2012 Fiscal Year Research-status Report
無形文化財の伝承を目的とした立体映像の記録・呈示に関する研究
Project/Area Number |
24603016
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石井 達郎 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 助教 (10363392)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 立体映像 / 教育ツール / デジタルアーカイブ / 無形文化財 / 伝承 / 携帯端末 / 映像コンテンツ |
Research Abstract |
本研究の当該年度の研究計画は、立体映像を取り入れた豊前岩戸神楽のデジタルアーカイブ化を通して、子供たちにとって理解しやすい、立体映像技術を用いた視聴覚情報の効果的な呈示法について検討することである。当該年度における研究成果について以下に述べる。 ■立体映像呈示装置の構築:シャッター方式、大型リアプロジェクション(背面投影)とした。実際に子供神楽のメンバーに呈示実験を行ったところ、プロジェクタの投影の妨げにならず、練習者は自由にスクリーンの前を映像を見ながら動くことができ、映像の実物大呈示の有効性も確認できた。しかし、ハード面や視聴環境の制約など課題が生じており、25年度においても、この提示システムの有効性について検証をつづける。 ■神楽講に所属する子供神楽の調査:当該年度は、「黒土神楽講」に所属する子供神楽を中心に調査を行った。「映像で学ばせる」以上に重要なのが「マンツーマンの指導」であると考え、まずは実際の指導状況を調査し、子供を指導するうえで重要な諸要素について考察した。指導者である神楽講メンバー(大人)へのインタビューや練習の様子の撮影などを行った。結果として、指導者なりの子供に対する「飽きさせない訓練法」があることが分かるなど、本研究において重要な要素となりうる情報を収集できた。 ■教育ツール構築のための、練習用立体映像の撮影実験:訓練に使用する映像は、見る側にわかりやすく呈示することが重要である。状況に合わせた撮影位置(アングル)を検討するための撮影実験を行った。平成25年度においても引き続き検討し舞いの種類に合わせた撮影位置を検討する。 ■神楽奉納の撮影:本撮影は地域振興および後継者育成に資する映像コンテンツ制作に向けての検証段階としての撮影実験も兼ねている。映像素材の呈示実験を通して臨場感、迫力感のある映像を呈示するための撮影法を検討し、平成25年度には本撮影を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、デジタルアーカイブにおける立体映像表現の有効性を探り、効果的な伝承法を確立することである。当該年度における研究計画と、達成状況について以下に示す。 ①【立体映像の撮影法および呈示法の検討】立体映像呈示システムを構築し、呈示実験を行った。発生した課題への対処、は次年度においても検討を重ねる。撮影法においても撮影実験を行い、神楽の舞に最適な撮影法の検討を行っている。②【豊前岩戸神楽の現地調査および指導者・被指導者の両面の視野に基づく映像記録法の検討】当該年度では、数回にわたって現地豊前に出向き、神楽奉納の撮影や、子供神楽の練習状況の取材、指導者へのインタビューを行った。結果として、本研究の目標としての、立体映像の有効性の検証だけでなく、立体映像技術だけに限定しない、あらゆる視覚情報呈示の可能性を探ることが重要であることが判明した。③【豊前岩戸神楽演目の記録】「地域振興に資する立体映像コンテンツ」制作のための演目記録は行っており、次年度も引き続き行う。教育ツールとしての演目の記録は次年度より記録する。④【立体映像技術の動向調査】国内および海外での立体映像技術に関する情報収集を現地にて行った。 以上、①から④までおおむね計画通りに遂行しているが、③においては、教育ツール用の演目記録は行っていない。教育ツールとして最適な映像の呈示法および撮影法の確立に至っていないからである。次年度においてはこれら手法の確立を目指したうえで、撮影を行う。また②においては、立体映像のみを教育ツールの重要な要素と位置づけずに、携帯端末(スマートフォン、タブレットPCなど)を用いるなど、さまざまな映像呈示手法の可能性を探ることが重要であると判明した。この結果は本研究の進展に大きな一助となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の計画は以下のとおりである。 ①【立体映像による体系的な撮影手法,呈示手法の確立】演目の記録映像に基づいて,デジタルアーカイブにおける立体映像を用いた体系的な撮影手法,呈示手法を確立し,実験によりその有効性を探る。②【黒土神楽講演目の記録】教育ツール構築のための神楽演目の記録を行う。③【祭事における神楽奉納の記録】地域振興に資する迫力ある立体映像コンテンツ制作のための神楽奉納の記録を行う。祭事にて観衆の前で行われる神楽の実演状況の立体撮影を行う。④【立体映像による伝承を目的とした教育コンテンツの制作】①の研究成果に基づいて,神楽の継承者育成を目的とした教育コンテンツを,投影環境も含め設計し制作する.また神楽の指導者および被指導者の視点から評価実験を行い,その有効性を検証する.⑤【立体映像以外の映像媒体を用いた教育ツールに関する研究】当該年度における調査で、立体映像技術だけに限定しない、あらゆる視覚情報呈示の可能性を探ることが重要であることが分かったため、携帯情報端末などを用いた教育ツールへの適用に関する研究も並行して行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【次年度使用額(353円)が発生した理由】当該年度において計画していた備品購入の予想額に誤差が生じたため。備品では、特にデータ保存用のハードディスク本体の価格が流動的であったため、購入計画の段階でおおよその価格で計上していた。結果少額の誤差が生じてしまった。 【発生した使用額の次年度用途】次年度において、発生した使用額については、次年度の経費に計上している「プリンタ用紙」に追加する。 【次年度の研究費の使用計画】■【カラーレーザープリンタ】論文や実験用アンケートなど本研究に関連する印刷に使用する。【AV資料】本研究を遂行するにあたり参考とする立体映像コンテンツの購入。■【立体映像技術、デジタルアーカイブ関連書籍】研究資料に利用。■【立体撮影、映写用部品】立体映像用のフィルタやパーツ■【記録メディア】立体撮影における記録メディア■【旅費】映像関連学会のワークショップ,研究会に参加して研究成果の発表及び動向調査を行う。旅費以外の交通費は,神楽の取材,記録のための福岡市,豊前市の往復費用として使用する。■【人件費】記録,実験,コンテンツ制作の補助として謝礼を支払う。■【研究成果広報費用】本研究成果の公開と豊前岩戸神楽の広報促進のためのパンフレットや映像メディアの印刷費用として使用する。■【携帯端末・モーションキャプチャデバイス】立体映像以外の教育ツール構築用の機器として使用する。
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