2012 Fiscal Year Research-status Report
フォルマント抑圧音声を用いた母音の個人性知覚に関する研究
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24650137
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Research Institution | Tohoku Institute of Technology |
Principal Investigator |
伊藤 仁 東北工業大学, 工学部, 講師 (00436164)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 音声 / フォルマント / 知覚 |
Research Abstract |
人間は音声から話者の性別や年齢などの個人性を推定することができるが、その認知科学的メカニズムについては明らかになっていない。本研究では、この音声の個人性知覚メカニズムを解明するために、フォルマント抑圧刺激を用いた知覚実験を行う。平成24年度は研究計画に従って、科学警察研究所のディジタル音声データベースの孤立発話母音の音響特性を分析した。成人男女632名の話者が発話した日本語5母音からARX法を用いてフォルマント周波数を抽出し,個人性と関係する声道長パラメータを推定した。 次に、この結果に基づいて典型的な話者を選定し、これらの話者が発話した母音からフォルマント抑圧刺激を作成し、個人性の知覚実験を行った。その結果、人間が二つの定常母音を聞いて話者が同一であるか判断する能力は非常に高いこと(約80%),またこの能力は音韻の組み合わせや話者の声道長さに依存するが、この依存性は被験者間のばらつきが大きいことが明らかになった。 被験者間のばらつきの大きさの要因は,この様な刺激に対する音韻知覚能力が、研究計画を策定した時点での予測より大幅に高かったことにあると考えられる。即ち、自然音声の知覚ではフォルマントピークに対応する領域を抑圧しても、かなり正確に母音の音韻性を知覚できるらしい。この点について明らかにするために、帯域を制限した母音信号を作成して知覚実験を行う(平成25年度前期)。その後、この結果に基づいて個人性の知覚実験を再設計し、個人性の知覚メカニズムを明らかにする予定である(平成25年度後期)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画に記載した音声の音響分析,実験IとIIは完了している。しかし「研究実績の概要」に記載した通り、実験IIの結果は被験者間のばらつきが大きく、その要因を調べるために新たな実験が必要になった。平成24年度の後半からこの実験の設計を行っており、平成25年度の前期で完了する予定である。その後、当初計画していた実験IIIとIVを実行することになるため、現在は研究の推進がやや遅れていることになる。全体として、研究目的である個人性の知覚に関して、その大まかな能力は把握できたが、具体的なメカニズムには踏み込めていないことになる。平成25年度の研究で、この点を重点的に推進していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は3種類の知覚実験を行う。第1の実験は、音韻知覚に関係する周波数帯域を特定するため、低周波数と高周波数をカットした音声信号を刺激とした音韻性の知覚実験である。この実験は従来のフォルマント抑圧実験と比較して、知覚の手がかりとなる周波数帯域をクリアに推定できる可能性がある。また、第2,3の実験は研究計画の実験IIIとIVである。これらに関しても、フォルマント抑圧だけでなく帯域制限信号を刺激とした実験を並行して実行する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費は、実験を効率的に推進するための実験装置(PC、オーディオインターフェース、ヘッドホン)と、実験の被験者に支払う謝金、及び研究成果を発表する学会への参加費と旅費として使用する。研究計画よりも実験の総数が増えたため、期限内で研究を完了させるためには、実験装置の改良が必要である。また実験の数が増えたため、被験者に支払う謝金も増額せざるを得ない。これに伴って、学会への参加は数を減らすことを予定している。
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