2013 Fiscal Year Research-status Report
観光みやげにおける生産地と販売地の乖離に関する基礎的研究
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24611024
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Research Institution | Sagami Women's University |
Principal Investigator |
鈴木 涼太郎 相模女子大学, 学芸学部, 准教授 (70512896)
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Keywords | 観光みやげ / スーベニア / ギフト / マトリョーシカ / 佐渡 / 儀礼的倒錯 |
Research Abstract |
観光みやげは、特産物の商品化によって経済効果が期待されるだけでなく、地域文化を表象するメディアとしても重要な役割を担っている。にもかかわらず、現実の観光地では地域外で生産された商品が、その地域のみやげ品として販売されている。本研究では、観 光みやげがその生産地から乖離した場所で販売されることの背景を明らかにするために、みやげ品関連産業の経済的・経営的要因に加え、文化人類学や民俗学における贈答慣行に関する理論を参照しながら考察を行った。 平成24年度に行った国内・海外調査を踏まえ明らかになった課題をもとに、平成25年度は、調査対象地を拡大しながらより長期間、複数回の調査を行っている。具体的には、継続調査地である新潟県佐渡島、24年度に明らかになった課題をもとに、タイ・バンコク、ロシア・モスクワ周辺地域、東京都内(浅草、東京駅、羽田空港など)で短・中期の調査を行ったほか、観光みやげの全国的流通を行う企業複数社にヒアリングを行っている。 これらの作業から明らかになったのは、日本における観光みやげの考察のためには、欧米を中心にこれまで研究が蓄積されてきたスーベニア研究を土台にしつつ、日本に独特な贈答観光の要素を考慮した理論的な枠組みが必要とされるということである。すなわち、観光みやげを理解するためには、自分用の「スーベニア」と他人用の「ギフト」を区別して検討する必要があり、他人用のギフトには、特定のフォーマットが存在しているのである。そしてそのフォーマットは、地域を超えて様式の「移転」が行われることで、観光を介した文化表象とその消費の在り方にも重要な役割を果たしている。なお、研究成果の一部は、学会や研究会などで発表し、その一部を論文として公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
25年度は、初年度に引き続き国内外各地で観光みやげの生産/販売地の調査を行った(国内生産地としては、新潟県佐渡島、販売地としては浅草・東京駅・羽田空港や京都など、国外ではタイ・バンコク、ロシア・モスクワ近郊)。また主に食品の観光みやげを全国流通させているメーカーなどのヒアリングを行った。調査地や調査回数という点では、当初の予定通りないし想定以上に順調な側面もあるが、調査地1か所あたりの調査期間が十分ではなく、調査データの整理と分析がすべて完了していないところもある。 とはいえ、結果として平成25年度上期に予定していた「中間論点の整理」が年度末にずれこんだものの、一定の研究成果を年度内に公表することができた。これらの作業を通じて、日本における観光みやげについて考察するための基礎的な分析枠組みも構築されている。26年度は、調査と同時並行してデータの整理分析を行い、また研究成果の公表も進めながら研究目的の十分な達成を目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる平成26年度は、不十分であったデータを補足する調査を行いつつ、これまでの分析を踏まえたうえで明らかになった点について研究会や学会などで公表する作業を主に行う。 具体的には、補足調査として新潟県佐渡、東京都内などのみやげ生産者や販売者の調査を継続しつつ、国内では比較対象として北海道などの遠隔地のみやげ調査や昨年度調査できなかったベトナム・ハノイ近郊での補足調査を行う。 これらの調査では、観光客が自分用のみやげ、すなわちスーベニアとして観光みやげを購入する際に独特の「真正性」の基準を明らかにするとともに、他人用のギフトとして観光みやげを購入する場合の贈答慣行の規範について、より具体的なデータを収集する予定である。 研究成果の公表は、部分的にまとまり次第行う。年度内に複数の学会や研究会において発表し、他の研究者からの助言を得ながら研究の深化を目指す。その内容は年度末に報告書として集約する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究計画はおおむね順調に進められているものの、平成25年度の調査計画の中で、ロシア・モスクワ周辺の調査が予定より長期間行われたため、ベトナム・ハノイ市における補足調査を実施することができなかった。またそれにともなって一部データの整理作業が遅れている。結果として、想定された旅費と人件費の一部が使用されなかった。 平成26年度は、平成25年度までの作業の中で補足調査が必要となった調査地を中心に旅費を使用しながら、データ収集から分析と研究成果の公表に軸足を移行させる。したがって、データの整理分析や学会などでの研究発表のための費用に多くを割り振る。 具体的には、①国内旅費(新潟県佐渡島、北海道ほか、国内学会発表(京都市、大阪市ほか))、②国外調査旅費(ベトナム・ハノイ市)、③国外調査にかかわる通訳謝礼、並びに調査データ整理に伴う人件費、④国内外調査時に入手する観光みやげサンプル費用、⑤関連文献購入費用、⑥その他複写費用、文具費用など消耗品にかかわる費用、⑦報告書作成のための印刷費用と送付費用などを予定している。
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