2012 Fiscal Year Research-status Report
エネルギー分解イオンモビリティー質量分析を用いたイオン種識別法の開発
Project/Area Number |
24619011
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
本郷 やよい 独立行政法人理化学研究所, 物質構造解析チーム, 専任技師 (40435681)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 質量分析 / 天然物化学 / イオンモビリティー分析 |
Research Abstract |
初年度は、エネルギー分解イオンモビリティータンデム質量分析法(ER-IMS/MSMS)を用いて、従来の質量分析法では捉えることのできなかった質量変化を伴わないイオン異性化反応を捉える手法を確立した。これにより、異性化反応を含むイオンフラグメンテーションの追跡が可能となり、フラグメンテーションの様式の違いを基にした異性体分子または異性体イオンのキャラクタリゼーションが可能であることを示した。また、本法を用いることで、通常はイオン骨格情報を含まないために構造情報を欠くとされてきたlow-energy-CIDにおけるsmall neutral がイオン構造を反映したイオン異性体を生じることを示した。これを利用しER-MS/MSにおけるsmall neutral lossとイオン異性体生成の出現エネルギーを明確にすることで新たなイオン構造のキャラクタリゼーション情報に用いることができることを葉酸及びその異性体分子のを例に示した。 また、気相中のイオン種識別に利用可能と期待されるイオン源での酸化反応を見出した。多様な生理活性をもつことで注目される糸状菌由来の天然物テルペンドール類において、複数の類縁体でpositive-modeのESI酸化反応に由来する酸化物ピークが観測された。酸化物ピークはプロトン付加分子に対してのみ付随して検出され、[M]+・(ラジカルカチオン)、[M+Na]+には観測されなかった。この現象について、MS/MS実験により酸化がテルペンドール構造内のインドール骨格で起きていることを明らかにした。また、ER-IMS/MSMSを駆使し、わずかな分子構造の特徴の違いが酸化物ピークの出現に大きく影響する可能性をイオン構造の特徴と合わせて議論している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
エネルギー分解イオンモビリティータンデム質量分析法(ER-IMS/MSMS)を用いて多様な構造の特徴を持つ低分子有機化合物のイオン解離を測定することで、これまで報告のなかった様々なイオン反応の現象を捉えることに成功している。現在、正イオンモードにおいてイオン源内で生じるNa付加をはじめとするアルカリ金属付加イオン、プロトン付加分子、ラジカルカチオンの識別についてER-IMS/MSMSによりそれぞれのフラグメンテーションの特徴を系統的に調査しているを行っている段階であり、当初の計画通りおおむね順調に進展している。また、イオン源で起こる酸化還元反応については、従来、分子の酸化反応の受けやすさを反映した酸化ピークの出現が報告されていたが、本研究ではこれまでにイオン種特異的に観測される酸化反応があることを天然物テルペンドールにおいて見出した。このことは新たに、イオン化の過程で起こる反応解析手法やその反応を基にしたイオン構造解析の手法開発につながると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年年度に着手した正イオンモードのESIにおけるイオン種特異的な酸化ピーク出現に関わる実証実験を継続する。イオン種特異的酸化ピークの出現がどのような構造の特徴を反映するものかを特定するために分子構造が系統的に異なる化合物について測定を行う。必要な試薬の選定、誘導体化、同位体ラベル化などを行い実験を遂行する。現在までにER-IMS/MSMSで得られる膨大なデータ獲得までのフローが確立しているが、部分的に分析を定型化可能であると考えられることから、定型化された分析については、適宜実験補助パートタイマーに分析を依頼する。 また、引き続き得られた情報を解析し、イオン種キャラクタリゼーションに有効な情報を抽出する作業を行う。イオン種ごとのキャラクタリゼーションに加え、化合物種による結果の差異をまとめ、有効な情報を明らかにし、表示形式を検討する。必要に応じて計算化学手法を用いながらイオン構造とER-IMS/MSMSで得られた結果の対応付けを行う。 得られた結果は逐次報告きるようとりまとめの作業も行う。必要に応じて構造比較実験に適した試薬を購入するなどして分析する化合物の種類を増やす。また、場合によっては共通骨格を持ち、異なる官能基をもつ化合物間の比較を行いたい場合などは、化合物試料の調製が必要になると予想される。その場合は所属チームの天然物全合成の専門家の協力・助言の下、調製を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
H24年度は計画していたアリゾナ大学の研究室視察が7月に先方のオハイオ州立大移転に伴い見合わせになったため旅費内容を調整したが若干の未使用分が生じた。H25年度は実験を遂行するにあたり必要となる試薬、誘導体化、同位体ラベル化に伴い必要となる実験器具などを調達する。また、データ整理などルーチン化可能な作業については実験補助パートタイマーに分析を依頼するための謝金を計上する。得られた結果について逐次報告するための印刷代、英文校閲代等を計上する。
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Research Products
(4 results)