2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24619006
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
大坂 一生 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科, 特任助教 (90550244)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | リン酸化ペプチド / イオン収量 / ESI / 疎水性度 / イオン化効率 / 気化流速 / 分配係数 |
Research Abstract |
翻訳後修飾タンパク質の検出や構造解析は,医学・薬学の分野において大変重要である.翻訳後修飾タンパク質の中でもリン酸化タンパク質は,アルツハイマーや癌などのマーカーとなるものが多い.タンパク質の同定は,分離・精製後に酵素消化を行い,消化生成物の質量分析よって行われる.しかし,消化生成物のペプチドはイオン化効率が一律でないため,検出できないペプチドがある.イオン収量の低下の原因に関する詳細な議論は行われていない.本研究課題ではESI-MSによるリン酸化プロテオームのために,アミノ酸やペプチドの物性とイオン収量の関係を系統的かつ定量的に評価した.イオン収量(Ji)を詳細に理解するために,以下の式を用いた. Ji = I × Jv (I:イオン化効率,Jv:気化流束) イオン化効率(I)は酸・塩基性度などの物性と関連し,気化流束(Jv)は凝縮相からの気化・脱離の傾向を示す.ペプチドを構成するアミノ酸の物性の影響の評価については,スレオニン(T)をベースとしたペプチドを用いて行った.塩基性のArg残基や疎水性アミノ酸のPhe残基のイオン収量に与える影響を評価した.Phe残基を含むペプチドは正負両方のイオンモードにおいてイオン収量が向上した.この結果は,ESIの液滴中からのペプチドの気化流束(Jv)が増加したことを示す.またペプチドのArgやPhe残基の位置によるイオン収量の違いについても評価した.次に,ACTHフラグメントの末端アミノ酸残基を変更したペプチドのイオン収量を検証した.ペプチドの疎水性度を分配係数から計算した.正負両方のイオンモードにおいて,疎水性度が高いほどイオン収量が高くなる傾向が示された.本研究によって,ESIにおいて気化流束(Jv)はイオン化効率(I)よりもイオン収量に与える影響が大きいことが定量的に示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,ESIによるイオン収量を評価するために設計されたスレオニン(T)をベースとしたペプチド(Tクラスター)とACTHフラグメントの末端アミノ酸残基を変更したペプチドの定量的な評価を行った.TクラスターのTTTTTTT(T7)とRTTTTTT(RT6),TTTTTTR(T6R)の比較実験において,塩基性アミノ酸残基のArgを含むペプチドは正イオンモードでイオン収量が増加した.T7とRTTTTTF(RT5F),FTTTTTR(FT5R)の比較実験において,疎水性アミノ酸のPhe残基を含むペプチドは正負両方のイオンモードにおいてイオン収量が増加した.ACTHフラグメントのRPVKVYPNGAEDESAEAF(A1)とRPVKVYPNGAEDESAEAFR(A2)の比較において,A2は塩基性アミノ酸のArgを二つ含むにも関わらず,A1よりもイオン収量が小さかった.Argは高い親水性の性質を持つため,Argを多く含むペプチドの脱離量が少なくなったことが原因であると考えられる.ペプチドの疎水性度を分配係数から計算すると,疎水性の高いペプチドはイオン収量が高いことが示され,ペプチドの分配係数がイオン収量を理解するために重要なファクターであることが示唆された.本研究のESIにおけるペプチドの疎水性度とイオン収量の関係を解析する過程で, ArgやPheの位置の違いによるイオン収量の違いを示し,ESIにおいて気化流束(Jv)はイオン化効率(I)よりもイオン収量に与える影響が大きいことを定量的に示すことができ,当初の計画が達成された.また当初の計画以上にリン酸化ペプチドについても分析が進み,リン酸化ペプチドの検出のための最適化条件を見出した.最適条件を検討する研究の過程において,試料溶媒に加える添加物により,得られる多価イオンの分布が変化することが明らかとなった.
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Strategy for Future Research Activity |
セリンやチロシン残基がリン酸化されたACTHフラグメントを用いて,リン酸化ペプチドのイオン収量の評価を行う.本年度の研究結果によって,ペプチドの分配係数がイオン収量を理解するために重要なファクターであることが示された.したがって,リン酸化セリンやリン酸化チロシンの分配係数を実験・計算によって求めて,リン酸化ACTHの疎水性度を算出する.ACTHフラグメントの末端アミノ酸残基を変更したペプチドと,リン酸化ACTHの疎水性度とイオン収量の関係を詳細に評価する.またACTHフラグメントのリン酸化物だけでなく,他のリン酸化ペプチドについてもリン酸化ACTHフラグメントと同様に評価できることを確認し,ESI-MSにおける検出限界を求める.リン酸化ペプチドのイオン収量の予測と,リン酸化によるイオン収量低下を予測するための手法を検討する.本年度に得られたTクラスターとACTHフラグメントの結果と,次年度に行うリン酸化ペプチドの実験の結果をもとに,ESIにおけるイオン収量について総合的に評価する.次々年度は,これらの結果をもとに実際のリン酸化タンパク質のイオン収量の評価を行う. 本年度の研究結果から,試料溶液の添加物により得られる多価イオン分布が変化することがわかった.添加物には酢酸や酢酸アンモニウム等を用いた. ESIは多価イオンを生成するイオン化法であるため,多価イオンの生成を評価することはリン酸化プロテオームのイオン収量評価の研究に重要であると考えられる.次年度は上述の研究に加えて, ESIの多価イオン生成に対する試料溶液の添加物の影響を評価する研究を行う.添加物の塩の性質や溶液のpHの影響についても検討する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(8 results)