2012 Fiscal Year Research-status Report
知覚情報処理時のサブネットワーク構造に注目した神経修飾物質の機能解明
Project/Area Number |
24650252
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 宏知 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (90361518)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 知覚 / 聴覚 / 神経活動 / 同期 / 迷走神経刺激 / 神経修飾物質 / 大脳皮質 / 微小電極アレイ |
Research Abstract |
セロトニンやアセチルコリンなどの神経修飾物質は,脳の情報処理にグローバルな影響を与える.例えば,覚醒状態はこれらの物質のバランスに依存する.また,うつ病,双極性障害,統合失調症などの感情障害の研究でも,神経修飾物質の役割が注目されている.さらに,知覚も,これらの物質の影響を受けている.本研究の目的は,ラットの聴覚皮質の神経活動において,神経修飾物質が,情報処理の機能集団の形成と安定性に及ぼす影響を明らかにすることである. 迷走神経刺激 (Vagus Nerve Stimulation; VNS) は,セロトニン系やノルアドレナリン系を介して,大脳皮質の神経活動に広範な調整作用を及ぼすと考えられている.本研究では,4 mm角に10 × 10の計測点を持つ微小電極アレイを用いて,ラット聴覚皮質第4 層におけるLFP を計測し,VNS がLFP の局所的な同期に与える影響を調べた.その結果,VNS は,脳活動の同期度が低い健常状態では同期を促した.逆に,カイニン酸の投与によりてんかん発作状態を誘導し,脳活動の同期度を異常に増大させると,VNSは脱同期を促すことがわかった.また,健常状態における同期は,高い周波数帯域において,計測点間の距離が1.6 mm 程度の時に最大となった.一方,発作状態における脱同期化作用は,低い周波数帯域において,計測点間の距離に伴い大きくなった.このことから,健常状態のVNS は,領野内の局所的な同期を促し,情報処理能力を向上させる効果を有することが示唆される.一方,発作状態のVNSは,領野間の広域的な脱同期を促し,発作の伝播を抑制していることが示唆される.したがって,VNSには,状態依存的に脳の状態を調整し,恒常性を維持する作用があると考える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,ラットの聴覚皮質の神経活動において,神経修飾物質が,情報処理の機能集団の形成と安定性に及ぼす影響を明らかにすることである.過年度は,ラットにおいて,迷走神経刺激の実験手法を確立し,迷走神経刺激が大脳皮質の局所的な同期に影響を及ぼすことを明らかにした.この成果により,実験構想のフィージビリティーが示された.次年度は,機能集団の形成と安定性を考察するが,その礎が整った.
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Strategy for Future Research Activity |
過年度の成果を踏まえ,様々な条件下において,神経修飾物質が,どのように,神経活動の機能集団の形成と安定に影響を与えるかを調べる. 具体的には,ニューロメトリーを利用して,サブネットワーク構造の特徴(機能集団の形成されやすさ)と経時変化(機能集団の安定性)に注目する.すなわち,同図の音脈分凝の境界から,大きな集団(一つの音脈)が形成されやすくなるのか,複数の小さな集団が(二つの音脈)形成されやすくなるのかを検証する.また,知覚交替する刺激音を利用して,機能ネットワークの時間的なばらつきから,その安定性を検証する.例えば,ヒトの遺伝子型と知覚交替の起こりやすさの研究から,ドーパミンは機能集団を不安定化にし,逆に,セロトニンは安定化することが予測される.形成されやすい機能集団の大きさは,先行研究による知見に乏しく,予測できない. 最後に,これまで調べた機能集団の形成と安定性が,どのように知覚に関わるかを行動実験で検証する.一音脈に聞こえたら右のレバー,二音脈に分凝したら左のレバーを押すように,ラットを調教した後,ラットの行動から刺激音の実際の知覚を推定し,生理実験の結果と関連付ける.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
動物実験の費用として引き続き使用する.
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