2012 Fiscal Year Research-status Report
オーストリアにおける「モーツァルト・ツーリズム」とその応用性に関する文化史的研究
Project/Area Number |
24611006
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
小宮 正安 横浜国立大学, 教育人間科学部, 准教授 (80396548)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 観光学 / モーツァルト / オーストリア / ウィーン / 文化史 / 音楽史 |
Research Abstract |
平成24年度は、19世紀以降のオーストリアで誕生・発展した「モーツァルト・ツーリズム」の歴史を俯瞰し、芸術・文化観光による国家や地域の振興という視点、ならびに文化史というアプローチからそれらをどのように分析できるか、という方法について、多角的に検討をおこなった。具体的には、1)モーツァルト再発見が進んだ19世紀半ば以降、2)ザルツブルク・フェスティヴァルに代表されるマス・ツーリズムを念頭においた動きが見られるようになった第一次世界大戦以降、3)マス・ツーリズムと距離をおいた各種ツーリズムの誕生の中で「モーツァルト・ツーリズム」が変容を遂げていった1980年代以降、の3つの時代に区分をおこなった上で、詳細な調査を重ねることができた。 これらの具体的な調査を通じ、1)オーストリアが「音楽国家」となるにあたって「モーツァルト・ツーリズム」がいかなる役割を果たしたか、そこから演繹される2)観光事業が一つの国のイメージを形成する方法と可能性、3)音楽、ひいては芸術における観光事業の役割と影響力、といった、相互に関わりあう問題の解明に向け、考察と研究を展開してゆくための基本的な情報を入手するとともに、逆にオーストリア以外の他の地域、とりわけその音楽産業にとって一大マーケットである4)日本において「音楽国家オーストリア」がどのような形で受け入れられてきたかという受容史の側面についても詳細な分析をおこない、5)モーツァルト・イメージ、オーストリア・イメージの形成に見るこれからの我が国のツーリズムに対する方法論の検討と提言へ向けた検証と分析をおこなうための必要条件を整えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度においては、1)モーツァルト再発見が進んだ19世紀半ば以降、2)ザルツブルク・フェスティヴァルに代表されるマス・ツーリズムを念頭においた動きが見られるようになった第一次世界大戦以降、3)マス・ツーリズムと距離をおいた各種ツーリズムの誕生の中で「モーツァルト・ツーリズム」が変容を遂げていった1980年代以降、の3つの時代に区分をおこなった上で、各時代区分に関する資料や情報の収集、ならびにその分析において当初の目的をおおむね達成することができた。 海外における調査についれは、テーマに関わる資料がオーストリアに数多く存在しているため、平成24年度に関してはウィーン楽友協会アーカイヴ(19世紀半ば以降のオーストリアにおけるモーツァルト再発見の中心的存在であり、モーツァルトにまつわる観光事業や土産にまで至る「モーツァルト・ツーリズム」発展の歴史に関する莫大な資料を所有)等で資料や情報の収集をおこない、同アーカイヴの館長であるオットー・ビーバ博士をはじめ、副館長のイングリート・フックス博士の助言を受けた。 また調査の過程において、購入をおこなったモバイル・パソコンを用いて、現地で入手した資料を速やかに電子処理すると同時に、視聴覚関連機器類を連動させて、迅速な電子テキスト化をはかることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度以降は、平成24年度の調査を継続しつつ、オーストリアにおける「モーツァルト・ツーリズム」の代表的な都市であるウィーンとザルツブルクを具体的な事例の中心に据えながら、観光政策を通じて浮かび上がるモーツァルト・イメージの変遷、ならびにそのようなイメージに基づいて作られる各都市それ自体のイメージが「音楽国家オーストリア」にいかなる形で反映されていったのか、という問題についての詳細な分析をおこなう。この作業においては、いくつかのトピックを選定し、個々の事象を観察し、オーストリアが国内外に対して音楽国家としての姿を示してゆくにあたって「モーツァルト・ツーリズム」がいかなる意味を持っていたかを探りつつ、平成26年度には包括的な結果に至ることを目指す。調査にあたっては、平成24年度に引き続き、ウィーン楽友協会アーカイヴをはじめとする機関で資料収集をおこないながら、それらの資料に対して詳細な検討を加えてゆく。 特に平成24年度の調査を受けて、1)民間レベル(観光産業、観光業等)における「モーツァルト・ツーリズム」の受容と発展の歴史、2)オーストリアの音楽界にとっての「モーツァルト・ツーリズム」の位置付けとモーツァルトの作品レパートリーの変容に関する相関関係、という2つのトピックを設定し、それらを明らかにしてゆくことが平成25年度の研究の中心的テーマとなると想定されている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は複合型レーザープリンタを購入し、翌年度における研究成果の総括ならびに報告書の作成の準備を開始するとともに、現地で収集する紙媒体の資料をスキャニングによってデジタル化するという、紙とデジタルの双方向的な資料整理を目指す。また収集した資料や情報を総合的に分析してゆくための基本文献として、ベーレンライター社発行のMusik in Geschichte und Gegenwartを、平成24年度から繰り越した文献費と併せて購入し、研究の推進に活用する。なおMusik in Geschichte und Gegenwartは中古で30万円以上の支出が必要なため、平成24年度の文献費を繰り越し、平成25年度の文献費と併せて購入することとした。
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