2013 Fiscal Year Research-status Report
無形文化財の伝承を目的とした立体映像の記録・呈示に関する研究
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24603016
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石井 達郎 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 助教 (10363392)
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Keywords | 立体映像 / 無形文化財 / デジタルアーカイブ / 映像コンテンツ / 伝承 / 地域振興 |
Research Abstract |
本研究の当該年度の研究計画においては、【神楽に特化した撮影手法、呈示手法の確立】と【立体映像による伝承を目的とした教育コンテンツの制作】の2課題に大きく分けて研究遂行の予定であった。しかし、研究協力先の豊前市(福岡県)より、前年度(平成24年度)に既に記録したデータをもとにした、豊前市内外での立体映像の一般公開の依頼を受けたため、【教育コンテンツ制作】は、26年度に変更し、26年度に計画していた【地域振興のための映像コンテンツ制作】を当該年度に遂行することとなった。当該年度における研究成果について以下に述べる。 ①神楽に特化した撮影手法、呈示手法の確立:前年度(平成24年度)において行った神楽奉納の撮影記録で明らかになった課題を精査し、神楽に最適な撮影記録法について検討した。その結果、神楽特有の動きの激しい被写体を捉える場合は、記録時のフレームレートを高く設定すべきであることが分かった。また標準の視野角(レンズ)を装備するカメラによる立体撮影だけでなく、神楽を舞台そでで見ているかのような迫力感を創出するために、ワイドアングルによる立体撮影も迫力ある神楽の映像呈示に効果的であることが分かった。 ②地域振興のための映像コンテンツ制作:コンテンツ制作を行ったのち、九州国立博物館や豊前市の公民館で一般公開し、実際に鑑賞した多数の訪問客より高評価を受けた。また神楽公演の模様を記録した映像をDVDビデオとして配布するなども行った(本コンテンツは2D映像)。京築地区の神楽を立体映像を中心とした映像コンテンツによってアピールし、地域振興に十分に貢献できたと考える。 ③神楽奉納の撮影:平成24年度において行った神楽奉納の撮影記録で明らかになった課題を精査し(②を参照)、より臨場感、迫力感のある映像を呈示するための撮影を行った。 ④論文執筆・研究発表:当該年度における成果は、関連する論文2件、研究発表7件である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【研究実績の概要】で述べたように、当該年度と次年度(平成26年度)の研究計画の一部の入替えがあったが、研究の遂行は滞ってはおらず、順調に進行できていると考える。 ①立体映像による体系的な撮影手法・呈示手法の開発:地域振興に資する立体映像コンテンツにおける撮影法の確立は達成できた。神楽特有の激しい(素早い)動き、特に横移動については、一般的なフレームレート(1秒30フレーム)での記録では、立体映像では非常に鑑賞しづらく、3D酔いなどの不具合を引き起こすことが前年度で確認できた。そこでフレームレートを2倍(1秒60フレーム)にすることで、素早い動きも詳細に立体呈示でき、見辛さを解消できた。またワイドアングル(広角)の立体映像も臨場感を強調できる要素であることがわかった。これにより、神楽に最適な、かつ迫力ある映像を制作する基盤が確立できた。 ②祭事における実演の記録:前年度に引き続き、毎年秋に行われる神楽奉納の様子を立体撮影した。撮影法については前述の①に基づいており、立体映像としてより効果的な記録ができた。 ③伝承を目的とした教育コンテンツの制作:※本項目は、前述のとおり次年度に変更し、次年度に予定していた【地域振興のための映像コンテンツ制作】を本年度に遂行した。特に当該年度での成果が顕著だったのが、本項目である。前年度および当該年度において記録したデータを編集し、迫力ある豊前神楽(京築神楽)をアピールできる立体映像を豊前市内外で一般公開した。当該年度は、九州国立博物館での上映が1回、豊前市立文化交流センターでの上映が1回であった。この一般公開では、初めて福岡県内に存在する神楽を見る人も多く、福岡県内においても認知度が高いとはいえない京築地区の神楽の勇壮な舞いを広く知ってもらうための絶好の機会となった。また神楽公演の模様をDVDコンテンツとして制作、配布も行った。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の今後の計画は以下のとおりである。※これまで立体映像に着目した研究を進めていたが、従来のいわゆる2D映像の効果的な活用法も含めて検討を行う。 ①立体映像を中心とした撮影手法・呈示手法の確立:立体映像コンテンツの制作における撮影法は確立でき、呈示手法については26年度で検証、確立する。また同時に、教育映像コンテンツに最適な撮影法や呈示法の検討も行う。 ③未記録の演目のデジタルアーカイブ化:25年度までに記録した神楽の演目は半数を完了している、今後も引き続き未記録の演目の記録を進め、デジタルアーカイブ化および教育コンテンツ制作を行う。(※本研究の計画期間中は,全ての演目の記録は不可能だが,計画期間終了後も豊前市と協力し全演目のデジタルアーカイブ化を目指して研究を継続する。 ③伝承を目的とした教育コンテンツの制作:記録した映像を基に、立体映像を中心に教育コンテンツ制作を行う。本研究では、立体映像による効果的な伝承法を確立することを目的としていたが、立体映像だけでなく、コンピュータグラフィックスやモーションキャプチャ、スマートフォンなどの携帯情報端末を用いた、2D(平面)映像も取り入れた効果的な教育コンテンツの検証も行う予定である。 ④地域振興のための映像コンテンツ制作:本項目は、既に当該年度にて遂行済みであるが、今後は、制作したコンテンツをインターネット配信することにより、県内のみならず国内外に広くアピールすることを計画している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
【研究実績の概要】で述べたように、当該年度と次年度の研究計画の一部の入替えにより、必要とする費用の使用額に変動が生じた。特に当該年度においては、「地域振興に資する立体映像コンテンツの制作」を中心に行ったこと、さらに研究調査によって明らかにした、神楽に最適な撮影を可能とするスペックを持つ撮影機材の導入が必要となったために、物品費の使用額が増加した。 一方で旅費に関しては、国内外の立体映像技術動向の調査として計上していたが、先述の研究計画の変更に伴い次年度に計画しなおしたために次年度使用額が生じた形となった。 次年度においても、【教育コンテンツ開発】のための関連物品を購入する必要がある。 【物品費】次年度は計上していなかったが、研究計画の変更に伴い、当該年度で生じた旅費の次年度使用額の一部を使用する。以下、購入予定物品①シースルーモバイル端末②マーカレスモーションキャプチャ装置③立体映像・デジタルアーカイブ関連資料(映像、書籍)④立体映像撮影・呈示用関連部品【旅費】国内外における立体映像関連技術の動向調査【人件費】①記録・実験・映像制作補助に係る短期雇用②実験実施に伴う被験者への謝礼【研究成果広報費用】本研究成果の公開と豊前岩戸神楽の広報促進のためのメディア制作費用、論文投稿費用 ※①および②は、次年度の研究計画において、現状の大学所有機器よりも、教育コンテンツを開発する上で、必要なスペックを満たしていると確認できた場合に(予算の範中で)購入を計画している。
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