2015 Fiscal Year Annual Research Report
心理学における「関係」および「物語」理論の再構築:養育・療育・看護の現場から
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24616028
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Research Institution | Narabunka Women's College |
Principal Investigator |
東村 知子 奈良学園大学奈良文化女子短期大学部, 幼児教育学科, 准教授 (30432587)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西川 勝 大阪大学, コミュニケーションデザイン・センター, 特任教授 (10420423)
麻生 武 奈良女子大学, 理系女性教育開発共同機構, 特任教授 (70184132)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ケア / 物語 / 障がい / 認知症 / 専門性 / 権力性 / 偶有性と必然性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題では「関係」と「物語」を鍵概念とし、旧来の心理学のパラダイムの限界を乗り越える新たなケア論の構築を目的として研究を行ってきた。平成27年度は、前年度から行ってきた障がい児の療育実践の分析を終え、ケアの専門性を問う書籍としてまとめた。また「ケアと物語」をテーマに学会でシンポジウムを行い、従来のケアの語りは狭い枠組みを現象に押し付けていること、一見意味のないように見える「隙間」や「遊び」に意味を見出す新たな物語化のあり方を検討する必要があることを示した。 研究期間全体を通して以下の4つのテーマを設定し、考察を深めた。(1)ケアの専門性とは何か:特別支援教育の実践の分析を通して、障がいについての「専門家」ではなく、その子どもの〈専門家〉になることがケアにおいて重要であり、そこに〈専門性〉があるという結論を導いた。(2)ケアがはらむ困難・危険性をどう考えるか:認知症介護と福祉相談の現場から、ケアというかかわりが必然的にお互いを相手との関係へと巻き込むものであるにもかかわらず、必要とされるときにだけ結ばれる一時的な関係でもあるという矛盾を明らかにし、ケアする者はことばに特化したケアの脆弱性を乗り越え、ことばを身体やその社会状況と結び付ける必要があることを示した。(3)ケア関係の偶有性と必然性:出生前診断に対する意識調査の結果から、ケアは偶有性を必然性に変えていくプロセスと表裏一体であることを指摘した。(4)物語の権力性を乗り越える身体性:本来物語化することの根底にあるのは、語る他者という身体を潜り抜ける、いわば身体を通した抽象化であることを、障がい児者支援の事例から明らかにした。物語化のあり方によって、ケアという営みは非常に貧困なものになりうる反面、他者の存在によって自らの枠組みを根底から問い直すという豊かな営みにもつながることを指摘した。
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