2013 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における言語様式の重層性と文化的越境の研究
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24617005
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
イ ヨンスク 一橋大学, 大学院言語社会研究科, 教授 (00232108)
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Keywords | 言語思想 / 文化研究 |
Research Abstract |
本研究の目的は、近代日本の言語文化を多元的・複眼的にとらえ、文化内部の重層性と複数の文化間の越境性の現象を考察することである。その際には、近代日本の言語様式の多層性とナショナリズムとの関係が焦点になる。平成25年度においては、近代日本の言語様式の問題に関する英文の論文を発表して、この問題に関する一応の決着を付けた。そこでは、近代日本の公共圏における書き言葉の問題を取り上げ、言文一致以降の書き言葉の口語化のプロセスが社会的次元ではかなり複雑な様相を呈することを論じた。平成25年度の当初の研究計画は、明治以降の知識人の海外体験の言語化のありようの考察と海外移民についての言説の検討であり、この計画は、2013年6月にマカオで開かれた"8th International Convention of Asia Scholars(ICAS)"における研究発表で具体化した。そこでは、経済学者河上肇の紀行文を題材にして、欧米の体験が知識人の言説のなかで国民化されていく過程を明らかにした。その一方、研究を進めるにつれて、文化実践におけるジェンダー編成の問題が重大な問題を提起することに気づき、女性の芸術表現の文化的位置取り(cultural positioning)の問題に目を向けるに至った。この点に関する研究発表は、2013年8月にブリティッシュ・コロンビア大学で行なわれたワークショップ"The Cultural Location of Women in Korea and Japan, 1600-1945, in the Context of East Asian Society"において、この問題に関する研究発表を行った。日本人の自己認識と他者認識の問題については、現在の日本の状況を背景に、日本語教育の問題と結びつけて研究を進め、論文ないし研究報告の形で研究成果を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究は、当初の研究計画に掲げた近代日本の言語様式の多層性の問題、そして知識人における海外体験の言語化の問題について充実した研究成果を挙げることができた。どちらの問題についても、国内外の研究者との議論に基づいて研究の構想が練られ、その成果を海外での学会ないしワークショップに発表し、場合に応じて論文集のなかに掲載するという研究サイクルを実現している。その一方で、平成25年度の研究のなかで、文化実践におけるジェンダー編成の問題が浮上し、新たに取組むべき課題として設定することとなった。ジェンダー編成は、文化内部の多層性の問題のひとつとして扱うこともできるが、それにとどまらない越境性の問題も内包している。十分な研究成果と新たな課題の設定が得られたという点からみて、研究は順調に進展したということができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度には、文化実践におけるジェンダー編成の問題を新たに設定したので、平成26年度はまずその点についての研究を進める。2014年7月にシンガポールで開催されるアジア学会(AAS-in-Asia)において、“East Asian Women and the National Borders: Heritage and Transformation in Border-crossing Migration”というパネルを組むことが決定しており、そこで研究発表を行う。本研究の目的である文化実践の重層性と越境性の問題を、ジェンダー編成のもとでの女性の越境性の問題と交差させることで、より豊かな結論を導き出すことができる。こうした問題設定を念頭において、最終年度である平成26年度においては、研究全体のまとめを行う。その際には、これまで同様、海外の研究者との活発な交流が必要となる。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] 女性の表現者とモダニズム――日本的自然主義との対決2013
Author(s)
イ・ヨンスク
Organizer
UBC Seminar. The Cultural Location of Women in Korea and Japan, 1600-1945
Place of Presentation
ブリティッシュ・コロンビア大学、UBCアジア・センター(カナダ)
Year and Date
20130814-20130815
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[Book] Divided Languages? ---- Diglossia, Translation and the Rise of Modernity in Japan, China, and the Slavic World2014
Author(s)
Jadranka Gvozdanovic, Neil Bermel, Elizabeth Kaske, Jinzhi Su, Chris Wen-Chao Li, Judit Arokay, Massimiliano Tomasi, Darja Miyajima, Yeounsuk Lee, Olga T. Yokoyama, Jeffrey Angles, Michiaki Kawato, Noriyo Hoozawa-Arkenau
Total Pages
259ページ(141-158ページ)
Publisher
Springer
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