2013 Fiscal Year Research-status Report
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24615004
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
升井 伸治 京都大学, iPS細胞研究所, 講師 (20342850)
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Keywords | iPS細胞 / マスター転写因子 / ポリコーム / コアネットワーク |
Research Abstract |
本研究の目的は、細胞の初期化すなわちiPS化に対して、これに拮抗(iPS干渉)する体細胞の遺伝子について機能解析することで、細胞の分化を決定する一般原理についてインサイトを得ようとするものである。前年度までに、体細胞で発現する細胞特異的遺伝子が、iPS干渉の原因とわかった。本年度はこの点を掘り下げた。細胞特異的遺伝子は、ES細胞においてポリコーム複合体によって抑制されている転写因子遺伝子(発生制御因子)が有意に多い。ES細胞において、ポリコーム複合体遺伝子を抑制すると、発生制御因子が脱抑制(発現上昇)し、分化する。すなわち、発生制御因子は、多能性特異的遺伝子を抑制することが必然的に導かれる。実際、発生制御因子であるCdx2などは、ES細胞において過剰発現すると、Oct4などを抑制し分化を引き起こす。したがって発生制御因子の総体(100因子程度)が多能性特異的遺伝子の抑制を担うとみられる。実際、神経系細胞で発現する発生制御因子について、iPS干渉アッセイを行うと、やや強い干渉効果がみられた。次に、体細胞において多能性特異的遺伝子が抑制される機構を明らかにするため、神経系細胞において、ポリコーム複合体遺伝子を抑制したところ、多能性特異的遺伝子と多くの発生制御遺伝子が脱抑制し、また神経系細胞の形態にも大きな変化が見られた。したがって、体細胞の維持は、ポリコーム複合体の機能を介するとみられる。ポリコーム複合体は、マスター転写因子によってリクルートされるとする見方が有力である。したがって、各細胞において、マスター転写因子のコアネットワークが遺伝子発現全体を決定しており、抑制されるべき遺伝子はポリコーム複合体を介して抑制されると考えることができる。本年度に発表した論文(PNAS, 2013)は、その初めての機能的証明を与えていたとみることができる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
成果欄に記載した事項に加え、多くの角度から細胞分化の一般原理について解析を進め、データが出つつある。 神経系細胞においてゲノムワイドshRNAライブラリを用いて、iPS化を抑制している遺伝子の網羅的単離に着手している。その結果、現在までに多くの神経系特異的遺伝子を同定している。転写因子に加えて、神経系特異的に機能する膜タンパク質や細胞質のタンパク質が多くみつかっている。すなわち、細胞特異的なシグナルが転写因子に伝達され、マスター転写因子が形成するコアネットワークを強化することで体細胞を維持するメカニズムをうかがわせる。実際、本研究で主に用いている神経系細胞は、bFGFとEGFに依存して分化状態を維持し、増殖する(ES細胞の試験管内分化法で得られた、平面培養できる神経幹細胞様の細胞)が、これら成長因子はiPS化を阻害することがわかった。 また、本研究の仮説が妥当であれば、コアネットワーク導入によって、ポリコームによって付加される抑制性エピジェネティック修飾も完全に誘導されるはずである。しかし、現在までにダイレクトリプログラミングの報告は多数あるが、抑制性エピジェネティック修飾が完全に誘導された例は報告が無い。そこで、Pax6、Etv6などの導入により誘導神経系細胞を作出する系を用いて、抑制性エピジェネティック修飾が完全に誘導される証明を試みている。これまでレトロウイルスで誘導実験を行っていたが、発現量がさほど高くないことや誘導途中にサイレンシングされることなどから、より強力かつ持続的に発現させるためにセンダイウイルスベクターを構築した。これを肝細胞へと感染させたところ、レトロウイルスの場合と比べて早い日数で誘導神経系細胞が得られた。より完全な誘導神経系細胞を得るための条件検討を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
・ポリコームによって制御される転写因子遺伝子の機能解析 ・ゲノムワイドshRNAスクリーニングによって得られた遺伝子の機能解析 ・抑制性エピジェネティック修飾の誘導解析
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ゲノムワイドshRNAスクリーニングをさらに進めるために、次世代シークエンスの消耗品費が必要である。また、同定された遺伝子の機能解析について分子生物学的解析費用を計上した。さらに、ポリコームによって制御される転写因子の機能解析のために、分子生物学的解析費用およびマイクロアレイ費用を計上した。エピジェネティック修飾の変化を解析するために、クロマチン免疫沈降と次世代シークエンスを行う必要があるが、その費用を計上した。さらに、培養液に必要な成長因子の費用を計上した。 年度を通じて培養を行うため、成長因子は恒常的に使用する。年度前半にゲノムワイドshRNAスクリーニングを進めるため、次世代シークエンスを行う予定である。エピジェネティック修飾解析については、年度前半に培養条件等の至適化を行い、年度後半にクロマチン免疫沈降と次世代シークエンス、およびマイクロアレイ解析を行う予定である。分子生物学的解析は年度を通じて行う。
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Research Products
(4 results)
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[Journal Article] Transcription factors interfering with dedifferentiation induce cell type-specific transcriptional profiles.2013
Author(s)
Hikichi T, Matoba R, Ikeda T, Watanabe A, Yamamoto T, Yoshitake S, Tamura-Nakano M, Kimura T, Kamon M, Shimura M, Kawakami K, Okuda A, Okochi H, Inoue T, Suzuki A, Masui S.
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Journal Title
Proc Natl Acad Sci U S A.
Volume: 110
Pages: 6412-6417
DOI
Peer Reviewed
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