2012 Fiscal Year Research-status Report
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24650147
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
金野 秀敏 筑波大学, システム情報系, 教授 (20134207)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 疾病の発症過程 / イオンチャネルモデル / 疾患モデル化 / 非線形確率過程 / 確率分岐 / パラメータ推定 / 記憶効果 / 疾患マーカ |
Research Abstract |
今年度は、まず、様々なイオンチャネルモデルや現象論モデルのパラメータが、LQT1からLQT3症候群の兆候とどんな対応関係にあるのか重点的に調べた。Beeler-Reuter モデルなどの多様なイオンチャネルのコンダクタンス値の変化が活性電位の波形や活性電位の持続時間にどのような影響を与えるのか明らかになってきた。しかし、これらのモデルでは、近年発見され、LQT3症候群の発症と深く関わっている遅いカリウム電流が考慮されていない。そこで、新しい8変数の簡約イオンチャネルモデルを作成して特性を検討している(統計数理研究所で結果の一部を発表)。この新モデルを使ったシミュレーションでは新しい時空変動特性が見えている。 特異点の確率過程の解析に関しては、特異点にも右巻きと左巻きの2種類があり、心室細動時にはこれらが対消滅する様子を正確に計数することができるようになった。これらの発生と対消滅の統計的性質とLQT症候群の型に明確な物理的、生理学的な対応関係の有無を検討中である。特異点以外の動的情報としてpredator 及び prey 変数(活性領域と不活性領域の面積比)を検討し、これらの時系列データのみから相乗性雑音と相乗性外力が印可されている確率ギンスブルグ・ランダウ方程式を用いてシステム同定でき、情報抽出可能であることが確認できた(統計数理研究所、および、AIP Congress 2012 で結果の一部を発表)。 神経系や心臓系のスパイク列を詳細に解析してゆく必要があるが、スパイクの発生過程には記憶効果が内在するが、理論が整備されていない。これらを改善するため、記憶のあるポアソン過程や一般化コーシー過程を考えその計数過程ならびに間欠性を解析する理論を考案した(結果は Advanced Stud. Theor. Phys. , 2012に公表、及びSSS12で一部発表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的の達成度はおおむね順調に進展していると自己評価している: (1)新しく研究を開始した8イオンチャネルモデルはセルモデルでの検討結果によれば、LQT1-LQT3症候群を物理的に解析するために適切なモデルと推定され、LQT3発症時の波形も実験に対応しているものが観察されるので関連する物理的かつ生理学的な考察が詳しく行える感触をつかんでいる。しかし、Beeler-Reuter model やAliev-Panfilov model その他の変数の少ないイオンチャネルモデルと比較して、計算負荷がかなり大きく、長時間の時空発展の動態を詳しく調べるためには数値計算の速度向上をはかる努力を行っている。 (2)predator -prey 変数を用いた活性領域と非活性領域の動的情報の同定も相乗性雑音を印可した確率ギンスブルグランダウ方程式でうまく同定でき、情報抽出がうまく行えることがわかった。異なるイオンチャネルモデルでの普遍性と有効性を検討している。一方、イオンチャネルモデルでの計算結果から、新しい動的な時空変動の発生が示唆されるので、単純な活性領域と非活性領域の分割法以外の新しい方法の検討も行っている。 (3)空間2次元系では複雑になりすぎる可能性があるので、空間1次元系において新しい素過程の存在を確認する検討も開始している。実際、空間1次元の空間拡散を考慮した複素ギンスブルグランダウ方程式ではショック解やホール解以外の非線形波動が内在することが明らかになってきている。 (4)様々な動的変数の確率過程に付随した確率密度関数が複雑な物理的相互作用の変化に伴って形状が変化する「確率分岐が発生する」ことを明らかにした。記憶のあるポアソン過程では裾の厚い分布待ち時間分布になり、また、計数分布も厚い裾を持つことを示せた。記憶のある一般化コーシ過程で間欠性の定量化する解析理論を発展させた。
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Strategy for Future Research Activity |
(I) 速いカリウム電流と遅いカリウムイオンを分離して導入した新しいイオンチャネルモデルはLQT/SQT症候群の解析に有望である感触をつかんだ。そこで、精力的に分岐解析を行い、突然死のリスク指標として有力視されているT交互波(T Wave Alternans)及びT波変動(T Wave Variability)などに関する徹底した非線形分岐の観点からの徹底した解析を行う。 (II) 心室細動状態の統計的記述では、特異点数の時間変動の確率過程モデルをハイパー・ガンマ過程で同定し、また、活性領域と非活性領域の時間変動を確率predator-preyモデルを簡約した複素ギンスブルグ・ランダウ方程式を用いてそのダイナミクスの特性抽出を行う方法を確立した。しかし、ひも状の活性領域の時空変動の定量化など、新しい特徴量の探索も試みる。 (III) 現象論モデルとして有名なFenton-Karmaモデルなどでパラメータ調整を行いイオンチャネルモデルの特性を模擬可能か否かの検討も試行する。これらは、疾病兆候の本質を決めている非線形特性の抽出につながる。 (IV) 心臓の活性ポテンシャルの生成過程でも計数統計の解析を行い、記憶の存在の定量化を行うとともに、頻脈の状態から心室細動への遷移領域での非定常過程の解析理論の確立を目指す。 (V) 神経疾患のひとつである統合失調症のイオンチャネルモデルを用いた解析の手始めに、2変数のMorris-Lecar モデルの検討を開始する。ランダムでスパースなニューロン結合の結果、高周波数領域における揺らぎ特性や、高周波数の応答特性への影響を考察するためである。記憶のあるポアソン過程では、計数統計の時間依存性が時間の非整数べきとなり、待ち時間分布にも厚い裾が生じ、ファノ因子も1を超えることを解明したが、多ニューロン系でイオンチャネルモデルを用いて解析する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(10 results)