2012 Fiscal Year Research-status Report
感情に関する言語ネットワークおよび記憶ネットワークのトポロジー解明に関する研究
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24650140
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
竹原 卓真 同志社大学, 心理学部, 准教授 (10347742)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 感情連想語 / ネットワーク / トポロジー |
Research Abstract |
人の記憶機能は認知科学のみならず、多くの研究領域とリンクしており、様々なモデルが提案されてきた。その中で、ネットワークモデルは近年顕著に発達した解析手法があるにもかかわらず、記憶のネットワーク構造の全容はおろか、そのトポロジーさえ明らかにできていない。本年度における研究は、感情に関する記憶構造のネットワーク・トポロジーを明らかにするための出発点として、まず感情連想語によるネットワーク・トポロジーを検証し、それがスケールフリーであるかどうかを確認することを主目的とした。 目的達成のため、本研究は基本的に実験を通じて実施した。感情連想語のネットワーク・トポロジー解明については、6基本感情を手がかり語として実験参加者に自由な連想を求め、心に浮かんだ名詞を1つ書き出させた。その全てのデータを集計し、2-modeネットワークを構築した。その結果、ネットワークの直径は数ステップという小ささであり、従来のスモールワールドネットワークを支持するものであった。2-modeネットワークにおける興味深い点は、ポジティブとネガティブの相反する手がかり語を仲介する感情連想語が見出され、このノードがネットワーク全体を維持している可能性が示唆されたことである。また、2-modeデータを1-modeデータに変換し、共起性の視点からネットワークを描画した。すると、やはりネットワークの直径は小さく、従来の研究結果を支持した。これらの結果から、感情連想語ネットワークは少なくともスモールワールド構造になっており、ランダムグラフや恣意的グラフとは明らかに一線を画する重要な規則的構造(トポロジー)を内包していることが明らかとなった。これにより、次のステップである感情語の記憶構造も同様か類似のトポロジーを有していることが予測できうる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究計画書作成時には、年度内に論文投稿まで行なう予定であった。しかしながら、本務校において極めて深刻な学生相談が同時的に多発し、学生主任としての職責の観点から彼らの相談に研究時間を割かざるを得なかった。それにもかかわらず、年度内にデータ解析を終了させ、3月には当初の予定通り海外の研究者(John Holden)とアメリカにて研究結果についてディスカッションを行なうことができ、本研究の有用性を再確認した。現在80%ほど完成している投稿論文の投稿先についても有益な情報を得ることができ、5月中には投稿する予定である。加えて、感情語記憶のトポロジー解明の研究推進も行ない、遅れを取り戻す予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、平成24年度で得られた感情連想語ネットワークの知見を元に、感情に関する意味記憶ネットワーク・トポロジーの解明にステップアップする。平成24年に度抽出した100~150個の感情連想語を用いて50名程度の実験参加者を募り、プライミング課題をベースとした記憶実験を行う。具体的には、感情連想語を総当りで一対提示し、プライム刺激とターゲット刺激の提示の際に時間差を設け、ターゲット刺激提示後の反応時間を測定し、プライム刺激とターゲット刺激との関連性を探る。そして、それらの関連性からネットワーク解析ソフト「pajek」を用いてネットワーク・トポロジーを明らかにし、ハブ・ノードの特定とネットワークの直径の計算などから、意味記憶のネットワークがスケールフリーやスモールワールドであることを検証する。さらに、可視化されたネットワークに対し、ハブ・ノードを1つずつ除去しながらネットワークの断片化を注視し、どのようなノードをどの程度除去すればネットワークの断片化につながるのかを特定する。そして、最終的に、ネットワークの断片化の結果を心理臨床場面に応用すべく、PTSD症状などの緩和のために様々な観点から応用・データ提供を行う。 これら一連の研究遂行には海外の研究者との連携が欠かせない。そこで、平成25年度は夏にドイツ・ブレーメン大学のArvid Kappas氏とミーティングを行ない、得られているデータについて様々な観点からディスカッションを行なう。同氏はは感情とネットワーク構造に関する論文をPLoS ONE誌に掲載しており、fruitfulなディスカッションが予測できうる。さらに、平成25年度に得られるデータは英語論文としてまとめ、海外の専門誌であるEmotion誌あるいはCognition and Emotion誌あるいはPLoS ONE誌に投稿することを予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度で大きな支出となるのはドイツ・ブレーメン大学で行なうArvid Kappas氏とのディスカッションへの旅費であり、約50~60万円を想定している。次に、実験参加者への謝礼が必要となり、20~30万円を予定している。また、論文掲載料が発生した場合には10万円程度を見込んでいる。それでも直接経費の限度額に達しない場合は、論文化する際の英文校正費としての支出を考えている。
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