2014 Fiscal Year Research-status Report
東アジアの保育における絵本環境に関する国際比較研究
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24600010
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
横山 真貴子 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (60346301)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 絵本 / 東アジア / 保育 / 環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、東アジア4地域(日本・韓国・香港・台湾)の保育における絵本環境を比較文化的に描き出すことである。そのため(a)国・地域、(b)幼稚園、(c)保育者の3つのレベルから、幼稚園5歳児クラスの絵本環境を「理念・施策」(保育全般・絵本)と「実践」(物理的環境・人的環境)の2側面から調査する。平成26年度は香港の絵本環境「理念・施策]を明らかにし、4地域の絵本環境の「理念・施策」の比較を完了し、結果をまとめた。 香港の絵本環境:香港では2000年に「香港教育制度改革建議」が発表され、「協調学前服務」と呼ばれる幼保一元化政策が進められた。保育内容に関しては、2006年に2~6歳児に対する「Guide to the Pre-primary Curriculum」が改訂された。そこでは「就学前教育の教育課程」の枠組みとして、子どもの発達の4領域(身体、認知・言語、感情・社会、審美)に基づき、6つの学習領域(健康、言語、自己と社会、算数、科学・技術、美術)が設けられている。各学習領域には、子どもが習得すべき内容とのそのための教師の指導が書き込まれており、絵本(本)は「言語」に含まれている。長くイギリスの植民地であった香港では、「言語」に「第二言語(英語)」の習得が含まれている点が特徴的であり、より認知的な発達に重きを置いた、知識・スキルの習得・学習を重視した保育内容となっていた。 4地域の絵本環境の「理念・施策」比較:保育内容に関して、香港を含め、各国の幼保一体化・一元化のナショナルカリキュラムの分析を行い、日本ならではの絵本環境として「理念・施策」のレベルにおいて、特に「想像する楽しさ」「豊かなイメージ」「先生や友達との心の通い合い」を取り出した。 次年度は「実践」の側面からの調査を進め、東アジアの絵本環境について、各国、及び共通の特徴を描き出していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成26年度は、①台湾の絵本環境を現地調査を実施した上で「理念・施策」「実践」の両側面から描き出すこと、②香港の絵本環境について(a)国レベルの調査を国内で実施した後、現地調査を実施し、その特徴を描き出すこと、①②の結果を踏まえ、③東アジア4地域の絵本環境についてのシンポジウムを開催することを予定していた。しかし、訪問先との日程調整が十分にできず、①台湾、②香港の現地調査が実施できなかった。これに伴い、③東アジア4地域の絵本環境についてのシンポジウムも次年度に繰り越されることとなった。ただし、国内で調査可能な、東アジア4地域の絵本環境についての「理念・施策」については、各国のナショナルカリキュラムを分析し、以下にまとめる成果を得た。 東アジア4地域の絵本環境の比較:日本については「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」(2014)を分析し、日本の「理念・施策」の特徴として「想像力・イメージ」「人とのつながり」を抽出をした。韓国については「幼稚園教育課程」(ヌリ課程,2012)を分析した。「本」は内容理解(認知)や大切に扱う(道徳)ことが重視され、小学校教育の「読む」ことにつなぐ教材として位置づけられていた。 台湾については「幼児教育及照顧法」(2012)を分析した。幼小の一貫性が重視され、楽しみとしての「本(絵本)」ではなく小学校以降の学力につなぐ教材として捉えられていた。香港については「Guide to the Pre-primary Curriculum」(2006)を分析した。「本(絵本)」は「a.読む技術、b.読むことへの興味、読む習慣、c.物語理解、d.単語、e.読むことから学ぶ」ことが習得すべき内容として挙げられていた。 以上、日本を除く東アジア3地域では、絵本環境において、より認知的な側面から学力を伸ばすための言語知識・スキルの習得が重視されていた。
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Strategy for Future Research Activity |
保育における絵本環境の東アジア4地域の国際比較を「理念・施策」「実践」の両側面からまとめるために、現地調査が未終了の、①台湾、②香港の調査を完了させる。その上で、平成27年度末には、③東アジアの保育における絵本環境についてシンポジウムを実施し、研究成果を公表し、最終的なまとめを行う。 ①台湾の絵本環境:「理念・施策」に関して、(a)国レベルの「幼児教育及照顧法」(2012)の調査結果が、どのように(b)園、(c)保育者レベルに反映しているのか、現地幼稚園の訪問調査を平成27年8月に実施して明らかにする。4日程度滞在し、5歳児1クラスの観察、保育者にインタビューを行う。これらの調査結果を分析し、台湾の絵本環境を描き出す。 ②香港の絵本環境:台湾同様、「理念・施策」に関して(a)国レベルの「Guide to the Pre-primary Curriculum」(2006)の調査結果が、どのように(b)幼稚園、(c)保育者レベルに見られるのか、平成27年9月に現地幼稚園の訪問調査を実施する。4日程度滞在し、5歳児クラスの観察・保育者へのインタビューを実施する。これらの調査結果の分析を通して、香港の絵本環境について明らかにする。 ③東アジア4地域の絵本環境についてのシンポジウム (a)4地域の絵本環境の比較:随時、海外の共同研究者と意見交換し、分析・考察を深める。環太平洋乳幼児教育学会世界大会(The 15th PECERA Annual Conference in Sidny,7月)の参加に重ねて、共同研究者との打ち合わせを行い、中間まとめを行う。 (b)研究成果の公表:研究結果は国内の所属学会で、随時、発表する。他の研究者と意見交流を行い、研究の軌道修正を行う。平成28年2月には、韓国・香港・台湾の共同研究者を日本に招聘し、東アジアの絵本環境についてのシンポジウムを開催する。
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Causes of Carryover |
予定していた、①台湾の絵本環境の現地調査、②香港の絵本環境の現地調査、及び①②の結果を踏まえた、③東アジア4地域の絵本環境についてのシンポジウム開催が年度内に実施できず、次年度に繰り越しとなったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、合計600,000円の研究費を使用予定である。研究費の中心は、①台湾・香港の絵本環境の訪問調査費と、②シンポジウムのための海外研究協力者3名の招聘費用である。 ①訪問調査費:台湾・香港への渡航費用が主な用途である。旅費:300,000円:(a)台湾調査 8月(4泊5日)150,000円,(b)香港調査 9月(4泊5日)150,000円。②シンポジウム開催費:共同研究者の招聘費用(3泊4日)として、旅費300,000円を計上した。内訳は以下の通りである。韓国90,000円,台湾90,000円,香港120,000円。
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