下にまとめる成果を得て目的を達したが,②韓国調査に関しては,訪問先の都合により,(b)幼稚園調査における子どもと絵本のかかわり,及び(c)保育者調査が次年度に繰り越された。 日本の絵本環境:「理念・施策」に関して,(a)国レベルでは「絵本」は主として「言葉」の領域において重要な教材として位置づけられていた。(b)園レベルでは「絵本を見る」ことが全ての年齢において保育内容に位置づけられ,「言葉」だけではなく「安定」「人間関係」「表現」においても重視されていた。(c)保育者レベルでは,絵本は言葉を育て,クラスのつながりを強める重要な教材だと捉えていた。「実践」については,5歳児は年間を通して絵本や図鑑をみたり,よんだりしており,特に2学期以降は,絵本を見ながら折り紙を折るなど,目的的に絵本を読むようになることを見出した。以上より,日本においては「絵本」はいずれのレベルにおいても「言葉」を育てる教材として重視され,保育において欠かせないものであること,さらに園,保育者では,単に「言葉」の教材としてではなく,子どもに情緒の安定をもたらし,信頼関係を築くものと捉え,幅広い絵本の意義を認めて,積極的に保育に取り入れていることを明らかにした。 韓国の絵本環境:「理念・施策」に関して(a)「幼稚園教育課程」(2012)では,絵本は「意思疎通」の領域に含まれ「文字と本に親しむ経験を通じて,文字の形を認識して,読むことに興味を持つ」ことが求められており,より「読む」ことにつなぐ教材として位置づけられていることを明らかにした。(b)園,(c)保育者レベル,「実践」に関する調査は,平成25年度に実施し,韓国の絵本環境の特徴を描き出す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
韓国の絵本環境:「理念・施策」に関して,訪問調査を平成25年7月に実施する。環太平洋乳幼児教育学会の世界大会(The 14th PECERA Annual Conference in Seoul, Korea,梨花女子大学校,7月4~6日)の参加に重ねて訪問し,梨花女子大学校附属乳幼児教育センターでの観察,保育者へのインタビュー調査を実施する。これらの結果を総合し,韓国における絵本環境の特徴を描き出す。 台湾の絵本環境:日本国内で(a)国レベルの資料調査を行った上で,平成26年2月に台湾を訪問し,(b)幼稚園,(c)保育者レベルの調査を実施する。台湾滞在中,5歳児1クラスの観察を1日,登園から降園まで全日行い,その後保育者にインタビューを行う。分析は,台湾の絵本環境を描き出すと共に,日本・韓国・台湾の3カ国比較も行う。 香港の絵本環境:日本国内で(a)国レベルの資料調査を行った上で,平成26年7月には香港での訪問調査を実施し,(b)幼稚園,(c)保育者レベルの絵本環境について明らかにする。 4カ国の絵本環境の比較:随時,海外の共同研究者と意見交換し,分析・考察を深める。また,国内で開催される国際的な保育・幼児教育の動向を追う研究会等にも参加する。これらを踏まえ,東アジアの保育における絵本環境を描き出し,グローバル化に対応する力をはぐくむための絵本環境のあり方について展望をまとめる。 研究成果の公表:国内外の所属学会で,随時,成果を発表する。発表し,他の研究者との意見交流を行うことで,研究の軌道修正を行う。また関連領域の最新の研究動向と情報を収集する。3年間の最終的なまとめとして,平成27年2月(あるいは3月)に,韓国・香港・台湾の共同研究者を日本に招聘し,東アジアの保育における絵本環境についてシンポジウムを開催する。学術的には,本研究の結果を雑誌論文として投稿する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は,合計1,500,000円程度の研究費を使用予定である。研究の中心は,韓国・台湾の絵本環境を明らかにするための訪問調査である。渡航費用と研究の成果発表・情報収集のための学会・研究会参加に要する国内旅費が主要な用途である。その他,韓国・台湾で得たデータを文字化・翻訳するための人件費,資料の分析・保存のための消耗品費,研究資料としての書籍代,学会参加の必要経費を以下の通り使用予定である。 旅費:607,000円,(1)外国旅費280,000円:①韓国訪問調査7月(3泊4日)130,000円,②台湾訪問調査2月(4泊5日)150,000円,(2)国内旅費327,000円:①学会:195,000円。研究成果の公表,最新の研究動向・情報収集のため,以下の国内4学会に参加し,発表を行う。日本保育学会(福岡),日本教育心理学会(東京),日本乳幼児教育学会(千葉),日本発達心理学会(京都)。②保育・幼児教育関連研究会:132,000円。近年の国内外の保育・幼児教育の改革を受け,その動向を追う研究会が数多く,主に東京で開催されている。参加に重ねて,国立国会図書館国際子ども図書館(東京)での資料収集も実施する。3回程度の参加を計画。 人件費・謝金:450,000円,韓国・台湾での訪問調査のインタビュー記録の文字化・翻訳作業に関しての謝金を計上した(90分×2,500円×2カ国)。 消耗品費:340,000円,(1)プリンタートナー・感光体,(2)DVDディスク(分析・協力者提供分),(3)書籍200,000円 調査対象国の絵本(原語・日本語訳)および保育施策等の関連図書。 その他:104,000円,学会参加のための必要経費として,以下の通り計画した。(1)主要学会年会費14.000円,(2)学会参加費90,000円(PECERA50,000円,国内4学会40,000円)。
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