2013 Fiscal Year Research-status Report
ホスゲン・塩素ガス等の塩素系化学兵器曝露のバイオマーカー探索に関する研究
Project/Area Number |
24612004
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Research Institution | National Research Institute of Police Science |
Principal Investigator |
柘 浩一郎 科学警察研究所, 法科学第三部, 主任研究官 (90356204)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大森 毅 科学警察研究所, その他部局等, その他 (70356195)
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Keywords | 塩素ガス / ホスゲン / 曝露 / 分析 / 質量分析 |
Research Abstract |
サリンをはじめとする化学兵器を用いたテロの懸念はサリン事件から15年以上経過した現在でも継続している。サリン事件後、テロに用いられる可能性のある有毒ガスはサリンといったイメージが定着しつつあるが、実際には特殊な毒ガスだけではない。塩素ガスやホスゲン等の塩素系有毒ガスは工業用途として多量に使用されているため、工場災害による曝露の可能性も高く、民生用途で幅広く使用されていることから入手が容易であり、予測される被害の程度はサリン等に比べて小さいものの、テロ等に使用される可能性も高い。しかしながらこれらの曝露を証明する方法は確立されておらず、この確立が急務である。 本年は、昨年度に引き続き、モデルタンパク質とこれらのガスとの反応をおこない、質量分析法により付加部位の決定を試みた。モデルタンパク質としては、昨年実施したウシ血清アルブミン(BSA)に加え、皮膚への曝露を想定してヒトケラチンを用いた分析系を確立し、分析対象ペプチドとして、ヒトの上皮細胞に広く分布するケラチン1のトリプシンおよびキモトリプシン消化物のペプチド断片が適切であると判断した(1種類の消化酵素では「短すぎる」または「長すぎる」消化断片が生じるため、複数の酵素処理を実施して、それぞれ分析する必要がある)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに、モデルタンパク質を用いた塩素-タンパク質、ホスゲン-タンパク質の曝露実験を実施し、塩素等の結合部位の探索にあたっているが、現時点で結合部位の特定には至っていない。その原因としては、塩素がタンパク質への付加だけでなく、次亜塩素酸を介した強い酸化・分解作用によってモデルタンパク質を破壊していることが一因として考えられた。 これまでの実験で、塩素曝露量(ガスの曝露時間で制御)が増えるにしたがって、タンパク質が分解していることがSDS-PAGE等の結果から推測されている。また、ホスゲンの曝露については、ホスゲン発生装置からのホスゲンの供給量に限界があり、非曝露の場合の分析結果と大きな差が認められない状況である。 一方で、モデルタンパク質としてより曝露対象となり得る皮膚等の構成タンパク質であるケラチンを用いてのLC-MS/MSによる測定系は確立されたことから、この点においては進捗しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
塩素ガスの曝露方法について、ガス状だけでなく、次亜塩素酸の添加による方法を検討する。また、ホスゲンについてはホスゲン発生装置の仕様上、高濃度のホスゲンガスを通じることが難しいことから、ガスをいったん有機溶媒等に捕集して濃縮してから液体状で曝露させるといった方法についても検討する。 本法は、塩素(ホスゲン)処理前/処理後のタンパク質を用い。プロテアーゼ消化後の全断片を定量することで付加部位を推定する手法であり、昨年までの結果で、次亜塩素酸を介したタンパク質の切断がその定量値の解析を困難にしていることが問題となった。 そこで、本年度は、塩素ガス処理によって断片化した場合でも、未分解のタンパク質のみをゲルろ過やSDS-PAGE等で分取・定量し、タンパク質の量を未処理のものと同等にしてから質量分析に供する等の改善を実施する。質量分析法による付加部位の検出にあたっては、既に標準モデルタンパク質のプロテアーゼ消化ペプチド断片の定量法が確立できていることから、これらによって差を見出すことができると考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初購入予定であった試薬(タンパク質標準品)が発注後、生産終了により購入ができなかったため、次年度使用額が生じた。 また、海外での国際学会への出席を計画していたが、所内業務との日程的兼ね合いもあり、参加できなかったことから、海外旅費の執行は行えなかった。 これまで同様、必要な試薬等の購入を実施する予定であるが、これに加え、本年4月にMicrosoft社のWindowsXPがサポートを終了したことから、本研究で使用していた質量分析装置のデータ解析用PCがセキュリティ上使用できなくなる。そのため、解析用端末およびデータ解析ソフトウェアのバージョンアップを行うこととしたい。本データ解析ソフトウェアは本研究のデータ解析の鍵となるものであることから、必要性は高い。 さらに、得られた成果の発表のため国際学会への参加を計画している。
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