2014 Fiscal Year Research-status Report
植物の宇宙放射線耐性メカニズムとゲノム不安定化に関する研究
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24620001
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
寺西 美佳 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (10333832)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
日出間 純 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (20250855)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 放射線 / 植物 / DNA / 変異 / 不安定化 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線の種類によって、誘発されるDNA損傷に特異性が見られるかに関して、植物組織間での差異を解析するため、放射線照射したイネを地上部と地下部に分け、DNA損傷の種類ごとに損傷数を定量した。その結果、地上部と地下部において生じるDNA損傷は、紫外線照射では異なる傾向が見られたが、エックス線照射では同様の傾向が見られた。また、紫外線以外の放射線照射によってもCPD損傷が生じることを、CPD特異的な抗体を用いたELISA法により解析した。 各種放射線の照射により生じたDNA損傷には、どの修復酵素が機能するのかに関して、昨年度までの解析により、修復酵素欠損シロイヌナズナにおいても、酸化損傷およびDNA鎖切断は数時間で修復されることを示した。そこで、CPD損傷に関して、光回復酵素以外の酵素による修復程度を明らかにするため、紫外線照射後に暗黒下に置き、経時的に回収したサンプルのCPD数を定量解析した。その結果、照射後6時間においても暗黒下ではCPD損傷は修復程度は低く、照射後6時間において酸化損傷およびDNA鎖切断が8割程度修復されることと比較して、CPD光回復酵素以外の酵素による修復速度は遅いことが分かった。 各種放射線照射により相同組換え頻度が上昇するかに関して、相同組換えマーカー遺伝子を苔類ゼニゴケに導入し、マーカー遺伝子であるビアラホス耐性を指標として導入個体を選抜した。得られた1系統に対して、DNA二本鎖切断を誘発するゼオシンを処理し、相同組換え頻度を検出した。また、ゼニゴケにおいてもCPD光回復酵素が紫外線耐性に関与するかを明らかにするため、CPD光回復酵素欠損、また過剰発現ゼニゴケを作製し、表面積の生長度を指標として紫外線耐性を検定した。その結果、基部陸上植物ゼニゴケにおいても、高等植物と同様に、CPD光回復酵素が紫外線耐性に重要な因子であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度までの定量解析により、これまでガンマ線やエックス線では誘発されないとされてきたCPD損傷が、ガンマ線照射によって一本鎖切断よりも高い頻度で誘発される結果を得た。この結果について、研究集会において発表したところ、異なる定量方法を用いても同様の結果が得られるのか、試す必要があるとの指摘を受けた。そこで、CPD損傷特異的な抗体を用いたELISA法による定量も行うこととした。そのため、これまで得た結果を異なる方法にて再検討する必要が生じたことから、研究の進行度としては、やや遅れていると判断した。しかしながら新たな方法においても定量解析することにより、より確実な結果が得られることから、研究全体から見たら必要な研究であると考えられた。 また本研究においては、当初の計画には含まない苔類ゼニゴケを用いた解析も行った。ゼニゴケは陸上植物の祖先とされる基部陸上植物に相当し、紫外線の地表到達量の多い時代に陸上化を遂げており、また遺伝子の重複が少なくライフサイクルのほとんどを半数体として過ごすため、宇宙放射線耐性メカニズムとゲノム不安定化に関して明らかにするために優れたモデル植物であると考えられる。そこで当初の計画に加え、ゼニゴケを用いた研究を行うこととした。ゼニゴケにおける相同組換え頻度を検出するため、相同組換えマーカーを導入したが、導入個体の選抜マーカーであるビアラホスを用いた選抜は、イネやシロイヌナズナでは一般的に行われているが、ゼニゴケにおける選抜濃度の情報は無かった。そのため、野生型ゼニゴケにおいて致死となる薬剤濃度の検討を行った。その結果、ゼニゴケはイネやシロイヌナズナと比較して、はるかに高い濃度での薬剤処理が必要であった。この条件を見出すために当初の想定を上回る時間を要した。そのため研究がやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
相同組換え検出マーカーを導入したゼニゴケ系統に対して、ゲノム不安定化を検出するため、DNA二本鎖切断誘導試薬を用いた相同組換え頻度の解析を継続して進めている。さらに、エックス線、紫外線を照射した際の相同組換え頻度を検出することで、複合的な放射線が照射される宇宙放射線を想定した研究結果が得られると考えられる。またDNA修復酵素に変異を導入したゼニゴケを用いて同様の解析を行うことで、植物における放射線耐性メカニズムを明らかにすることができると考えられる。
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Causes of Carryover |
放射線の種類によって誘発されるDNA損傷に特異性が見られるか解析した結果について、平成26年10月に行われた研究集会において報告したところ、研究結果をより確かなものにするための異なる解析方法の提案があり、当初の計画を一部変更したため、未使用額が生じた。また平成26年度の計画通り組換え体ゼニゴケを作製したが、選抜薬剤の適正濃度設定に時間を要し、当初計画より遅れが生じたため、未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
選抜に遅れが生じた組換え体ゼニゴケの解析を継続して行うため、試薬等を購入する。また、本研究において得られた成果について、平成27年5月25日から29日に、京都にて開催される国際会議「15th International Congress of Radiation Research」にて発表を行うための参加費と旅費として使用する。
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Research Products
(4 results)