2012 Fiscal Year Research-status Report
宇宙放射線による筋運動の変調に関わる神経メカニズムの解析
Project/Area Number |
24620013
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
鈴木 芳代 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究員 (10507437)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
坂下 哲哉 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 研究主幹 (30311377)
簗瀬 澄乃 大東文化大学, スポーツ・健康科学部, 准教授 (90249061)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 放射線生体影響情報学 |
Research Abstract |
本研究では,宇宙放射線による筋運動変調の神経メカニズムを明らかにすることを目的とし,ヒトの心筋に類似した線虫の咽頭筋を対象として,1. 放射線影響解析実験と2. シミュレーションによる細胞機能予測とを組み合わせた実験解析系を構築する. 本年度は,当初計画に従い,「線虫の咽頭筋運動に対する放射線影響の解析と咽頭筋モデルの構築」に関する以下の2つの研究項目に取り組んだ. 1.(1) 線虫の咽頭筋運動に対する放射線影響を明らかにする(放射線照射実験): 原子力機構高崎量子応用研究所の放射線照射施設にて,線虫に宇宙放射線を模擬した粒子線を照射し,エサの咀嚼・嚥下を担う咽頭筋運動に対する放射線影響を調べ,線量応答及び,照射部位による影響の現れ方の違いなどを明らかにした. 2.(1) 線虫の咽頭筋運動時の筋電位を再現し得る実構造ベースの咽頭筋モデルを構築する: 線虫の咽頭の8 種20 個の筋細胞を個々にモデル化(数式として表現)し,実際の接続構造に基づいて各細胞間を電気的ギャップ結合で接続することで,実生物と細胞レベルで対応が取れる咽頭筋モデルを完成させた.各細胞の感受性や細胞同士の結合の強度(情報伝達量)といった各種細胞特性をそれぞれパラメータとして表現し,実生物から計測した咽頭筋運動時の筋電位データを再現するようにこれらの値を調整した.その結果,本モデルにより,線虫(野生型)から取得した筋電位を再現できることを確認した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,当初計画に従い, 1.(1) 線虫の咽頭筋運動に対する放射線影響を明らかにする(放射線照射実験) 2.(1) 線虫の咽頭筋運動時の筋電位を再現し得る実構造ベースの咽頭筋モデルを構築する の2つの研究項目を実施し,その成果は,国内外の学術講演会での発表及び学術雑誌への論文投稿に結びついた. 2.(1)については特に順調に進み,次年度から実施予定だった「咽頭筋モデルを用いたシミュレーションにより,咽頭筋運動変調に関与する細胞を予測する」研究(研究項目2.(2))に着手することができた. 以上から,本研究はおおむね順調に進展していると言える.
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度以降には,本年度実施した研究項目1.(1)及び2.(1)の次のステップとして,「酸化ストレス応答実験とシミュレーションによる咽頭筋運動変調メカニズムの解析」に関する以下の実験とシミュレーションを並行して実施する. 1.(2) 放射線による咽頭筋運動変調における活性酸素種(酸化ストレス)の関与の有無を明らかにする: 線虫の全身運動(移動)は放射線照射により低下するが,これには放射線照射により産生した活性酸素種の神経系への作用が関与している.そこで,放射線照射による咽頭筋運動の低下にも同様の機序があることを疑い,① 活性酸素種の一種である過酸化水素の溶液に線虫を曝露し,放射線による咽頭筋運動変調と同様の現象が観られるか調べる実験 及び,②酸化ストレス消去経路に異常がある突然変異体(daf-2,sod-2変異体等)に放射線を照射し,照射直後に停止した咽頭筋運動が回復し得るかどうかを調べる実験をそれぞれ実施する. 2.(2) 咽頭筋モデルを用いたシミュレーションにより,咽頭筋運動変調に関与する細胞を予測する: 本年度に構築した線虫の咽頭筋モデルに含まれる細胞の活動レベルを個別に/複数同時に変化させたり,筋細胞間のギャップ結合における情報伝達量を変化させた場合に,モデルの出力(筋電位)波形がどう変化するかを調べる.このようなシミュレーションにより,咽頭筋運動のリズム制御に強く関与する細胞を予測すると共に,咽頭筋運動を停止するための十分条件を探る. 最終的に,1.の実験と2.のシミュレーションの結果から予測された咽頭筋運動変調のメカニズムをもとに,「放射線による咽頭筋運動変調」への関与が強く疑われる細胞に着目した検証実験を提案する.本研究において得られた成果をまとめ,国内外の学術講演会及び学術雑誌にて発表する.
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
○ 線虫の咽頭筋モデルを用いたシミュレーション: 線虫の咽頭筋モデルを用いたシミュレーションに使用するシステムモデリングソフトウェア(現有物品)のライセンス更新を行う(消耗品費). ○ 線虫の放射線照射実験: 線虫の培養・実験観察用の消耗品(ディッシュ等及び試薬類)を購入する(消耗品費).また,線虫の筋運動を撮影した画像及び解析データを保存するため,大容量のデータ記録媒体を購入する(消耗品費). ○ 実験データの解析: 実験解析を効率的に進めるために,線虫を撮影した画像データの解析処理の補助のための実験補助員1名を充てる(人件費). ○ 研究打ち合わせ及び研究成果発表: 研究分担者2名と研究の進捗を定期的に確認し,研究の進め方を相談するための研究打ち合わせを定期的に実施する(国内旅費).また,国内外の学術講演会に積極的に参加し,研究成果を発表する(国内旅費,国外旅費,その他:成果発表費)と共に,研究成果をまとめた論文を学術雑誌に投稿する(その他:成果発表費).
|