2013 Fiscal Year Research-status Report
医学研究に関する新たな法的倫理的規範の構築のための比較法的研究
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24610004
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
丸山 英二 神戸大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10030636)
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Keywords | インフォームド・コンセント / 個人情報保護 / 倫理審査委員会 / 疫学研究倫理指針 / 臨床研究倫理指針 / バイオバンク / 一般的同意 |
Research Abstract |
本年度は,昨年度から引き続き,医学研究におけるインフォームド・コンセント(IC)などの問題を研究するとともに,疫学研究倫理指針及び臨床研究倫理指針の見直しに係る合同会議に参加し,両指針を統合した「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の策定作業に関与した。これまでの研究を踏まえて,一般的同意の可能性,既存の試料・情報の研究利用,倫理審査委員会の権限とコントロールなど,関心があるところについて発言・意見提出をしているが,今回の事務局は自らの見解に固執するところがあり,苦労を強いられている。また,医学研究等に関する指針についての小稿をまとめる機会があり,行政省庁によって出されてきた多数の指針に関してこれまでの経緯を調べた。まとめた論稿は短いものであったが,これによって,これまでの指針の展望が得られた。 平成25年4月から,低侵襲で精度の高い新しい方法による非侵襲的出生前検査(Non Invasive Prenatal Testing = NIPT)の導入が臨床研究として開始された。それに関する指針の策定(日本産科婦人科学会)および実施施設の認定を行う委員会部会(日本医学会)に参画することになり,改めて出生前診断の問題を考える機会を得た。その関係で,出生前診断に関して,いくつかの論稿を書き,学会報告を行った。現在NIPTの実施が認められるための要件は非常に厳しいが,それは,脳死臓器移植に関してもあてはまることで,賛否をめぐる意見の対立が大きい医療技術は厳格な要件の縛りをかけた上で実施を認める対応がとられるという点で共通しているように思えた。 わが国の医学研究におけるICの状況を解説する英文原稿,“Practice of Legal Medicine in Japan: Informed Consent in Research”が2013年9月にSpringer-Verlagから刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.医学研究におけるインフォームド・コンセント(IC)の問題に関しては,一般的同意の可能性や既存の試料・情報の研究利用などに関して,改めて,海外の動向を参照しつつ,自らの考えを再検討することができた。とはいえ,まだ荒削りのところもあり,今後,現在策定中の「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」における「二次利用等」に対する批判的検討も含めて考察を深めていきたい。 2.疫学研究倫理指針及び臨床研究倫理指針の見直しに係る合同会議において,これまでの研究を踏まえて発言・意見提出をしているが,あわせて,法律や生命倫理を専攻する委員有志とともに,合同会議の際に論点となったところについて理論的に検討を深める会合を継続的に持つことができ,裨益するところが大きかった。 3.非侵襲的出生前検査(Non Invasive Prenatal Testing = NIPT)の導入を契機として,出生前診断の問題点に関して,論稿の執筆,学会での報告や企画・司会などを行い,それを通して,出生前診断・選択的中絶・優生的思考などについて改めて考察することができた。NIPTが臨床研究として導入された意味合いについて今後検討を深めていきたい。 4 医療・臨床研究における倫理的義務について概説する論稿を発表する機会を得た(ペインクリニック34巻5号675~683頁)。
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Strategy for Future Research Activity |
1 医学研究におけるインフォームド・コンセント,倫理審査委員会,個人情報保護については,今後も検討を重ねていく。 2 しばらくおろそかになっているアメリカの動きのフォローを改めて行い,あわせて,同様の作業を,カナダなどについても行いたい。 3.研究において偶発的に発見された対象者に関する情報の告知の問題について,Susan Wolf教授の論稿の研究,ゲノム164委員会での報告(2014年1月29日の小杉報告,同3月6日のClayton報告)などからある程度の情報を得ているが,さらに一層情報収集に努め,生命倫理的・法的対応の検討を進めたい。 4 わが国の医学研究におけるICの状況を解説する英文原稿,“Practice of Legal Medicine in Japan: Informed Consent in Research”の内容を,2014年の世界医事法会議で報告することを依頼された。この機会に,一般的同意に関する自説のブラッシュアップを進めたい。 5 以上の作業を経て,医学研究に関する新しい法的倫理的規範を示すよう取りまとめを進めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の最終の予算使途が旅費であったため,少額の端数が出ました。 平成26年度は最終年度ですので,端数が出ないよう,与えられた予算額を有益に使用したいと思います。
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