2013 Fiscal Year Research-status Report
植物遺伝資源の経済的財産権に関する理論的・実証的研究
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24610006
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
平木 隆之 東海大学, 海洋学部, 教授 (00281288)
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Keywords | 遺伝子組換え作物 / 知的財産権 / 農民特権 / 生物特許 / 生命倫理 / 新制度派経済学 |
Research Abstract |
平成25年度においては、遺伝子組換え作物をめぐる特許保護と農民特権の問題について、米国およびカナダで係争された裁判の判例を分析し、生命特許を巡る知的財産権保護制度の史的展開とそれが開発者と使用者間の利益配分に与える経済的インパクトを考察した。その成果として、遺伝子組換え作物に対する知的財産権保護については製品としての手段的価値と植物としての固有価値との衝突が生じていることが明らかになった。当該年度に行った判例分析の結果では、米国で出された最新の判決結果をみても、遺伝子組換え作物については製品としての手段的価値が重視され、種子の保存、再播種、近隣農家との交換、非市場価格による販売といった植物としての固有価値に基づく使用が抑制されてきている。これは、遺伝子組換え作物が植物という生物でありながらも、製品に対する特許保護を植物にも拡大するというアプローチが主流になっている証左である。このような傾向にあって、本研究は「生物特許」という従来の特許保護制度では扱うことが困難な問題について結論を出すべく研究を進めている。今後の研究においては、「生物特許」というコンセプトについて、製品や製造工程を対象とした従来の特許保護制度を植物にまで拡大するという現在主流となりつつある考え方を批判的に検討し、遺伝子組換え作物が植物としての固有価値を有する点を考慮した「調和的な」生物特許制度の在り方を本研究の結論として示したい。 上記の研究成果については、平成26年3月に、植物遺伝子に対する特許保護制度の多様性に関する論文をスイスのKyklos誌に投稿し、現在査読結果を待っているところである。また、遺伝子組換え作物をめぐる特許保護と農民特権をテーマとした論文を現在執筆中であり、平成26年度に本研究の集大成として海外のジャーナルに投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の「研究目的」において記載した遺伝子組換え作物をめぐる法的財産権(特許保護および育成者権)と経済的財産権(植物としての固有価値を利用する権利を含めた広義の財産権)の衝突について、国際条約の条文や判例を分析し、その制度構造を明らかにできたことから、研究の目的についてはほぼ70%を達成できたと自己評価している。残るは、遺伝子組換え作物に対する特許保護制度の多様性と独自性に関する国際比較が本研究を完結するうえでの最終の重要課題となる。したがって、平成26年度においては、交付申請書にある通り、海外における遺伝子組換え作物に対する特許保護制度についてのヒアリング調査を実施し、遺伝子組換え作物をめぐる法的財産権と経済的財産権のせめぎあいが生物特許制度に与える影響を明らかにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は本研究の最終年となることから、これまで実施してきた遺伝子組換え作物をめぐる知的財産権保護と農民特権の関係について、海外での調査を通じて、制度の類型化を図りたい。また、その調査の成果を国際会議において発表し、海外のジャーナルに投稿する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由は、当初平成25年度に実施を予定していた海外調査を平成26年度に延期したためである。平成25年度においては、研究テーマに関して米国で重要な判決が2例出されたこともあり、海外調査の実施先を再検討する必要が生じた。その再検討の結果、海外調査の実施先を申請時に予定していたインドと南アフリカから、米国およびカナダへと変更する計画であることから、集中的な海外調査を実施する必要が生じた。 また、平成26年度には研究成果を英国の国際会議で発表する予定であるため、長距離の海外出張の頻度が増加することに加え、英語論文執筆に伴う英文チェックにともなう費用を計上する必要があることから、次年度使用額を増加する結果となった。 次年度使用額は、既述の通り、主として平成26年度における米国およびカナダでの海外調査のために使用する。当該海外調査では、本研究のテーマである「遺伝子組換え作物をめぐる特許保護と農民特権保護の衝突」について、生物特許保護制度のグローバルスタンダードと多様性・独自性に着目したヒアリング調査を実施する。また、研究成果を英国の国際会議で発表し、海外のジャーナルへの投稿も予定していることから、平成26年度には、同国への渡航費に加え、論文の英文チェックに使用する予算も増額する計画である。
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