2012 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における言語様式の重層性と文化的越境の研究
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24617005
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
イ ヨンスク 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (00232108)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 言語思想 / 文化研究 |
Research Abstract |
平成24年度においては、近代日本における言語様式の重層性の問題に焦点を絞り、話し言葉と書き言葉の関係、ダイグロシア(二重言語状態)、ネーションと言語の関係性などの問題をとりあげた。論文「言語政策の観点から見た言文一致」(『韓日近代語文学研究の争点』ソミョン出版、2013年2月、pp.259-278、韓国語)は、そうした問題を総合的にあつかったものであり、言語政策の観点から言文一致運動をとらえ直す必要があることを論じた。そこでは、言文一致が言語主体の自立性を促す一方で、標準語の規範を強化し、ナショナルな言説を同質化する側面があったことを明らかにした。 講演「‘帝国’を記述する言語、‘帝国’を支える言語」(プサン大学人文学研究所、2012年12月6日)では、ネグリ&ハートの「帝国」論やサイードの「オリエンタリズム」論の観点を採り入れ、現代のポストコロニアリズムやネオリベラリズムの言説のレトリック性の問題を論じた。学会コメント「ネーションをめぐる社会的境界線、マイノリティ、情動性」(日本英文学会第84回全国大会)では、ネーションが語りの対象となるときの包含と排除の問題、そこに付随する情動性の問題について論じた。講演「日本社会での多言語共生の可能性を考える」(名古屋YWCA日本語教育セミナー、2013年4月13日)では、現代の日本社会において真に意味のある多言語共生の在り方を考察した。以上、三つの業績は、本研究の問題設定の射程を現代にまで広げることを試みた作業であり、社会における言語様式の重層性の考察の今日的意義を確認するためのものである。 上記の研究を遂行するにあたっては、ブリティッシュ・コロンビア大学アジア研究所におけるワークショップと討論が大きな支えとなった。北米の先進的なアジア研究者が集う当研究所の存在は、この研究を進めるにあたって大きな意義をもつ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、平成24年度は(1)言語様式の概念の理論的精緻化、(2)明治期の言語様式の多層性の分析を行うことを目的とした。論文「言語政策の観点から見た言文一致」(『韓日近代語文学研究の争点』ソミョン出版、2013年2月、pp.259-278、韓国語)においては、近代のネーションにおける社会的知識の配分と言語の標準化が密接に関連していることをゲルナーやブルデューの議論をもとに論じ、さらに明治期の言文一致運動をとりあげ、そこでの口語文体の確立が「国語(national language)」の成立と軌を一にしていたことを明らかにした。もちろん、公的な言語使用が完全に口語化されるのは戦後を待たなければならないという点からすれば、文語文の使用が消滅したわけではない。したがって、こうした複数の言語様式が存在していたことに近代日本のナショナルな言語様式の特徴が求められることについても考察した。以上の成果は、当初の研究計画にあげた二つの目的をいずれも達成したものである。 他の講演と学会発表では、日本と海外の事例の比較を行うほか、ディスコースと情動性の関係、「帝国」のディスコースにおけるレトリックの問題、日本の植民地主義的言説の固有性などの理論的問題について考察した。これらはいずれも上記の「言語様式の概念の理論的精緻化」に含まれる作業であり、いずれも目的通りの成果が達成された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、言語様式という概念を媒介にして、近代日本の言語文化を多元的・複眼的にとらえることを目的とする。言語様式とは、思想や表現の内容と相関性をもちつつ、社会的に構成された言語表現の枠組みを意味する。この目的のために、第一は、日本の言語文化の内部に存在する多様性と重層性に注目すると同時に、日本から外へ向かう方向、ないし外から内へ向かう方向によって特徴づけられる文化的越境性の問題を扱うことである。この二つの視点を交錯させることによって、ナショナルな枠組みには回収されないような近代日本文化の動態性を明らかにすることを目指す。平成24年度においては、第一の視点、すなわち近代日本の言語様式の重層性についての研究を進め、一定の成果をあげることができた。今後の研究では、第二の視点、すなわち日本と外部とのあいだの文化的動態性・越境性に関する視点を導入して、研究全体の所期の目的を達成することを課題とする。 本研究においては、日本研究を国際的な研究ネットワークと結びつけることも課題としている。これまでの研究の進展で明らかなように、ブリティッシュ・コロンビア大学アジア研究所における共同研究プロジェクトへの参加は、本研究を進めるための大きな推進力となっている。北米のアジア研究の最大の組織であるアジア学会年次大会をはじめとする海外の国際学会に引きつづき参加して、最先端の知見を吸収するとともに研究成果の発信に努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(4 results)