2013 Fiscal Year Research-status Report
放射線照射による消化管樹状細胞の活性化と卵白アルブミン特異的アレルギー反応の誘導
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24614017
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Research Institution | Nippon Medical School |
Principal Investigator |
若林 あや子 日本医科大学, 医学部, 助教 (30328851)
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Keywords | 放射線 / 樹状細胞 / 上皮細胞 / X線 |
Research Abstract |
昨年度、マウスの樹状細胞には放射線照射耐性があること、また、腸管膜リンパ節の細胞にX線を照射して1日培養した時、CD11c陽性樹状細胞における共刺激分子の発現が増加することが分かった。今年度はさらに、マウスから採取した腸管膜リンパ節の細胞に、0rad, 500rad, 1000rad, または3000radのX線を照射し、培養せずに直ちにCD11c陽性樹状細胞におけるCD40, CD80, CD86といった共刺激分子の発現について調べた。その結果、3000rad X線を照射したCD11c陽性樹状細胞において、CD80の発現の著しい増加が観察された。このことより、樹状細胞にX線が照射されると、その直後から樹状細胞の活性化が起こることが示唆された。 一方、マウス小腸の上皮細胞は放射線感受性が高くて照射によって死滅しやすいこと、および上皮細胞のみを他の細胞の混入なしで分離・採取することは、技術的に困難であることも昨年明らかになった。そこで今年度、Satoらの報告(Nature, 2009年)に従い、マウスの小腸のクリプトから腸幹細胞を採取し、マトリゲル中において3次元培養し、上皮細胞のみから成るクリプト-絨毛類器官を構築することを試みた。結果として、クリプト-絨毛類器官の培養システムを確立することに成功した。現在、この上皮器官を放射線照射した場合、樹状細胞など様々な免疫細胞にどのような影響を与えるかを検討中である。 また、大学の学生などを対象に質問調査を行い、2011年3月の福島第一原子力発電所事故前後のアレルギーの発症や進行について調べた。現在までの結果では、事故前後で発症や進行に特に有意な差は観察されていない。次年度もこの調査は継続して行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続き、放射線耐性が高いマウス樹状細胞における放射線照射の影響の詳細について調べたところ、今回、X線照射直後から樹状細胞の活性化が起こることが明らかとなった。 アレルギー反応が誘導される過程においては、この樹状細胞が抗原を取り込んだ上で活性化し、T細胞に抗原提示することが推測される。この抗原に関しては、消化管という組織の特性故、まず腸管上皮細胞に取り込まれる。昨年度の報告より、この腸管上皮細胞は放射線感受性が高く、細胞死を起こしやすいことが明らかとなった。それ故、放射線照射によって細胞死を起こした上皮細胞ごと、樹状細胞に取り込まれる可能性が考えられる。そこで前年度マウスより上皮細胞の分離・精製を試みたが、放射線のみならず物理的刺激にも弱く、状態が良い細胞を他の細胞の混入なしで採取することは技術的に困難であることが判明した。 そこで今年度、マウスの小腸のクリプトから腸幹細胞を採取し、3次元培養によって上皮細胞のみから成るクリプト-絨毛類器官の構築を試みたところ、培養システムの確立に成功した。このクリプト-絨毛類器官培養システムの確立の意義は多大であり、今後研究にこの培養システムを使用することによって、上皮と樹状細胞などの免疫細胞との関係の研究は大きく発展する可能性がある。現在、この培養システムを使用し、アレルギー発症における上皮細胞と免疫細胞のメカニズムについてさらに研究を続行中である。このクリプト-絨毛類器官培養を本研究に用いることは、当初研究計画には記述していなかったものの、実験の途中経過の結果から必要性が明らかになったものであり、本研究の目的である食物アレルギーにおける放射線の影響の解明に必要な研究過程である。 また今年度、質問調査を行い、福島第一原子力発電所事故前後のアレルギーの発症や進行について多くの回答を得ることができた。次年度もこの調査は継続して行う。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度、マウスの小腸クリプトの腸幹細胞から、クリプト-絨毛類器官を3次元培養することに成功した。そこで次年度は、このクリプト-絨毛類器官培養システムを用いて、食物アレルギーの発症や進行の細胞メカニズムにおける、放射線の影響を検討する予定である。 培養によって得られたクリプト-絨毛類器官に、卵白アルブミンを加えて取り込ませた後、X線を照射によって上皮細胞を障害する。この卵白アルブミン抗原を取り込んだ後細胞死に陥った上皮細胞に、マウスの樹状細胞を加え、樹状細胞が細胞死した上皮細胞を貪食するか検討する。樹状細胞が上皮細胞を貪食し、上皮細胞内の卵白アルブミン抗原を処理してMHCクラス上に提示する場合、卵白アルブミン特異的なT細胞(OT-IおよびOT-II細胞)を刺激して増殖を促すことが予想される。この際、OT-Iが増殖すれば卵白アルブミンはMHCクラスI上にクロスプレゼントされることが、OT-IIが増殖すれば抗原はMHCクラスII上に提示されることが判明する。また、培養上清中のIL-4やIL-13のようなTh2型サイトカイン、およびIL-2のようなTh1型サイトカインの産生についても調べる。樹状細胞によるこれら抗原提示がいずれか、もしくは両方起こり、Th1またはTh2の過剰な免疫反応状態の誘導に寄与するか否か調べる 一方、今年度に引き続き、質問調査を行い、福島第一原子力発電所事故前後のアレルギーの発症や進行と、食品の産地や嗜好性などについて相関関係を調べる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究計画当初は、マウスから直接採取した上皮細胞を様々な実験に用いる予定であった。昨年度の研究において、マウス生体からの上皮細胞の分離・精製を試みたが、放射線のみならず物理的刺激にも弱く、状態が良い細胞を他の細胞の混入なしで採取することは技術的に困難であった。 そこで今年度は、マウスの小腸のクリプトから腸幹細胞を採取し、3次元培養によって上皮細胞のみから成るクリプト-絨毛類器官の構築を試みた。結果的に培養システムの確立に成功したが、培養システム方法を確立するまで、器具や試薬の選択・発注・納入の面において、円滑に進まなかった時期があった。それ故、研究費の使用が若干遅れたことが理由であると考えられる。現在は培養実験方法が確立し、今後の試薬や器具の発注や納品も円滑に進むであろう。 今年度確立したクリプト-絨毛類器官培養システムの維持には、様々な試薬や器具が必要である。また、研究には多くのマウスを必要とし、これらマウスの購入や維持費も必要である。特に、OVA特異的なT細胞レセプターを持つトランスジェニックマウスの飼育、系統維持、導入遺伝子解析には、様々な費用が必須である。その他、マウスから樹状細胞を採取する器具や試薬もその都度の購入が欠かせない。 今年度、クリプト-絨毛類器官培養システムが確立したため、次年度の研究は円滑に進むことが予想される。必要な器具や試薬を計画に従って購入し、実験を進めていく所存である。
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