2013 Fiscal Year Research-status Report
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24619006
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
大坂 一生 北陸先端科学技術大学院大学, ナノマテリアルテクノロジーセンター, 講師 (90550244)
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Keywords | リン酸化ペプチド / イオン収量 / エレクトロスプレーイオン化 / プロテオミクス |
Research Abstract |
翻訳後修飾タンパク質の検出や構造解析は,医学・薬学の分野において大変重要である.翻訳後修飾タンパク質の中でもリン酸化タンパク質は,アルツハイマーや癌などのマーカーとなるものが多い.タンパク質の同定は,分離・精製後に酵素消化を行い,消化生成物の質量分析よって行われる.しかし,消化生成物のペプチドはイオン化効率が一律でないため,検出できないペプチドがある.イオン収量の低下の原因に関する詳細な議論は行われていない.本研究課題ではESI-MSによるリン酸化プロテオームのために,アミノ酸やペプチドの物性とイオン収量の関係を系統的かつ定量的に評価した.イオン収量(Ji)を詳細に理解するために,以下の式を用いた. Ji = I × Jv (I:イオン化効率,Jv:気化流束) イオン化効率(I)は酸・塩基性度などの物性と関連し,気化流束(Jv)は凝縮相からの気化・脱離の傾向を示す.ペプチドを構成するアミノ酸の物性の影響の評価については,スレオニン(T)をベースとしたペプチドを用いて行った.前年度は,塩基性のArg残基や疎水性アミノ酸のPhe残基のイオン収量に与える影響を評価して,疎水性度が高いほどイオン収量が高くなる傾向が示された.本年度は,セリンやチロシン残基がリン酸化されたACTHフラグメントを用いて,リン酸化ペプチドのイオン収量の評価を行った.リン酸基は負イオンを生成しやすいにもかかわらず,正負イオンモードの両方においてリン酸基の数が多くなるほどイオン収量が低下することが定量的に示された.本研究によって,ESIにおいて気化流束(Jv)はイオン化効率(I)よりもイオン収量に与える影響が大きいことが定量的に示された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り,ESIによるリン酸化ペプチドのイオン収量を評価するために設計されたACTHをベースとしたリン酸化ペプチドの定量的な評価を行った.リン酸基は負イオンを生成しやすいが,正負イオンモードの両方において,リン酸基の数が多いほどイオン収量が減少した.このことは,ESIにおいて気化流束(Jv)はイオン化効率(I)よりもイオン収量に与える影響が大きいことを示され,当初の計画が達成された. 前年度に評価したスレオニン(T)をベースとしたペプチド(Tクラスター)とACTHフラグメントの末端アミノ酸残基を変更したペプチドについて,その疎水性度を官能基の分配係数を用いて計算して,ペプチドの分配係数とイオン収量の関係を評価した.疎水性度が高いほどイオン収量が高いことが示された.イオン収量が低いリン酸化ペプチドのリン酸基は親水性が高いため,分配係数のイオン収量の関係に一致していることが示された.当初の計画以上に解析が進展した.また計画にはなかったが本研究において,試料溶媒に加える添加物により,得られる多価イオンの分布やイオン収量が変化することがわかった.このことは,本研究のESIにおけるイオン収量を決定する要因の一つでもあるため,ACTHベースのペプチドやタンパク質を用いてその機構を検討する実験も行ってきた.
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Strategy for Future Research Activity |
研究結果から,試料溶液の添加物により得られる多価イオン分布とイオン収量が変化することがわかった.今後添加物には酢酸や酢酸アンモニウム,炭酸水素アンモニウム,アンモニア水等を用いてより詳細に検証する. ESIは多価イオンを生成するイオン化法であるため,多価イオンの生成を評価することはリン酸化プロテオームのイオン収量評価の研究に重要であると考えられる.次年度は, ESIの多価イオン生成に対する試料溶液の添加物の影響を評価する研究を行う.添加物の塩の性質や溶液のpHの影響についても検討する.また,実際のリン酸化タンパク質消化物を用いて,消化物中のペプチド断片の疎水性度とイオン収量を評価して,本研究の評価方法の有効性を検証する.実際にプロテオミクスで用いられているLC-MSによっても同様に検証し,生物・薬学・医学分野のプロテオミクスに貢献できる知見を提供する.
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Research Products
(7 results)