2012 Fiscal Year Research-status Report
積層法による生体適合性ハイドロゲルの傾斜機能化技術の構築
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24650277
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
鈴木 淳史 横浜国立大学, 環境情報研究院, 教授 (90162924)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | ハイドロゲル / 結晶性ポリマー / キャストドライ法 / 積層法 / 傾斜機能化 |
Research Abstract |
生体適合性のある代表的な結晶性ポリマーの一つポリビニルアルコール(PVA)のゲル化方法として、申請者らが開発したPVA溶液の室温乾燥法(キャストドライ法)を用い、特殊な化学物質を使用せず、ゲル化時に目的とする機能性物質をゲル網目に物理的に担持することができる。本研究では、物理架橋PVAゲルの高機能化の実現を目指し、積層法により表面とバルクの構造や組成を独立して変化させることの出来る傾斜機能化技術の確立を目指している。そのために、前年度は、単層PVAキャストゲルの微結晶の大きさ・数・分布を制御するための作製条件を確立し、医用材料としての用途展開を視野に入れ、機能性物質の担持条件を検討した。 成果の詳細は次の通りである。(1) 高重合度・高ケン化度のPVA粉末を純水と高温で溶解して15 wt%PVA水溶液を作製した。この水溶液をポリエチレンシャーレに適量流し入れ、含水率が一定になるまで大気圧室温下で静置し、ディスク状の試料を作製し、乾燥時の温度・湿度、異なる通気性の環境下など、乾燥条件を変化させて様々な試料を作製した。PVA水溶液に機能性物質を添加し、その添加効果を調べた。(2) フーリエ変換型赤外(FT-IR)分光光度計とX線回折(XRD)装置を用いて網目の構造解析を行ない、微結晶の大きさ・数・分布を見積もった。さらに、示差走査熱量測定装置(DSC)を用いてゲル中の水素結合および微結晶の結晶化度を評価した。(3) 力学特性評価装置により強度(引張り、引裂、圧縮)の測定を行なった。ゲルを純水中で平衡に達するまで十分膨潤させた後に、室温下で純水中にてそれぞれの強度試験を行なった。(4) PVA水溶液に機能性物質を添加し、その添加効果を調べた。膨潤比と強度の変化、微結晶の形成機能の阻害・促進因子を検討し、PVAキャストゲルに担持可能な機能性物質に求められる特性を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PVAゲルは生体適合性を有し、薬物徐放剤や人工血管、人工関節などの代替材料として期待されており、多くの研究成果が報告されている。その膨大な研究成果のほとんどは、繰り返し凍結解凍法による物理架橋PVAゲルである。PVAキャストゲルの作製方法は申請者らが開発した独自の技術であり、このゲル自身のもつ物理・化学的性質(微細構造と機能)を実験的に明らかにして、ゲル化の完了する前に多層化することによりゲルの構造と機能を人工的に制御するための原理を構築する点を大きな特徴としている。特に、傾斜機能化については、希薄な固体のゲルではこれまでに研究報告が少なく、また傾斜機能化への試みもほとんど注目されてこなかったという点で、その波及効果は非常に大きい。本研究を通して、特異な網目構造をもつ希薄な固体としてのハイドロゲルの特異な構造と機能を、水系の新しい素材として時代のニーズに適合したもの作りに活かすための基礎を構築する点に意義があると考えられる。PVAキャストゲルは、従来の繰り返し凍結解凍法による物理架橋PVAゲルとは性質が異なっている。前年度の研究により、PVAキャストゲルの作製条件、機能性物質の添加効果が明らかになり、添加分子によらず膨潤比は改善されるが強度が低下することが示された。また、強度の中でもPVAキャストゲルの引裂エネルギーが、従来の繰り返し凍結解凍法によるPVAゲルの約10分の1であることが判明した。そこで、積層化により傾斜機能化を達成して、膨潤比と強度に優れたハイドロゲルを得るためには、キャストドライ法のみならず繰り返し凍結解凍法との併用により、当初の目的を達成できる可能性が出てきた。以上の観点から、計画は順調に進んでいるが、最終目標の達成には当初計画にさらに一工夫が必要と考えるに至り、上記の自己点検結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の単層PVAキャストゲル(純粋PVAゲル、および機能性物質担持PVAゲル)の作製条件と微結晶形成能の実験結果を元に、積層法による傾斜機能化技術を確立する。当初の研究計画に沿って、次の項目について多層PVAキャストゲルの作製に関する研究を推進する。(1) 純粋二層PVAキャストゲルの作製、(2) 異種二層PVAキャストゲルの作製、(3) 異種多層PVAキャストゲルの作製、(4) 傾斜構造を持つPVAキャストゲルの作製。 さらに、PVAキャストゲルの力学特性をさらに詳細に評価し、積層による力学特性と微視的網目構造との相関を検討し、含水率が大きく、力学特性に優れた多層ゲルの作製方法を確立する。従来の繰り返し凍結・解凍法による物理架橋PVAゲルとの特性の相違を明確にし、キャストドライ法のみならず繰り返し凍結解凍法との併用により、最終目標のゲルの特性を引き出す方法を検討する。 以上の結果から、ハイドロゲルの積層化ならびに傾斜機能化技術による高分子網目の微細構造と力学特性をまとめて、新規機能の発現と生体適合性材料としての用途展開の可能性を総括する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前年度に引き続き、試料原料等としてPVA粉末、機能性物質、試料作製に使用する試薬、超純水用イオン交換フィルター、ガラス/プラスチックス器具として試料作製関連器具(ビーカー、ガラス管、ポリエチレンシャーレなど)を購入する。力学特性評価装置は、本研究室内での自作の装置を改良して使用する。この改良は,測定の精度を向上させるためのもので,設計から組み立てまで材料・部品を購入して自作するために、測定装置の自作に必要な精密ステージなどの機械部品を購入する。PVA粉末は企業から無償で提供を受けることができたために前年度に残額が出たが、これは、当初計画にはなかった測定装置の本体材料と部品の更新に使用する。さらに、申請者が所属している、高分子学会、日本MRSを初めとした、本研究成果に関連のある学会の国内会議および国際会議に出席し、研究成果を発表するための旅費宿泊費、ならびに資料整理や技術支援のための研究補助者への謝金として使用する。
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