2013 Fiscal Year Research-status Report
教育実践のアクチュアリティとケア的意味生成に関するフィールド心理学的研究
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24616006
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
本山 方子 奈良女子大学, 人文科学系, 准教授 (30335468)
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Keywords | 教育実践 / アクチュアリティ / ケア / フィールド心理学 / 意味生成 |
Research Abstract |
本研究では、学校教育の実践におけるアクチュアリティに着目し、実践のケア的意味の生成過程を明らかにする。本年度は、以下のフィールド研究を行った。 1.幼稚園4歳児クラスの対人葛藤場面のフィールド調査を実施した。また、前年度に調査した3歳児の対人葛藤場面を分析し、非当事者の幼児の介入について、介入手法と介入の影響を検討した。3歳児は他児が直面した対人葛藤に関心を向け、要解決の事態として認識していた。3学期には、対人葛藤の当事者に対し加勢や仲裁などより直接的な働きかけをとるようになり、解決に至らないまでも、介入によって状況を変化させる可能性が高まってきた。 2.幼稚園5歳児と小学校1年生、2年生の3学年による幼小交流活動のフィールド調査を行い、2年生の交流活動への「参加」のダイナミクスを検討した。彼らは年長児童として自らに求められる役割を意識し、年少児の参加を保障するなど、環境に応じて自らの「参加」を常に変化させることが明らかになった。 3.小学1年生の学級のフィールド調査を1年間実施し、就学移行期における「学習」の自己組織化を検討した。子どもは、就学前のよく知った素材と連続してかかわりつつ、その経験の言語化を図り、学習の自己組織化が図られていた。教師は、子どもがもちこむ答えに対しあえてその真偽を追究し探索を継続させるなど、「急がない」指導をとっていた。そのため、子どもは自らの学習過程を自己言及せざるを得なくなっていった。 4.前年度調査した公立高校の英語科授業について、教室談話を分析し、授業参加の「余地」の点から検討した。一斉授業では、受講者には規範の受容が求められる一方、自発的な発話や拡散的、逸脱的内容でも教師には応答されやすく学級全体で共有され、この点が「余地」となっていた。TTの授業では、ゆるやかな規律のもと談話参入や移動、発話内容などに自由度があり、「余地」として機能していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.教育実践のフィールド調査:計画していたフィールド調査が順調に実施され、学会における研究発表に至った。 ①奈良女子大学附属幼稚園における保育実践の調査:幼稚園における縦断研究として、4歳児の対人葛藤場面への介入に関する調査を実施した。平成24年度に実施した3歳児の調査は分析を行い、学会発表を行った。②奈良女子大学附属小学校におけるフィールド調査:【調査1:異学年・異年齢交流】2年生のクラスを観察拠点として幼小交流活動を中心に、子ども間のケア的関係形成について調査を行った。活動を企画・運営する2年生の発達的変容や、活動への「参加」のダイナミクスについて分析を行った。【調査2:総合学習】小学1年生のクラスで、学習環境へのケアの生成について、年間通じてフィールド調査を行った。就学移行期の学習の生成について自己組織化の観点から分析を行い、学会発表を行った。 ③高等学校における英語科授業実践の調査:協力者の転勤により、アクションリサーチの実施を見送った。前年度の調査について教室談話分析を行い、授業スタイルの違いと談話参入の「余地」について学会発表を行った。 2.教育実践の意味づけに関する調査:当初予定した教師へのインタビューを変更し、生まれ育った地域に暮らす60歳の男性にライフヒストリー調査を実施し、地域の事情や状況に応じた学校の教育実践経験についての語りを得た。生徒の立場から、教師の取組について意味づけを得た。 3.フィールド心理学としての交差的分析の試行:分析で使用する基礎資料を作成する予定であったが、至らなかった。 以上、フィールド調査は計画以上に順調に進展したが、教育実践の意味づけに関する調査は予定を変更し、交差的分析の資料準備については遅れている。フィールド調査の分析では成果が得られ、学会において研究発表を順調に進めることができた。総じて、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.教育実践のフィールド調査 主な調査は、予定通り、平成25年度までに実施した。平成26年度は、幼稚園の保育実践の縦断的調査について、5歳児クラスのフィールド調査を行い、本年度までの分析・検討の妥当性を得る予定である。また、これまでの調査に関して、既に何件かの研究発表を行った。今後は、分析を見直した上で、論文化し、公表していく予定である。 2.教育実践の意味づけに関する調査 (1)地域における教育経験のライフヒストリー調査:平成25年度に実施した調査について、ナラティブ分析を進め、学会等で発表を行う。(2)小学校の総合学習のフィールド調査に関して、平成25年度の授業及び同じ教師の数年前の実践について、ビデオ・カンファレンスを行い、省察資料を得る。 3.フィールド心理学としての交差的分析の実施 フィールド調査によって得られた実践記録とインタビューやビデオ・カンファレンスによる省察記録を照合し、交差的分析を試行する。方法としては、記録の照合に基づき、授業者本人のケア的意味付与の箇所を特定し、それを単位として、授業者-参観者(コンサルタント)間の省察の異同と、授業者自身の学期末-年度末-1年後-数年後の時制の異なる省察の異同を捉え、意味付与の変化を検討する。その上で、教師や子どもの行為間の関係を検討し、実践におけるケア的意味を顕在化させる。分析の過程と結果をもとに、その解釈可能性を検討する。
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Research Products
(9 results)