2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24615009
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | 独立行政法人医薬基盤研究所 |
Principal Investigator |
揚山 直英 独立行政法人医薬基盤研究所, 霊長類医科学研究センター, 主任研究員 (50399458)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 霊長類 / 幹細胞 / MRI / 再生医療 / cellular tracking / 磁性体 / 疾患モデル / 移植 |
Research Abstract |
昨今、臨床分野では虚血性疾患等の新たな治療方法として、幹細胞やiPS/ES細胞を用いた再生医療の動きが活発化している。その一方で、移植細胞の腫瘍化や患部の悪化、疼痛の再燃等、少数ながらも有害事象の報告が認められている。こうした再生医療等の安全性・有効性を評価するためには、生体内における移植細胞の動態を確認するin vivoレベルのシステムが重要となる。これまでに、移植細胞の体内動態追跡評価法として、MRI装置と超常磁性酸化鉄微粒子等を用いた実験が、マウスやブタ等を用いて行われてきたが、ヒトと近縁な霊長類での報告はなされていない。そこで今回我々は、霊長類であるカニクイザルを用いて、世界初となるMRI装置を用いた細胞動態追跡システムの構築を目指した。 まず始めに、カニクイザル末梢血より得た有核細胞を用いてフェルカルボトラン等の超常磁性酸化鉄微粒子(SPIO)による標識・移植を行い、3T-MRIにて撮像を行った。その結果、生体内でのSPIO標識細胞の存在を確認し、組織学的検査においても同移植部位からSPIOを確認することで、移植細胞の定着を証明した。これにより、生体内においてMRI装置を用いて移植細胞の体内動態追跡評価を行うことができることを証明した。同時に虚血性心疾患モデルの作成を行いそれらの心機能、血液生化学的な検査からヒト疾患を忠実に反映しているモデルである事も確認している。 さらに対象細胞を再生医療等で用いられる骨髄由来間葉系幹細胞に変更し、標識をSPIOから蛍光色素コーティングされた磁性体であるFluorescent Iron Particles(FIP)に変更することで、より臨床応用に則した手法で、動態追跡の条件検討を試みた。これらの結果をもとに、次年度以降、再生医療における有効性および安全性の評価系として、より完成された細胞動態追跡システムの確立を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず始めに、カニクイザルの末梢血より有核細胞を分離し、継代培養、増殖法の確立を行った。さらに様々な濃度のSPIOと共培養を行い末梢血由来有核細胞におけるSPIO最適標識濃度を検討した。その後、最も効率的に標識された有核細胞をカニクイザル生体内に経皮的や経静脈的な経路を介して移植を行い、3T-MRIにて経時的に撮像を行い撮像条件の検討を行った。その結果として一週間後の経時的な撮像でも生体内でのSPIOの存在を確認することが可能である事を見出した。併せて、同個体の組織病理学的検索を行い、MRI撮像で確認された同箇所からSPIOを確認することで、移植細胞の定着および追跡可能である事を証明した。これらの結果により、当該年度の目標であったカニクイザルの有核細胞を用いたMRIによる移植細胞のcellular tracking技術の樹立を完了した。 さらに、心筋梗塞モデルにおいては心エコーや心電図による心機能診断、CPKやトロポニンT、BNP、ANPなどの血液生化学的検査を実施し、これらがヒトの心筋梗塞病態を忠実に反映し、再現性の取れたモデルである事を確認している。 次いで対象細胞を、再生医療で用いられる骨髄由来間葉系幹細胞に変更し、カニクイザルの骨髄より分離した細胞の継代培養および増殖方法を検討した。また標識をより高感度で効率よくするためにSPIOから蛍光色素コーティングされた磁性体であるFIPに変更し、標識効率の検討やMRIによるT1、T2等の撮像条件の検討を行った。現段階では、ex vivoイメージングとして、摘出された心筋に移植したFIP標識細胞より顕著なシグナルを確認する事が可能なところまで実験を進めている。今後、これらをさらに発展させ、生体内にFIP標識細胞を移植しMRI装置での経時的な撮像、および組織学的検査での証明を試みる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
現段階では摘出心にFIP標識されたカニクイザル骨髄由来間葉系幹細胞を移植するというex vivoイメージングの実験を試みており、これによりまずMRIにおける撮像条件の最適化を目指す。さらに細胞標識実験においては細胞増殖速度が速い段階で、かつsub confluentな状態下でFIPと共培養する事で、より標識率が高くなると言う報告を参考に、至適条件の確立を検討する。これらを踏まえて、骨髄液の採取方法もこれまでに我々が構築した四肢還流などの方法(Masuda S, et al. Exp Hematol. 2009; 37: 1250-1257.)を試みることで、自己複製能、多分化能に優れた質の良い骨髄細胞を採取し、より細胞増殖効率を速めた骨髄由来間葉系幹細胞での分離・培養条件検討を行う。さらにそれらをsub confluentな状態で維持したままFIPと共培養する事で、標識効率のより良い条件を整える。その後それらの標識細胞を筋肉や静脈などの経路を介して、生体内に移植し、移植直後および数日ごとの経時的MRI撮像を試みる予定である。同時に、移植自体による生体への影響も、超音波検査やレントゲン検査、血液検査などの非侵襲的検査を行い、状態の評価に努める。また、MRI撮像の際に磁性体シグナルを検知した箇所での組織学的検査を実施することで、同部分に磁性体標識移植細胞の定着も確認する予定である。これらを通して評価方法としてのcellular trackingの精度を上げつつ、有効性・安全性評価としての細胞動態追跡システムの完成度をより高める予定である。さらには心筋梗塞等の病態を忠実に反映した疾患モデルを構築し、それらへの細胞移植、動態追跡も行う予定としている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
有効性・安全性評価としての本システムの完成度を高めるためには、より多くの症例数で良好な結果を得なければならない。そのためにも、本研究の実施機関である霊長類医科学研究センターで保有している2000頭規模からなるカニクイザルの繁殖コロニーや、これまでに作出・抽出してきた霊長類疾患モデルを十分に活用した本研究の実施が必須となる。そのため、次年度の研究費はまずこれら対象動物であるカニクイザルの維持管理、また移植動物として今後検討している霊長類疾患モデルの作出・抽出に関わる費用として使用する予定である。さらに対象細胞である骨髄由来幹細胞や今後利用が期待されているiPS/ES細胞等の分離・培養法などはその特殊性や大規模化が予想されることから、本研究に用いられる消耗品も必然的に多岐に渡る予定であり、その費用としても用いる予定である。また、本研究に必須の3T-MRIの撮像や実験に用いたカニクイザルの病態評価において必須となる臨床検査等には多くの消耗品や検査薬等が必要となるため、それらの費用も含まれる予定である。加えて、カニクイザルにおける四肢還流法による骨髄採取や細胞移植、病態評価の際にはヒトに準じた麻酔処置や無菌的手術手技、その後の疼痛・健康維持管理などが必須となり、そのための医療用消耗品や設備の整備が必要となる。そして、本システムの構築のために、産官学等様々な分野の研究者との活発な意見交換を行い、さらに本研究の成果を学会等で広く発表し、その周知のための機会を多く設けたいと考えている。以上のように本研究の速やかな遂行を行うべく、適切かつ迅速な研究費の使用を心がけたい。
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