2013 Fiscal Year Research-status Report
低ドースイオン注入によるバイオイメージング用ナノダイヤモンドの創成
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24650278
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
犬伏 俊郎 滋賀医科大学, 分子神経科学研究センター, 非常勤講師 (20213142)
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Keywords | ナノダイヤモンド / イオン注入 / ナノ素材 / 金属イオン / ヘリウム / 蛍光 |
Research Abstract |
ナノダイヤモンドは物理的・化学的に極めて安定な材料であり、生体イメージングプローブの母材として生体に適合する最適な材料である。ナノダイヤモンドが持つこの特性に注目し、化学的な手法では内部あるいは表面に導入することが困難な元素を、イオン注入技術を用いて導入する試みをおこなってきた。その結果、一定の検出感度を有する磁性材料、蛍光材料としての性能をナノダイヤモンドに付与することに成功し、生体プローブ試作への応用を試みるに至っている。しかし、イオン注入の条件としてはこれまでは高ドーズ量に偏っており、ダイヤモンド骨格の構造を破壊することなくナノダイヤモンドとしての性能をできるだけ維持するという観点から、より低ドーズ側にも感度的に有利でありかつ生産性の高い条件が存在する可能性がある判断されるようになった。当該研究では、低ドーズ領域における磁性や蛍光ナノダイヤモンドを作製するためのイオン注入条件や、その後の熱処理条件を探索し、同時にその原理について明らかにしようとしている。 これまでに実験において、注入イオンを幅広く探索するとともに、イオン注入後の熱処理に関わる条件、すなわち、焼成温度と加温時間を幅広く探索し、次の点を明らかにしてきた。すなわち、ナノダイヤモンドに対する遷移金属やヘリウム、窒素のイオン注入技術を確立するとともに、ナノダイヤモンドのシリコンウェハ上に均一な膜厚で塗布する技術を確立し、再現性のよい定量的なイオン注入を可能にした。イオン注入は損傷を分散させると同時に注入元素がナノダイヤモンドに均一に分布するような手法を編み出した。さらに、最大の蛍光強度を得るための焼成温度と焼成時間を見出した。これらの基盤技術をもとにさらに高機能の磁性や蛍光を持つナノダイヤモンドの創製を目指し、シリコンなどの新しいイオンの注入を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今まで顧みられてこなかった低ドーズイオン注入条件による磁性、蛍光ナノダイヤモンドの創製を目指し、高ドーズ注入条件における磁性の感度、蛍光の発光強度を超える性能が発揮できるか実験的・理論的検証を行ってきた。 実験的には原料となるナノダイヤモンドの製造方法を詳しく検討した。これまでのところ、爆発法により合成されたナノダイヤモンドは原料の組成や含まれる不純物に極端なばらつきがあり、様々なイオンの注入を試みたものの、安定な蛍光を得るまでにはいたらなかった。そこで薄膜法から作成した高純度のナノダイヤモンドを選択し、注入に使用するイオン種としてCu、Fe、Co、Mnなどを重点的に探索した。イオン注入条件や焼成条件の精査により、これまでに高ドーズイオン注入で得られた磁性・蛍光ナノダイヤモンドよりも優れた性質を発揮するナノダイヤモンドを作製することができた。しかしながら、その性能は選択した出発物質に依存することも明らかとなった。 これらの結果、高機能性ナノダイヤモンドの作製が可能であることが示唆されるとともに、低ドーズであるがゆえに、表面の損傷に起因する溶解度の低下、および、試薬生産のコストという観点からも有利な結果が期待されることも明らかになった。また、蛍光においてはどの発光センターを特定し、その創成のための条件を論理的なアプローチから探索した。 このような実験的・理論的アプローチから導かれるナノダイヤモンドに対するイオン注入技術を確立したことにより、再現性のよい定量的なイオン注入が可能となった。その結果、物理的性質が安定した一定の品質のイオン注入ナノダイヤモンドが得られ、その熱処理法と化学処理法を幅広く探索することができた。このような新たなナノダイヤモンド作製の手法を確立したことにより、更なる改良や化学的な表面修飾の可能性も示唆される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに確立した様々なイオン種の注入手法に基づき、遷移金属を含む複数のイオン種の注入ナノダイヤモンドを作製してその蛍光発光を観察し、実用になる強度の発光を示す元素(共注入含む)をHeやNの共注入により空孔濃度を制御しつつ抽出するとともに、それらのメカニズムについて実験的な傾向を把握し、その蛍光発光の原理を解明する。 イオン注入のナノダイヤモンドに対する損傷導入とN、Siの同時注入において、発光センター生成の効率と注入条件、熱処理条件の関連性を詳しく解析し、発光センター生成のメカニズムをMRIならびに生体蛍光測定装置を用いて定量的に評価する。ここで確立した手法に基づき、遷移金属をはじめとする複数のイオン種の注入における蛍光発光を観察し、実用になる強度の発光を示す元素(共注入含む)を抽出するとともに、それらのメカニズムについて実験的な傾向見出す。 これまでのところ、爆発法で合成したナノダイヤモンドは出発原料の組成や含まれる不純物に極端なばらつきがあり、様々なイオンの注入を試みたものの、安定な蛍光を得るまでにはいたらなかった。そこで薄膜法から作成した高純度のナノダイヤモンドを用い、注入に使用するイオン種としてSiを新しく加え、高輝度蛍光を発揮するナノダイヤモンドの作製方法を重点的に探索する。 注入金属イオンの性質が発揮されたナノダイヤモンドはその磁性にも着目し、遷移金属イオン注入ナノダイヤモンドの強いMRIにおけるT2短縮効果で確認する。 中でも、Siの注入は予想外の特徴的な強い蛍光が観察され、その蛍光波長からこれまでのNVセンターとは異なる新しい発光センターが創生されたと考えられる。今後はこのSi注入を視野にいれて研究を推進する予定でいる。
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