2012 Fiscal Year Research-status Report
格差社会が子どもの健康と命に及ぼす影響の早期発見と自分で自分を守る力を育む教育
Project/Area Number |
24600025
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Aoyama Gakuin Women's Junior College |
Principal Investigator |
渡部 かなえ 青山学院女子短期大学, 子ども学科, 教授 (50262358)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 健康格差 / 生きる力 / 国際研究者交流スウェーデン / 国際研究者交流ニュージーランド / 国際研究者交流アメリカ合衆国 |
Research Abstract |
日本の子ども達の健康と運動の実態と、子どもの健康に影響を及ぼす環境要件について調査を行った。そして、子どもの健康と福祉の先進国であるスウェーデンで子どもの健康と生活の調査結果との比較検討を行った。 研究の結果、日本の子ども達の体力・運動能力の全国平均値は上がっているのに不健康児が増えている、という一見矛盾する現象が明らかになった。その背景にある原因を検討したところ、子ども達の健康と体力の二極化傾向があることが分かった。運動・栄養・睡眠のバランスの取れた健康的な生活をしている子ども達も決して少なくないが、一方「夜更かし・朝寝坊」、「朝食欠食」、「夜食や間食が多い」、「長時間のテレビやテレビゲーム」などの不健康な生活をしている子どもも増えていた。運動も、する・しないの両極端に分かれる傾向が見られた。このように、運動・食事・生活のリズムの健康に関するすべての点において二極化傾向が見られるようになり、子ども間の健康格差が広がりつつあることが示唆された。そして体力は、運動習慣だけでなく、食習慣や睡眠時間との相関も高く、朝食を食べない子どもや睡眠不足の子どもは、運動を行う時間や機会が少なく、低体力であった。 子どもの健康と福祉が充実しているスウェーデンでは、子ども達は年間を通して(真冬でも)外で元気に十分な時間を遊びに費やしていた。そして、十分に戸外で体を動かした後、教室に戻り、読書や勉強に主体的に取り組んでいた。 これらのことから、「外遊びが好きな子どもは読書や勉強が嫌いで、読書や勉強が好きな子どもは運動が苦手」という古典的な思い込みが間違っていることが明らかになった。外で元気に遊ぶのが好きな子どもは、読書や勉強にも知的好奇心をもって積極的に取り組む。健康格差の拡大は、身体の健康だけでなく頭や心の健康的な育ちにも影響することが懸念され、調査の必要性が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本の子ども達の体力や健康的な生活習慣の二極化傾向が顕著になってきており、子ども達の間での健康格差が広がりつつある状況を把握した。 また、全ての子ども達が平等に健康と福祉に関する支援を国や地方自治体から受けることが保障されているウェーデンで、子ども達の学校や園(就学前教育・保育施設)、地域での生活の観察調査の一部を実施した。 現在までに達成した成果は、子どもと健康(子どもの図書館2012年版)に発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
日本も格差社会となりつつあるが、子ども達がそのような格差から発生する健康格差から自分の健康と命を守ることができ、生きる力を育てる健康教育をいかに行っていくかを検討するために、全ての子どもへの平等に健康支援が実現されているスウェーデンでの調査(一部は2012年度に実施済み、2014年度以降に調査継続)、健康格差が著しいがその改善に極めて困難な状況にある米国の調査(2014年度以降に実施)に加えて、ニュージーランドの、子どもの健康の実態調査と健康教育への取り組みの調査を2013年度に行う。2014年度以降に、これらの国際比較調査で得られた結果と日本での調査の結果との比較研究を行い、日本の初等教育での健康教育プログラム案を策定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ニュージーランドは、日本と地理的な条件(島国、海洋国、火山帯に属していて地震が多い、国土の規模など)がよく似ていて、先進国でありながら、実は子ども間の健康格差が大きい。そして、この健康格差は、家庭の経済状態(貧困度)に大きく依存しているので、ニュージーランド政府は、学区を、そこにある学校に貧困家庭の子どもが通学している割合によって10ランクに分け、低ランク学区の学校には、政府や地方自治体が多くの補助金や支援金を配布している。また研究機関が学校における子どもの健康教育に協力し、子どもの健康格差の是正に努めている。今なお、6割の子どもが経済的にも健康的にもリスクのある状態にあるが、こうした努力の成果は徐々に表れてきていると言われている。 このニュージーランドの、子どもの健康の実態調査と子ども達への健康教育への取り組みの調査によって、本研究課題に極めて重要な知見を得ることができることがわかった。よって、次年度はニュージーランドでの調査研究を集中して行う。従って次年度の研究費は、ニュージーランドでの調査研究費(外国出張旅費)として使用する。
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