2013 Fiscal Year Research-status Report
母親の高脂肪食摂取が胎児の神経発生と行動に及ぼす影響:発達障害のモデルとして
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24650180
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
仙波 恵美子 和歌山県立医科大学, 医学部, 教授 (00135691)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山野 眞利子 大阪府立大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (80192409)
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Keywords | 発達障害 / 高脂肪食 / オレキシン / 神経新生 / エピジェネティクス修飾 / 超音波発声 / 不飽和脂肪酸 |
Research Abstract |
妊娠6日目~出産まで母親に高脂肪食(High Fat Diet:HFD)を与えると、生後8週頃から雄の仔マウスが過活動を示すことを見出した。母親の高脂肪食により胎児脳のneurogenesisが影響を受け、特に視床下部のOrexinニューロンが増加しており、Orexin1受容体(OXR1)のantagonistを投与すると、過活動が抑制されることを明らかにした。 今年度は、高脂肪食を与える時期と脂肪酸の組成による影響について検討した。 普通食を与えた母親から生まれた仔マウスをND群、妊娠中期に高脂肪食を与えた群をHFD(中期)群、妊娠中期以降に高脂肪食を与えた群をHFD(中期+後期)群とし、各群の自発運動量を測定すると、HFD(中期)群はND群の2.27倍、HFD(中期+後期)群はND群の1.44倍であった。このことは、妊娠中期の高脂肪食摂取が仔の過活動に影響を与えることを示す。 HFD群については妊娠6日目から14日目にオレイン酸22%の餌を母親に与えた群 (O-HFD群)、パルミチン酸19%の餌を与えた群(P-HFD群)、ラード食を与えた群(L-HFD群)の3群に分けた。生後3か月目の自発運動量を測定すると、ND群に対してP-HFD群が1.19倍、L-HFD群が1.65倍、O-HFD群が1.92倍であった。このことは、妊娠期の不飽和脂肪酸の過剰摂取が仔の過活動に影響を与えることを示す。L-HFD群、O-HFD群とも視床下部のOrexin細胞数がND群に比べて有意に増加していた。HFD群の過活動は、OXR2の選択的なブロッカーによっても抑制されることがわかった。 胎生期のneurogenesisについては、HFD群の胎仔の大脳皮質ではND群に比べ神経細胞への分化を示す細胞が多く、またH3K9のアセチル化が有意に増加しており、エピジェネティックな変化が関与する可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、昨年度の成果を踏まえてさらに詳細な検討を行い、妊娠期のどの時期に高脂肪食を与えると仔の自発活動量が最も増えるか、脂肪の中でどのような脂肪酸が最も自発活動量の増加に影響を与えるか、ということについて興味深い結果を得ることができた。時期については、妊娠中期に高脂肪食を与えた場合に自発運動量が増加したことから,妊娠中期の高脂肪食摂取が影響を与えると考えられる。マウスの場合,妊娠14日目から胎児の神経分化が活発になり,17日目頃には神経分化はほぼ完了する。妊娠中期は14日目からの神経分化の準備期といえる。妊娠中期に母親が高脂肪食を摂取することで胎盤を通して脂肪成分が胎児の血液中に移動し、多量の脂肪に暴露された結果胎児環境が変化し、神経分化に影響を与えたと考えられる。 また、脂肪の組成については、これまでの我々の研究において、妊娠中期以降にラードを主成分とした脂肪エネルギー比率 50%の高脂肪食を与えた母親から生まれた仔において、オレキシン神経細胞数が増加し、さらに自発運動量も増加するということを明らかにした。 ラード100g中には飽和脂肪酸40g、一価不飽和脂肪酸45g、多価不飽和脂肪酸11gが含まれている。そこで本研究では飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のうち, どの脂肪酸が自発運動量や多動の発現を引き起こしているかを検討する目的で,、飽和脂肪酸からはC16:0のパルミチン酸を、一価不飽和脂肪酸からはC18:1のオレイン酸を選んで餌を調合し妊娠マウスに与えた。その結果、飽和脂肪酸ではなく一価不飽和脂肪酸が影響していることがわかった。一般的には、不飽和脂肪酸の摂取が動脈硬化予防などの観点から推奨されているが、不飽和脂肪酸の方が胎児脳の形成に関しては影響を与えやすいことがわかり、社会的な影響も大きいと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの検討により、オレイン酸,すなわち一価不飽和脂肪酸の過剰摂取がオレキシン細胞の分化が促され,オレキシン細胞数が増加した結果、オレキシンにはドーパミンやアドレナリンなどのカテコールアミンの生合成促進作用があるので、仔マウスの行動量増加を引き起こしたと考えられる。今後脳内カテコールアミン系の変化、特に腹側被蓋野から側坐核に至る脳報酬系のドーパミンについても検討していく必要がある。 また、体重・体長・身体能力などの生後発達と、超音波発声を指標にした社会性の発達についても検討を進める。 胎生期におけるneurogenesisについてはこれまで、免疫多重染色を中心に検討を進めて来たが、今後は神経細胞への分化のマーカー、ヒストンのアセチル化抗体を用いて、Western blottingを行い、定量的に解析を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
Western blotting用の試料(胎児脳)の採取が遅れたため。 Western blotting用の抗体の購入に充てる。
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