2012 Fiscal Year Research-status Report
中古住宅市場の発達度や規模から生じる住宅の非流動性が遺産動機に与える影響について
Project/Area Number |
24618014
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya Gakuin University |
Principal Investigator |
上山 仁恵 名古屋学院大学, 経済学部, 准教授 (90295618)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 遺産動機 / 日本 / 相続 / 家計 / 住宅資産 / 中古住宅市場 / 住宅の流動性 |
Research Abstract |
本研究の目的は、日本における親から子への相続資産が、主に居住用住宅の不動産である要因を分析することである。特に、本研究では、日本において住宅資産が流動的ではない(すなわち、中古住宅市場が発達していないために中古住宅の売却が容易ではない)ことが、日本人の遺産動機の形成に影響しているという仮説を立て、その検証を行うものである。 この目的を達成するために、平成24年度には、研究実施計画で示した通り、遺産動機に関する論文や文献の調査を行った。先行研究をまとめると、多くの論文が、遺産動機の推定式における住宅資産の変数の有意性から、日本人の遺産動機に与える住宅等の不動産の重要性を指摘している。そして、日本人が主に居住用不動産を子に残す理由としては、相続税制上の優遇をあげているが、いずれの先行研究でも、それをデータから証明しているわけではない。 従って、平成24年度では、住宅資産の流動性と遺産動機の関連性が分析可能となるような意識調査を実施した。その結果、先行研究の仮説とは異なり、相続税制上から子に居住用不動産を残す意向の人は少ないことが判明した。さらに、住宅資産の流動性に対する意識(例えば、現居住用住宅を市場で売却できるか否かなどに対する意識)が、遺産に対する意識に強い影響を与えていることが明らかになった。 以上の研究実績は、日本人の遺産動機における住宅資産(中古住宅)の役割について明確にした点で意義あるものである。遺産動機に関する研究は、親から子への資産移転の行動メカニズムを明らかにするものであり、政策的にも重要なトピックである。しかし、これまで、日本人がなぜ住宅資産を中心とした遺産動機を持つのかについては明らかにされてはこなかった。そのような観点から、本研究は先行研究とは違う位置付けとなっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、日本人の遺産動機に与える住宅資産の影響を、特に住宅資産の流動性(ここで、住宅資産の流動性とは市場における中古住宅の流通量と定義している)と関連付け、理論と実証の両面から検証するものである。 この目的に対し、当初平成24年度の研究実施計画では、1.遺産動機に関する論文や文献の調査、2.遺産動機を組み込んだ家計行動の理論モデルの調査、3.住宅資産の流動性と遺産動機との関連性が分析可能となるような意識調査の実施、を挙げていた。 これらの実施計画に対し、まず、1の遺産動機に関する先行研究の調査については、日本の先行研究についてはほぼ調査が完了したが、海外の先行研究についてはまだ不十分である。 そして、2の遺産動機を組み込んだ家計行動の理論モデルの調査については、遺産動機の理論としての概念のまとめは完了しているが、数学的な理論モデルの調査(または構築)は未完成である。 最後に、3の住宅資産の流動性と遺産動機との関連性が分析可能となるような意識調査の実施については、平成24年度内に終了し、簡単な分析結果を論文としてまとめている。 以上の達成度をまとめると、当初の実施計画の内容を全て完了させているわけではないが、平成24年内に実施した意識調査から、本研究独自の分析結果を得ることができ、さらに、その簡単な分析結果を論文としてまとめ、平成24年度内に開催された研究会で報告を行うことができた。これらの研究経過を踏まえ、平成25年内での学会報告へのエントリーや、レフェリー雑誌への投稿準備が進んでいるため、本研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策については、大きく分類して以下の5点である。 まず1点目は、平成24年度内に実施した住宅資産と遺産動機に対する意識調査のデータを用い、その詳細な分析を行うことである。簡単な分析については平成24年度内に実施しているが、これまでの研究会での報告において、分析方法の問題点について指摘されたため、分析手法に改良を加え、詳細な分析を実施したい。そして、2点目は、その結果を学会や研究会で報告し、レフェリー雑誌に掲載することである。 3点目は、平成24年度の研究実施計画の達成度において、先行研究の調査がまだ不十分であったため、引き続き、遺産動機に関する海外の先行研究の調査、及び、遺産動機を組み込んだ家計行動の理論モデルの調査(またはその構築)を行う予定である。 そして4点目としては、地域分析という観点から、住宅資産の活用を積極的に導入している自治体の家計行動を調査を考えている。例えば、現在、東京都武蔵野市では、自治体によるリバースモーゲージの活用を導入しているが、武蔵野市在住の市民の行動の特徴が検出されれば、住宅資産の活用に対する家計行動への影響が明らかになるはずである。平成24年度の研究実施計画の枠組みでは、日本と海外というマクロ的な視点からの分析のみを考えていたが、平成25年度からは、地域という視点からの分析も進めていきたい。 最後に5点目としては、本研究では、日本人の遺産動機の特徴を分析していることから、海外の家計との計量分析ベースでの比較を予定している。具体的には、平成24年度に実施した住宅資産と遺産動機に対する意識調査の海外での実施を予定しているが、その実施方法や内容についての計画を進めていく。 以上、今後の研究の推進方策としては、海外・日本・地域という3つの視点から、住宅資産の流動性が遺産動機に与える影響を分析していく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費の利用状況については、実施計画にある通り、住宅資産の流動性と遺産動機との関連性の分析が可能となるような意識調査の実施費用として使用した。その額は168万円である。 なお、当該年の支払請求額は210万円であったが、意識調査にかかった費用が予想額を下回ったため、次年度への繰越金が42万円発生した。この繰越金の使途については、今後の研究の推進方策で述べた、海外での意識調査の費用の補填として考えている(海外での調査の実施が予想より多額の費用が必要となることが判明したため)。 それでは、平成25年度の研究費の使用計画の内訳を述べる。平成25年度の使用計画としては、主に以下2点を考えている。 まず1点目の使用計画は、平成24年度に実施した意識調査の分析結果を学会等で報告するための旅費である。平成25年度内にいくつかの学会での報告にエントリーしているため、それらの旅費として使用したい。 次に2点目の使用計画は、地域の住宅事情の違いによる遺産動機の比較が行えるようなデータの購入費用である。当初の研究実施計画の枠組みでは、日本と海外比較というマクロ的な視野での分析のみを計画していたが、平成24年度に開催された研究会での報告時のコメントを受け、地域分析の必要性を感じている。従って、平成25年度より、研究実施計画に新たに地域的な視野の研究計画を導入したため、住宅事情と遺産動機を中心とする家計行動の地域分析が可能となるようなデータを購入したい。 最後に、平成26年度の研究費の使用計画である。現在のところ、平成26年度には、平成24年度に実施した住宅資産と遺産動機に対する意識調査の海外での実施を予定している。しかし、海外での意識調査の実施には多額の費用を必要とするため、繰越金を含めても実施が不可能な場合、ヒアリング調査等への切り替えも考慮している。
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