2012 Fiscal Year Research-status Report
DREADDシステムを用いたシナプス成熟技術の開発
Project/Area Number |
24650183
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Research Category |
Grant-in-Aid for Challenging Exploratory Research
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Research Institution | National Institute for Physiological Sciences |
Principal Investigator |
田渕 克彦 生理学研究所, 大脳皮質機能研究系, 教授(兼任) (20546767)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 神経実験形態学 |
Research Abstract |
ヒトM3ムスカリン様アセチルコリン受容体のアセチルコリンに対する親和性を除去し、外来薬剤clozapine-N-oxidase (CNO)に対してのみ反応するような変異を加えたタンパク質(hM3Dq)のN末にHAエピトープタグを付加した遺伝子を、CAGプロモーター発現ベクター(pCAGGS)に挿入したコンストラクトを作成し、子宮内エレクトロポレーション法によりEGFPマーカーコンストラクトと共に大脳皮質II/III層の錐体ニューロン特異的に遺伝子導入を行った。遺伝子導入マウスが成熟した後還流固定を行い、脳切片においてHA抗体による免疫染色を行い、遺伝子導入細胞でhM3Dqが発現していることを確認した。hM3Dq遺伝子導入成熟マウスに5 mg/kg のCNOを腹腔内投与し、90-120分後に還流固定を行い、脳切片に対してc-fos抗体による免疫染色を行った結果、CNOによりhM3Dq導入ニューロンの活動が誘発されたことを検出した。 また、シナプス成熟因子として知られる膜タンパク質Neuroligin-1の細胞内領域にEGFPを付加したコンストラクトを、子宮内エレクトロポレーション法によりDsRedマーカーコンストラクトと共にマウスの大脳皮質II/III層の錐体ニューロンに導入した。Neuroligin-1のマーカーであるEGFPのシグナルが、DsRedで標識された導入ニューロンのシナプス棘突起に集積する像が検出された。 また、Neuroligin-1のノックアウトマウスの脳組織を用いて凍結割断レプリカ免疫電顕を行い、シナプス膜表面でのNMDA受容体の密度が低下していることを見出した。 本研究で、マウス個体において、外来薬剤投与によりシナプス活動を人工的に操作する手法の確立に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は、DREADDと呼ばれるアセチルコリン受容体に変異を加えてアセチルコリンに対する親和性を除去し、clozapine-N-oxidase (CNO)に対してのみ反応を示すGタンパク共役型受容体を、マウスの中枢神経系のニューロンに遺伝子導入し、生体でのニューロン活動を薬理学的に操作し、その結果としてシナプスの成熟を促す技術の開発を目指した挑戦的なものであり、2年間のプロジェクトとして計画したものである。これまでのところ、子宮内エレクトロポレーション法により、大脳皮質II/III層の錐体ニューロン特異的にin vivoで遺伝子導入し、HA抗体による免疫染色により導入細胞におけるhM3Dqの強い発現を確認できた。そして、CNO投与後にc-fosの上昇を検出しており、薬理学的に神経活動を操作するシステムの確立に成功している。 また、シナプス成熟の指標としてカギとなるシナプス接着因子Neuroligin-1のin vivoでの遺伝子導入にも成功し、EGFPによりシナプス後終末で強いシグナルを検出できている。更に、Neuroligin-1ノックアウトマウスの脳組織の凍結割断レプリカ免疫電顕で、NMDA受容体のシナプス膜面での密度の低下を検出したが、これは当初に計画していた以上の進展であると考えられる。 以上の点から、1年目として当初の計画以上に進展していると考えられる。 今後の課題として、CNO投与後のhM3Dq導入ニューロンにおいて得られているc-fosのシグナルはそれほど強いものではないため、改善策が必要である。要因として考えられるのは、CNO投与後にhM3Dqによる神経活動が最も活発化する時間に還流固定を出来ていない可能性がある。このため、培養細胞においてCaイメージングなどと組み合わせて、CNO投与後の神経活動のタイムラインを検討する実験を平成25年度に行うことにする。
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Strategy for Future Research Activity |
子宮内エレクトロポレーション法を用いて、hM3Dqをマウスの脳にin vivoで導入した系において、CNOにより神経活動の誘発に成功したものの、誘導したc-fosの発現は予想したものより弱かった。このことを踏まえて、hM3Dqによって誘発されるシグナルの誘導状況を精査する必要があると考えられる。このため、まずHEK293細胞にhM3Dqを導入し、培養液にCNOを添加し、hM3Dqシグナルのセカンドメッセンジャーであるカルシウム濃度について、カルシウムイメージングを行いCNOの至適濃度、カルシウム上昇がピークとなる時間などについて解析を行う。また、培養神経細胞を用いて同様の実験を行う。このとき、synapsin, VGlut1, VGAT, PSD-95, AMAP受容体、NMDA受容体などのシナプスマーカーの抗体で免疫染色を行い、シナプスの数や大きさ、シナプス膜表面受容体の動態について解析する。これらの結果に基づいて、子宮内エレクトロポレーション法によってhM3Dqを大脳皮質の錐体ニューロンに導入したマウスに対してCNOを投与し、還流固定後上記シナプスマーカーによる免疫染色を行い、シナプスの成熟状態について解析を行う。さらに急性スライスを作成し、パッチクランプ法によりシナプスの微小電流、AMPA/NMDA受容体比、NMDA受容体のサブユニット組成などシナプス成熟の指標となるパラメータについて解析を行う。また、野生型および変異型NeuroliginコンストラクトとhM3Dqを共導入し、CNOによるシナプスの活動の誘導が、野生型Neuroliginによるシナプス成熟効果、変異型Neuroliginによるシナプス成熟の阻害効果に与える影響について解析を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究では、個体および培養の系において遺伝子導入を行い、これら導入遺伝子コンストラクトの作成・精製のための酵素や精製カラムなど、遺伝子工学関連消耗品の購入が必要となる。また、シナプス成熟を形態学的にモニターするために、相当種類のシナプス分子マーカーの免疫染色を行うために、これらの1次抗体および2次抗体の購入が必要となる。電気生理学的解析において、試薬や電極などの消耗品に加え、マニピュレーターなどの周辺装置の購入も予定している。また、マウスを用いた実験を行うために、マウスの飼育のための予算が必要となる。情報交換や成果報告のために学会などに参加する予定である。このための旅費も必要となる。 上記の目的に予算を使用する予定である。
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Research Products
(7 results)