2012 Fiscal Year Research-status Report
放射線照射による消化管樹状細胞の活性化と卵白アルブミン特異的アレルギー反応の誘導
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24614017
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
若林 あや子 日本医科大学, 医学部, 助教 (30328851)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 放射線 / 食物アレルギー / 樹状細胞 / 腸管膜リンパ球 / X線 / 共刺激分子CD40 |
Research Abstract |
マウスから小腸および腸間膜リンパ節を摘出し、小腸粘膜固有層と腸間膜リンパ節の細胞を各々分離・精製した。これらの細胞に0、100、1000、または10,000radのX線を照射し、1日培養した後の細胞における死細胞をヨウ化プロピジウムで染色にて検出し、生細胞を樹状細胞マーカーであるCD11cと、活性化マーカーである共刺激分子CD40、CD80、CD86に対する蛍光抗体で染色し、フローサイトメトリーによって解析した。 その結果、小腸粘膜固有層細胞、腸間膜リンパ節細胞ともに、照射rad数が増えるに従って、総細胞数と生細胞率が減少したが、生細胞におけるCD11c陽性樹状細胞の割合は増加した。つまり、樹状細胞は放射線照射耐性があることが明らかに示された。また、1000radでX線照射した時、腸間膜リンパ節CD11c陽性樹状細胞におけるCD40の発現の増加が観察された。このような共刺激分子の発現増加は、100または10,000rad照射の腸間膜リンパ節樹状細胞や、小腸粘膜固有層樹状細胞ではみられなかった。 一方、マウスから、小腸粘膜固有層樹状細胞を採取する過程において、小腸上皮細胞を分離・精製した場合、生細胞率は著しく低く、その後のX線照射の程度にかかわらず、1日培養後にはほぼ全ての上皮細胞が生きていなかった。これは、樹状細胞に比べて、上皮細胞が物理的刺激などにより著しく損傷しやすいことを示している。 以上より、マウスの小腸粘膜および腸管膜リンパ節における樹状細胞は、腸管の他の細胞に比べて、物理的刺激や放射線照射に耐性が著しく高いことが示唆された。さらに、腸管膜リンパ節の樹状細胞に適度に弱い放射線を照射した場合、共刺激分子CD40の発現が増加することより、その後のB細胞の抗体産生やT細胞の活性化を導く可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
放射線の食物アレルギーの発症や進行への関与を明らかにすることが、本研究の目的である。研究の初年度となる今年度は、食物アレルギー反応誘導の鍵をにぎる可能性のある樹状細胞を、マウスの小腸粘膜や腸管膜リンパ節から分離・精製して、様々な程度のX線を照射した。そのためにまずは、小腸粘膜固有層細胞と腸間膜リンパ節細胞の分離法を確立する必要があったが、各々小腸組織と腸管膜リンパ節から、生細胞率が高い状態で採取・分離する方法を確立することができた。 また、小腸粘膜固有層および腸間膜リンパ節の細胞は、X線照射rad数が増えるに従って、総細胞数・生細胞率の減少がみられ、これは研究計画をたてる段階で予想したとおりであった。その一方、樹状細胞は放射線照射耐性があり、なおかつ、1000radの弱いX線で照射した時、腸間膜リンパ節の樹状細胞における共刺激分子CD40の発現の増加が観察された。つまり、放射線は、腸管細胞を障害する一方、樹状細胞の活性化を促進するという、今回の研究テーマにおいて非常に重要な実験結果が明らかになった。 生きているマウスにX線を照射した場合も、同様に、樹状細胞における放射線照射耐性がみられるか否か、また、小腸粘膜組織や腸管リンパ臓器の樹状細胞における共刺激分子の発現増加がみられるか否か、現在検討中である。さらに、活性化した樹状細胞による抗原特異的T細胞増殖機能を測定するために用いる、OT-IIトランスジェニックマウスの輸入・飼育・系統維持などの準備も整い、現在更に研究を展開させている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、放射線の食物アレルギーの発症や進行への関与を明らかにするため、in vivoでマウスに放射線を照射した場合の、腸管上皮細胞の障害の程度、および腸管樹状細胞における放射線照射耐性と活性化を明らかにする。また、卵白アルブミン(OVA)をマウスに経口投与した後、腸管から精製した樹状細胞をin vitroまたはin vivoの状態で放射線照射し、OVAを取り込んだ後に活性化した樹状細胞における、OVA特異的OT-II T細胞活性化能を検討する。なお、このOVA特異的OT-II T細胞増殖時に産生されるサイトカインのタイプや量も測定し、増殖するT細胞のタイプも検討する。さらに、アレルギー反応における樹状細胞の関与を明らかにするため、OVAを経口投与後に放射線照射で活性化した樹状細胞を、正常な同系レシピエントマウスに養子移入した場合の、アレルギー反応の誘導について検討する。この動物実験に用いるOT-II T細胞の供給源であるOT-IIトランスジェニックマウスは飼育・系統維持が必須であり、実験の傍ら常に継続していく。 また、これら細胞・動物実験を行う一方で、福島第一原子力発電所事故とアレルギー疾患の発生率の関係について調査を行う。質問調査を行い、2011年3月の福島第一原子力発電所事故前後のアレルギーの発症や進行の増加や、摂取頻度が高い食品や嗜好性などについて調査し、それらに相関関係があるか否か調べる。なお、質問調査への同意、個人情報の保護には十分注意し、対象者に研究の主旨と内容を文書により十分説明し、研究内容を理解してもらう。研究協力の同意が得られた場合のみ、質問の回答を研究に用いる。また、調査によって得られた個人情報や実名は一切公表せず、第三者には渡さない。情報の管理に十分注意し、収集した個人情報は本研究目的以外の用途には利用しない。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在検討中の、生きているマウスにX線を照射した場合の、腸管上皮細胞の障害の程度と、腸管樹状細胞における放射線照射耐性と活性化を明らかにする。さらに、放射線照射によって活性化した樹状細胞における、OVA特異的OT-II T細胞活性化能を検討する。つまり、OVAを経口投与したマウスにX線を照射して、生体における樹状細胞の抗原取り込みと活性化を試みた後、小腸の樹状細胞を分離・精製する。この樹状細胞を、OVA特異的なT細胞と4日間共培養する。樹状細胞が活性化している場合は、抗原提示能が増強し、OVA特異的なT細胞は増殖する。T細胞の増殖は、細胞増殖色素カルボキシフルオレセイン・ジアセテートを用いてフローサイトメトリーで測定する。また、樹状細胞との共培養によって増殖したOVA特異的T細胞は、IL-4やIL-13のようなTh2型サイトカイン、もしくはIL-2やINF-γのようなTh1型サイトカインを産生すると思われる。培養上清におけるこれらのサイトカイン濃度を酵素抗体法によって測定し、産生されるサイトカインの特徴と値を検討する。 これら動物実験を行う一方で、福島第一原子力発電所事故とアレルギー疾患の発生率の関係について調査を行う。質問調査によって、福島第一原子力発電所事故前後のアレルギーの発症や進行と、食品の嗜好性などについて、それらの相関関係を調査する。質問内容は、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の既往歴、アレルギーが発症・悪化した時期、福島第一原子力発電所事故時とその後の居住地、食品の摂取頻度や嗜好性、食品または産地などへ対する関心・こだわりなどについて行う。 また、今年度予定していたよりも試薬などの費用を抑えることができたため、次年度繰り越し金が発生した。次年度は、樹状細胞分離実験が多いため、繰り越し金を、単価の高い樹状細胞分離用の試薬や器具の購入に充てる予定である。
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Research Products
(4 results)