2013 Fiscal Year Research-status Report
シティズンシップ力を育む被害軽減教育の開発-公共的空間をテーマとして-
Project/Area Number |
24618013
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
薬袋 奈美子 日本女子大学, 家政学部, 准教授 (60359718)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 永子 千葉大学, クリエイティブ・コミュニティ創成拠点, 准教授 (00551235)
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Keywords | 集落 / 住環境 / 災害 / 土地利用計画 / 避難 / 知恵 / 信仰 / コミュニケーション |
Research Abstract |
近年(戦後)災害に逢った集落における調査を、昨年度より継続して実施することができた。 特に男鹿半島における調査では、集落の全戸の建物の立地状況と、約半数の世帯に対する生活空間利用についてのヒアリング調査を行うことができた。その結果以下のような点が明らかになった。 (1)の集落の道に関する実態からは、元々生活の為の道であるものが、結果的に高台へ繋がる避難道にもなる事、それが集落に点在している事がわかった。またその先に蔵がある事で緊急時の滞在場所に使う事も工夫次第で可能であると考える。 (2)の建築物の配置関係においては、「海→小屋→主屋→山」のような形態になっている事で、波の到達地点が日本海中部地震の記録(地図1)を越えても、まず小屋が流され、主屋まで浸水する可能性が減る形態になっている。2011年に発生した爆弾低気圧では「道路挟み型」の家において主屋と小屋の間の道路まで波が到達し、小屋は流されたが主屋への被害はなかったという。 (3)の住宅の特徴では作業場である台所や過ごす時間が長い居間が海側、道路側に面している事がわかり、それは住民同士の関わりを生まれやすくしていると考える。また住民は日頃から互いに魚や野菜を交換したり、お茶のみ、散歩をしている事がヒアリング調査から明らかになった。お茶のみは互いの家の居間でよく行われ、またその他にも集落の中央にパイプイスが常時設置してあるなど住民が集える場が存在する。これらは集落コミュニティの一体性や集落を災害から守る要因の一つになると考える。 (4)の開口部の特徴からは風対策として漁村では海側に開口部を少なくする地域も存在するが、当集落では海側には多くの開口部があり、風対策としては他の手段がとられている事がわかった。またこの事も緊急時にお互いを助け合えるという点で災害対策の工夫になっていると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね当初の計画通りに進展している。 1年目には、被害があった地域と古くからの集落の形が比較的残っていると判断できるものを抽出する作業を行い、いくつかについては現地での第一次調査を行い、二次調査対象地区の選定につなげた。一次調査として現地調査を実施できたのは、女川町竹浦、豊間、唐丹町小白浜、奄美大島、枇杷島、男鹿、奥尻島である。これらの一次調査に基づく幾つかの地区の概況については、国際会議等で発表を行い、その成果を公表した。 2年目である本年度は一次調査の続きを行いつつも、二次調査を実施した。二次調査として選定した地区は、女川町竹浦、唐丹町小白浜、男鹿市加茂青砂地区である。 加茂青砂については、研究手法は主に文献・資料調査と現地におけるヒアリング調査、目視調査を実施した。前者から集落の成り立ち(①集落の歴史、②災害の歴史)、後者から集落空間(①生活の様子、②住空間の間取りや庭の使い方、③災害の経験、④標高)を調査し、発生した災害と住空間を比較。災害に強い、また自然と共生して暮らす工夫を考察した。 女川町竹浦、唐丹町小白浜は、東日本大震災被災地である。住民へのインタビューを含め、住空間の利用について、被災前の状況調査を行った。住民へのインタビューにあたっては、仮設住宅居住者もいること、流失した部分について、建物が残っていないことによる調査の難しさはあったものの、住民の方は様々な生活行為を記憶しており、被災直前だけではなく、数十年前の生活の様子も含めた、空間利用の変化についても確かめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、引き続き詳細に集落空間の利用状況を調査する地区を検討する。殊に奥尻島でどのような開発経緯があり、計画があり、さらに津波での被害にあったのかを、集落空間の形態の視点から考察する予定である。 また本年度は住教育教材の開発も開始する。これにあたり、まだ被災をしていない地域で、どのような集落の生活の知恵があり、住民がどのような災害への心の準備と、避難行動に対する備え、そして日常生活の中での自然の脅威との付き合い方の知恵を持っているのかを確かめる。2年目までの調査と本年度の調査の結果を総合して教材開発を開始し、本年度終了時までには、一つか二つの教材提案を行う予定である。 なお教材開発については、各教科において可能な住教育方法の具体的なプログラムが潤沢に用意され、教員の希望などに合わせて使用することのできる教材が求められると考えている。殊に大がかりな準備や、専門家の支援が不要で、長時間を費やさなくても良いプログラムを提供することにより、より多くの教員に住教育に取り組む機会を持っていだくものにしたいと考えている。そして、何よりも本研究の主題であるシティズンシップ教育にしっかりと結び付けられる内容であることが大事だると考えている。 このため、これまでにもシティズンシップ教育について様々な文献を読み、また事例研究を行ってきたが、今回の教材開発にあたり、改めて近年の取り組みについて振り返る。そのうえで、災害に備えた国民を育てるための実効性ある教育内容を開発する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究分担者に分担している分が次年度使用となった。 これは研究分担者が年度途中に職場移動となり、全職場の仕事の片づけ、また新職場での仕事の準備などに時間を費やす必要が発生したために、十分に研究の時間を確保することができなかったという点がある。 奥尻島におけるまちの発展と、その背景にある土地の提供プロセスについての資料収集を実施していただき、論文としてまとめる予定である。
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