2013 Fiscal Year Research-status Report
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24650147
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
金野 秀敏 筑波大学, システム情報系, 教授 (20134207)
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Keywords | 疾病の発症過程 / イオンチャネルモデル / 疾患モデル化 / 非線形確率過程 / 確率分岐 / パラメータ推定 / 記憶効果 / 疾患マーカー |
Research Abstract |
本年度は(1)多変量のイオンチャネルモデル数値解析に関しては様々な基礎的な検討を実行し、新しい型の非線形波動の複雑な特異点動力学のメカニズム識別理論を構築中である(一部はPhys. Rev E に発表、大半は未発表)。(2)心室細動状態の統計的記述では、従来、定常状態での解析が行なわれてきた。回転らせん波が1個存在する状態から心室細動の定常状態への遷移領域での特異点数の生成死滅過程を非定常マスター方程式及び一般化確率ロジステイックモデルを用いて解析した。非定常マスター方程式では飽和特性は模擬できず、一般化確率ロジステイックモデルでは良い一致を示した。Beeler-Reuter モデルの遷移領域で推定されたパラメータは定常状態で推定された値と整合することを検証した。遷移領域でのモデル構築と妥当性検証は世界初である(複雑系国際会議で公表)。(3)疾病マーカーとなり得る特異点速度の一般化コーシー過程で相互作用メカニズムが異なる数理モデルが複数個存在することを示した。また、2次系非線形モデルなら自己相関関数を用いて区別可能であることを明らかにした(国際シンポSSS-13及び統数研「ダイナミカルバイオインフォマテイックスの展開II」で公表)。(4)特異点数の生成死滅過程に「記憶効果が存在する場合に分布特性はどのように変化するのか」は明確にされておらず、また、システムが状態の急激に変化する転移点の近傍になったときどのような「ゆらぎ特性」が生ずるのかは明確になっていない。一般化生成過程及び一般化生成死滅過程のマスター方程式を用い、長期記憶のある場合の特異点の確率過程の解析理論を発展させた。また、臨界点ではゆらぎの分散は時間の非整数べきとなる(Adv. Stud. Theor. Phys. , Plys. Lett. A 及び統数研「非侵襲生体信号の解析・モデル化技術とその周辺」で公表)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1) イオンチャネルの数値計算結果の解析理論の整備は順調に進展してきているが、肝心の「より実体的な多変量・多重スケール・イオンチャネルモデルの数値計算」の数値データの解析と研究の主目的である「疾患の発症過程の解明」には至って居ない。この主たる理由は、実体的な多変量・多重スケール・イオンチャネルモデルの数値計算がセル1個の場合は何の問題もないが、多セル結合系の数値計算の計算負荷がかなり重いことも関係している。特に、特異点の軌跡を詳細に解析して精度を高めようとすると①時間空間発展のデータを生成するための計算負荷、②データの保存機器のスペース不足、③新しい非線形素励起の発見と同定方法の確立、④画像処理に拘る計算負荷の増大、⑤疾病過程に関するモデル計算の際の適切なパラメータチューニング、等の問題があった。メカニズムの識別理論が進展しているので研究の進展に期待している。 (2)上記の数値データの解析理論、すなわち、特異点の非線形確率過程のダイナミクスのより詳細な物理的メカニズムを含めた定量化の情報抽出は (a) 記憶効果、(b) 有色雑音の効果、(c) 非線形相互作用、(d) 非定常状態での把握、(e) 多様な非正規分布を有するシステムの分布関数の同定といった総合的な観点から実行する理論体系を整備できてきている。 (3)一方で、様々な心臓疾患の心拍変動時系列データから長期記憶効果を抽出する試みも行なっており、疾患の実体との上記のイオンチャネルの数理モデルを用いたアプローチとの接点を持つ努力を行っている。すなわち、イオンチャネルの数理モデルの特質を用いて議論ができない生体揺らぎと疾病発症過程の関係を明確にしている。実際、心拍の実データの長期記憶特性をミッタグレフラー関数で特徴付けることが可能になりつつあり、また、個人差の問題がどの程度あるのかを実データから考察中である。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)様々な心筋ダイナミクス用イオンチャネルモデルの疾病過程のパラメータ調整を行い、異なる疾患群がどのようなメカニズムの違いによって発生するのかを計算機シミュレーションで発生させた時空変動から詳細に同定するための詳細なモデル構築方法が進展してきていおり、電圧の関数として電流値の絶対値がそれぞれどのような値をとるかは解析が済んでいる。今後の問題はどのイオンチャネル電流の相対的な増減が時空パタン形成にどう影響するかを明らかにし、特異点や特異点の寿命との因果関係を定量化して明らかにすることである。「特異点の非線形相互作用のメカニズム」の違いが特異点数の分布関数の形状や寿命分布の形状にどのように反映するかを検討し、疾病発症メカニズムと「特異点の非線形相互作用メカニズム」の物理的ならびに生理学的対応の研究を推進する。 (2)前年度は神経疾患のイオンチャネルモデルのダイナミクスに関する調査と最も簡単なイオンチャネルモデルの特性解析を開始した。ニューロンのイオンチャネルダイナミクスに関しては、心筋のイオンチャネルダイナミクスとは異なる視点の導入が必要であることがわかってきた。ヒトやネズミなどの脳の小さな領域で回転らせんはの発生が確認されてきている。脳では神経回路網の結合が局所結合だけでなく、いわゆる大局的な「ネットワーク結合」で構成されている。イオンチャネル病に分類される疾患の発生と局所結合と大局結合の存在割合の考察も検討課題としてあげられる。 (3)今後の研究の新しい視点として、外部刺激を導入することによるシステムの制御に関する考察も行う。心臓ではペーシングによる制御が従来から行われているが、その理論的根拠については必ずしも明確になっていないからである。例えば、「特異点のダイナミクスが特殊な外部刺激及びフイードバックでどのように変質するか」などは臨床応用にとって有益な情報となる。
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Research Products
(14 results)