2013 Fiscal Year Research-status Report
東アジアの保育における絵本環境に関する国際比較研究
Project/Area Number |
24600010
|
Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
横山 真貴子 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (60346301)
|
Keywords | 絵本 / 東アジア / 保育 / 環境 |
Research Abstract |
本研究の目的は,東アジア4地域(日本・韓国・香港・台湾)の保育における絵本環境を比較文化的に描き出すことである。そのため(a)国・地域,(b)幼稚園,(c)保育者の3つのレベルから,幼稚園5歳児クラスの絵本環境を「理念・施策」(保育全般・絵本)と「実践」(物理的環境・人的環境)の2側面から調査する。国際比較調査は,3年間のスパンで実施し,研究2年目である平成25年度は韓国での現地調査を実施し,上記2側面からの研究結果をまとめた。また,台湾の絵本環境「理念・施策」を明らかにし,最終年度における現地調査の枠組みを固め,調査の実施に備えた。 韓国の絵本環境:「理念・施策」に関して,主に「幼稚園教育課程」(ヌリ課程,2012)を分析した。「実践」に関わっては,前年度8月の「梨花女子大学校附属乳幼児教育センター」の訪問調査に加え,平成25年7月に環太平洋乳幼児教育学会の世界大会(7月)の参加に重ね,「延世大学校子どもの発達研究所」を訪問し,実施した。その結果,韓国の絵本環境の特徴として,保育における「本(絵本)」の位置づけは高く,蔵書・絵本の部屋など園内の絵本環境を整え,家庭と連携しながら絵本と子どものかかわりを促していること,その際,より学力向上(読み書き能力)につなぐ教材として「本(絵本)」を捉えていることを明らかにした。 また学会参加の機会に,海外共同研究者との打ち合わせを実施し,台湾・香港における訪問調査の実施の具体について検討した。 台湾の絵本環境:「理念・施策」に関して,(a)国レベルの調査では「幼児教育及照顧法」(2012),及び「幼稚園」と「托児所(保育所)」を一体化する施策「幼托整合政策」を分析した。(b)幼稚園・(c)保育者レベルの調査,及び「実践」に関わる調査は,平成26年度に実施し,これらの調査結果から,台湾の幼稚園の絵本環境の特徴を描き出す予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度は,①韓国の絵本環境を,現地の幼稚園調査を実施した上で,「理念・施策」「実践」の両側面から描き出すこと,②台湾の絵本環境について,(a)国レベルの調査を国内で実施した後,現地訪問調査を実施することを予定していた。①韓国の絵本環境については,以下にまとめる成果を得て目的を達したが,②台湾の調査に関しては,訪問先の都合により,(b)幼稚園,及び(c)保育者レベルの調査が次年度に繰り越された。 ①韓国の絵本環境:「理念・施策」に関して,「幼稚園教育課程」(ヌリ課程,2012)では,絵本は「意思疎通」の領域に含まれ「文字と本に親しむ経験を通じて,文字の形を認識して,読むことに興味を持つ」ことが求められていた。「本」は見ることを楽しむとともに,内容を理解し(認知),大切に扱う(道徳)ことに主眼が置かれ,小学校教育への接続を意識した,より「読む」ことにつなぐ教材として位置づけられていた。「実践」に関しては,現地の幼稚園調査から,多様な絵本蔵書,絵本の部屋の設置など,保育における絵本の位置づけは高く,保護者への絵本の貸出喚起など,絵本を介して子どもの育ちを園と家庭とで共に支える取組が,韓国の絵本環境の特徴として指摘された。 ②台湾の絵本環境:「理念・施策」に関して,平成24年度施行の「幼児教育及照顧法」,及び「幼托整合政策」を分析した。法を整備して幼保を一体化することで,就学前教育を標準化し,「教保(幼児教育と保育)」と「小」の一貫性を重視し,特に5歳児以上の準義務教育化を目指す施策が取られていた。子どもの読書事情は,子ども自身ではなく「本(絵本)」の購入者である保護者にアピールするため,保護者が期待する「ためになる読書」が強調されていた。韓国同様,楽しみとしての「本(絵本)」ではなく,小学校以降の学力につなぐ教材として絵本が捉えられていることが明らかになった。
|
Strategy for Future Research Activity |
保育における絵本環境の東アジア4地域(日本・韓国・香港・台湾)の国際比較をまとめるために,まず現地調査が未終了の①台湾,②香港の調査を完了させる。その上で,本研究の最終年度である平成26年度末には,研究成果を公表する目的と併せ,③東アジアの保育における絵本環境についてシンポジウムを実施し,最終的なまとめを行う。 ①台湾の絵本環境:「理念・施策」に関して,(a)国レベルの「幼児教育及照顧法」(2012)の調査結果が,どのように(b)園,(c)保育者レベルに反映しているのか,現地幼稚園の訪問し,観察及びインタビュー調査を平成25年10月に実施して明らかにする。 ②香港の絵本環境:日本国内で(a)国レベルの資料調査を行った上で,平成26年12月に香港での訪問調査を実施し,台湾での調査同様,(b)幼稚園,(c)保育者レベルの絵本環境について明らかにする。 ③東アジア4国の絵本環境についてのシンポジウム (a)4カ国の絵本環境の比較:随時,海外の共同研究者と意見交換し,分析・考察を深める。特に,環太平洋乳幼児教育学会の世界大会(The 15th PECERA Annual Conference in Bali,8月)の参加に重ねて,共同研究者との打ち合わせを持ち,4カ国比較の中間まとめを行う。また,国内で開催される国際的な保育・幼児教育の動向に関する研究会等にも参加し,世界的な幼児教育の変革の流れを捉えた上で,グローバル化に対応する力をはぐくむための絵本環境のあり方について展望をまとめる。(b)研究成果の公表:研究結果は国内外の所属学会で,随時,発表する。研究をまとめ,発表し,他の研究者と意見交流を行うことで,研究の軌道修正を行う。また関連領域の最新の研究動向と情報を収集する。平成27年3月には,韓国・香港・台湾の共同研究者を日本に招聘し,絵本環境についてのシンポジウムを開催する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究内容は,主に①韓国,及び②台湾の絵本環境について,(a)国レベルの調査を国内で実施した後,(b)幼稚園,(c)保育者レベルの調査は,現地幼稚園を訪問して実施する予定であった。しかし,②台湾での現地調査は,訪問先の都合により,実施することができなかった。そのため,台湾への渡航費用,台湾での調査データを文字化・翻訳するための人件費・謝金費用の支出がなくなり,次年度使用額が生じた。 平成26年度は,合計1,800,000円程度の研究費を使用予定である。研究費の中心は,①台湾・香港の絵本環境の訪問調査費と,②シンポジウムのための海外研究協力者3名の招聘費用である。 ①訪問調査費:台湾・香港への渡航費用と研究の成果発表・情報収集のための国内の学会・研究会参加費が主な用途である。その他,データを文字化・翻訳するための人件費・謝金,資料の分析・保存のための消耗品費,研究資料としての書籍代,学会参加の必要経費を以下の通り計上した。旅費:740,000円,外国旅費 500,000円,国内旅費 240,000円。人件費・謝金:300,000円(訪問調査時のインタビュー記録の文字化・翻訳料)。消耗品費:320,000円,プリンタートナー等120,000円,書籍200,000円。その他:94,000円,学会年会費14,000円,学会参加費80,000円。 ②シンポジウム開催費 共同研究者の招聘費用として旅費330,000円を計上した。
|